今日は「言い合い」というテーマで。
日本人というのは、えてして他人とぶつかり合うこと、主張をぶつけ合うこと、言い合うことを好みません。そうして衝突が起こってしまうと、人間関係を修復するのは非常に困難になるし、その壊れた人間関係は後を引きずります。
例えば、「ピッチの中と外は違うんだ」と意識の上ではわかっていても、実際ピッチ上で言い合いが起きたり喧嘩になったりしたら基本的には間違いなくそれはピッチ外での人間関係にも影響します。それが「プロ」であろうと「アマ」であろうと、それが日本の根本的な価値観であり、概念であると僕は思います。
スペイン人は違います。
僕が今季、9部のリーグを戦っているうちの1試合で、こんな一幕がありました。
僕のチームには、あまり動かないタイプのFWが1人いました。でも彼は、点を決める。最終的にはチーム得点王になった選手です。28試合で14ゴールを決めた、十分な活躍をしたFWの選手です。
ある日の試合で、彼は前半のうちから2ゴールを決め、試合も僕たちの一方的な展開で前半だけで3-0とリードしていました。
ですが、その日2ボランチの片方を務めていた選手は、再三前線からのプレッシングの際にそのFWにプレッシングの注文をつけていました。「お前は相手のボランチにボールが入ったらサンド(挟み)に来い!」と。しかしそのFWの選手は幾分走らない選手。そんな守備での労働に関心を置くはずもありませんでした。
そして、前半が終わり、ロッカールームに引き揚げたところで、事は起こりました。
そのボランチの選手が、守備をあまりにもしないFWの選手に激昂。罵倒するくらいの勢いでドウドウと責め始めました。「お前はスペイン語を理解しているのか?」「俺は何度お前に『戻ってこい』と注文をつけた?」「俺の話が聞こえているのか?」。語調は強くなり、しまいには「ふざけるんじゃねぇ!」と、そのボランチの選手がロッカールームから出て行ってしまいました。
そのFWの選手も選手で「勝っているし、あそこまで戻る必要はないだろう」と反論。
ロッカールームは、他の選手も交えて大激論。ヒートアップしすぎて、一時は騒然となりました。
僕は、ただ唖然。
「どうしてこんなに熱くぶつかり合えるんだ?」
勝っていて、点を取ったのはそのFWの選手。日本だったら、そいつにいちゃもんをつけることなんてまず考えられない。
日本では、ピッチの上でもなんとなく「ヒエラルキー」が存在していることもあって、そのヒエラルキーに沿って意見の重要度が決まります。そういうこともあって、「得点を取った選手」はヒエラルキーでいえば高いランクづけになり、そんな選手に意見できるのは監督だけになります。
僕はまったくもってその考えが好きではありませんが、それが「日本サッカーの現実」です。
スペイン人は、そんなもの関係ありません。全員が勝ちたいし、勝つために必要だと思ったことを誰彼かまわず言うし、主張します。
そして、そこでぶつかり合うことが、後に引きません。試合が終わったら、普段通り握手をします。
フットボールに、「無条件に」熱くなれる。「無条件に」結果に、勝利に集中できる、執着できる。
それが、この国の「強さ」の一つになっている気がしてなりません。