今週の水曜日チェルシーのホームで行われたCLバルサ対チェルシー第2戦。


グアルディオラが執った策は、CBに本来はボランチのヤヤ・トゥーレを配置する、という策だった。フォーメーションはいつも通り4-3-3。GKにビクトル・バルデス、DFは左からアビダル、ピケ、ヤヤ・トゥーレ、ダニ・アウベス。そして中盤にブスケッツ、ケイタ、チャビ。怪我で出れないアンリの代わりに左WGにイニエスタ、右にメッシ、真中にエトー。


対するヒディンクはホームの利を利用し、お馴染みの4-4-2というフォーメーションを選択。GKにチェフ。DFは左からA・コール、ジョン・テリー、アレックス、ボジングワ。中盤にエッシェン、バラック、ランパード、マルダを配置し、2トップにアネルカとドログバ。


試合の焦点はバルサがどうカウンター対策をするか。ボール保持率はアウェーとはいえバルサが上回るだろう。むしろ、チェルシーはバルサにボールを回させてカウンターを狙う、という図式を今度は主導権を握りながらより強力に仕掛けてくるだろうと予想できた。そのカウンターに対し、2トップのアネルカとドログバをトゥーレとピケがどう抑えるか。そこがポイントだった。


だがしかし。試合は開始直後、思わぬ展開を見せる。


前半10分。チェルシーの左サイド、ダニ・アウベスが上がったところをカウンターで突き、マルダが空いたスペースに侵入。そこからランパード、A・コールとつなぐ。そこで、バルサのMFラインとDFライン、ぺナ角くらいにぽっこりとスペースが空いてしまった。すかさずそのスペースにランパードが走り込むと、A・コールはそこにパス。トゥーレが引き出される形になったものの、ランパードのクロスはトゥーレがブロックし、フワフワと中途半端な弧を描きペナルティアークから外に出ようとしていた。そこに、セカンドボールを狙っていたエッシェンが走り込み、一蹴。


ボールはバルデスの指先をかすめ、バーに当たり力強くゴールに突き刺さった。


早い時間帯でのチェルシーの先制。ヒディンクの思惑通りの1-0の展開。グアルディオラの頭にも流石に悪夢が過ぎったであろう。


ただ僕は、バルサファンの一人として試合に興奮しつつも、冷静に試合を見ようともう一つのビジョンを必死に打ち出していた。バルサの勝つ可能性を。


―チェルシーは、意識の上で守りに入り、カウンターの意識が薄れている―


つまりは、第1戦と同じ構図ができつつあった。というのは、とにかく守りに集中し、取ったらFWに当ててカウンターを仕掛ける。その際の迫力が薄い。なぜなら、中盤の上がりが1テンポ遅れているからだ。マルダを除き、ランパードもバラックも、攻め上がりのタイミングは第1戦目とそう変らなかったろう。これが0-0のままゲームが進んでいれば、彼らはもう少し積極的に攻撃に参加したのだろうと僕は思う。それこそがCBのレギュラーを2人欠いたバルサの1番恐れるところであり、そうして押し込まれてしまったらバルサの攻撃力まで萎えさせられてしまう。そうしたら風船のように、あとは萎んでいくだけのゲーム展開になる、というのがバルサの悪い特徴だ。彼らのラテンイズムのDNAがそうさせてしまうと、僕は本気で考えているが。


途中でアビダルが退場し、10人になっても、バルサの気概は変わらない。それどころか、一人少ないチェルシーをさらに押し込む展開に。


そうは言ってもそこはCLベスト4のチェルシー。守りは固いし、底力はある。バルサの命運は3人の小柄なCRACK(最上級の選手)に託された。


メッシ、チャビ、イニエスタだ。


この日はイニエスタが前にいたこともあり、つなぎの全権を握っていたのは明らかにチャビだった。中盤を使いボールを動かすバルサは、全てチャビを経由して攻撃を展開していた。バルサの選手は、このもう2人のCRACKを除いては、皆常にチャビを探していた。チャビは長短と縦横のパスを使い分けながら、一瞬できるスペースを見逃すことなく的確についていた。中でも際立っていたのはサイドチェンジ。イニエスタ、ダニ・アウベスのスペースに的確なタイミング、速さ、球質でボールが送られる。


