もう冬だ。
私はハッとした。
それは出掛けに外に出てため息をついた瞬間の事だった。
息が白かったのだ。
この瞬間はいつ体験しても不思議な感覚だ。
当たり前だが私も小学生の時代があった。その頃から息が白くなる時期は
何度も息をはいて、白くなる自分の息を確認したものだった。
何が私をそうさせるのかわからないが、気づくと私は子供の頃ように何度も息をはきだしては白さを確かめていた。
特に誰に報告するわけでもなく、白くなった息を見ては「うん、もう冬か」と自分で納得してはまた息をはき、また納得して、それに飽きた頃私はいよいよ職場に向かう為に原付に乗った。
メットをかぶり、いつもの慣れた道を行く。
この時間はいつも踏み切りあたりが込むが、そこを抜けたほうが早いし、そこを抜けてしまえばもうこちらのものだ。道路もちょうど良い大きさで、車通りも少なく、開けた道なので、悠々と我が物顔で道路を走ることができる。
余談だが、もちろんそんな危ない走り方はしていない。念のために。
「今日は雨が降りそうだな」
根拠もなく、なんとなく曇天を見てただただそうつぶやいてみる。
もちろん、心の中でだ。
この道を抜ける手前に左に曲がれる道がある。ここは農道で少し狭い道だが、こちらを行ったほうが気分的に早く職場につけるような気がするのでいつもそちらを使う。
気分的にと言ったが、農道を使う時と、まっすぐ道を抜けて職場に向かった時どちらが本当は近いのかわからないので気分的にと表現した。
なんとも、説明が長くなってしまうのは私のボキャブラリーの無さが原因だとつくづく思い知らされる。
その農道を抜けて、右折したらあとはもう道なりだ。
小学生でもたどり着くのは容易だ。
そう、そこが、我がBANJOのあるホワイトベース・・・もとい、アピオスペースである。
収容人数1億人、東京ドーム50個分の広大な敷地には、リオンドールとケンタッキーとTUTAYAとドラックストアとマクドナルドがある。むしろそれしかいない。
週末になるとどこかのねずみの王国リア充ランドなんかよりも集客があり、三日三晩お祭り騒ぎだ。
まあ、嘘だが。
とりあえず、そのアピオスペースの一角にBANJOは佇んでいる。
裏口の鍵を手馴れた手つきであけ、警備を解除する。
一部の電気をつけて、PC、レジの電源も入れる。
まだ誰も着ていないようだった。ふと、今日のシフトを確認する。
そして、日にちを見る。
ん?
なんてこった。こんな重要なことを今まで忘れていたなんて。
今世紀始まって以来の大事件だ。
すると後ろから気配を感じ振り向くと・・・!
そこには誰もいなかった。
気のせいか。
私の一日はこうして始まった。