そのチャビのためにケイタとブスケッツが精力的に動き、スペースを空ける。この2人がボールを持った時は、チェルシーは全くと言っていいほどプレッシャーをかけに行かなかった。ほとんど無視。フリーでボールを持たせ、「ドリブルしろよ」と言わんばかりのスペースを中盤でも彼らに与えていた。そして、その戦術の徹底ぶりは、確かにバルサの中盤でのボール回しのなめらかさを阻害しているように見えた。ブスケッツの展開力は正直なところ、チェルシー相手に威力を発揮するほど洗練されてはいなかった。


そして、メッシ。この日のメッシは、トップフォームを当ててきていた。体のキレ、前に向かう姿勢。チェルシーが2人で囲もうが3人で囲もうがお構いなし。ボールを奪われない。突破していく。決定的な仕事はしていないが、そのプレーは明らかにチェルシーに脅威を与え、彼らの精神をすり減らしていった。


さらに何と言ってもイニエスタ。この日一躍バルサの歴史に名を刻んだ勝利の立役者は、決勝点のシーンのみならず試合を通じてその能力を如何なく発揮した。左サイドでボールを持てば果敢に仕掛け、中盤では決してボールを失わないキープ力を披露。


対面したボジングワはよく守っていた。この日のチェルシーのMVPにエッシェンを挙げる人が多い中で、僕は彼にその名誉を与えたいと思った。イニエスタのスペースをうまく消しつつ、バルサの中盤のパス回しに対するプレスにも参加し、ブロックを形成していた。その動きが、1試合を通じて落ちなかった。実質彼の動きはバルサにとっては相当厄介なものだった。


前述したように、バルサの得意な試合展開になっていたとはいえ、皆本当に心配しながら試合を見守っていた。


チェルシーの厳しいプレッシングを巧みに捌きながら、いつものボール回しからの攻撃サッカーを徹底しようとするバルサ。しかし、それを最後の局面でことごとく跳ね返すチェルシー。


皆、信じる。勝利を、ゴールを。


何度も何度も跳ね返される。なかなか決定機が作れず、苛立ちは募り、「あきらめ」の文字が頭を過ぎる。


無情にも刻々と過ぎる時間。迫るタイムアップ。


それでも、信じる。手に汗握り。


そして、ロスタイム。


ダニ・アウベスのクロスは一度は跳ね返される。そのこぼれ球を拾いもう一度仕掛けるが、それもブロックされてしまう。だが、90分という時間分厚い攻撃に苛まされていたチェルシーDFが、堪え切れずクリアミス。そこにすかさずメッシの仕掛けから、横にラストパス。走り込んだイニエスタが右足を強襲。


一閃。


90分間一部の隙も見せずに瓦解を築いていたチェルシーDF陣の一瞬の綻び。固く閉じていたはずの殻に、一筋の穴ができた。あれだけシュートコースを消していたはずのチェルシーDFが、その瞬間、嘘のようにやすやすとシュートを許す。


ボールは強い弾道でGKのチェフの指先をかすめ、ゴールネットに突き刺さった。


ユニフォームを脱ぎ、興奮状態で咆哮しながら走りだすイニエスタ。それを祝福しようと追いかけるバルサのチームメイト。ベンチでは決まった瞬間に信じられない驚きと興奮でいっぱいの選手、スタッフがイニエスタに向かって走り出す。グアルディオラまでもが我を忘れてベンチを飛び出す。


わずかな残り時間を、選手交代で浪費し、選手全員で守りきろうと努める。


そして。


タイムアップ。


バルセロナCL決勝進出。


皆の信じた奇跡は、現実として起こり得た。


皆の想いが、奇跡を呼んだ。


次なる夢は、CL優勝。


そして、リーグ制覇、国王杯優勝という3冠だ。


未だスペインでは誰も成し遂げたことのない前人未到の3冠という奇跡を、皆が祈る。


僕は見届けたい。この地で、その奇跡を