僕は、仕事終わりなんだかすぐに家に帰りたくなかった。

今夏の残暑は切れ味の悪いナイフでジリジリと肌を刺すようで、不快な暑さだった。


家に帰りたくなかった僕は、ネットカフェに非難した。

この先の未来や現実や、色々なしがらみから逃げる為だ。

たった一時。それでも、漫画やネットや飲み物や食べ物や個室がある環境。

コレだけで今の僕には逃げる理由としては十分過ぎる内容だ。


いい大人達が夕方過ぎからネットカフェで各々現実と離別して己の空虚な世界に迷い込む不思議な空間は、傷を舐めあうように、お互いがお互いを慰めあうように、皆無関心なのである。

最低限のマナーさえ守ればお金以上の対価を求められない楽な世界である。

それが世界の縮図の一部だと思えてきている僕は、よほどこの世界に馴染みが薄いのだろうか。

だがなぜか居心地がよい。


ネットカフェに着き、チェックインを済ませると、体に悪そうな黒い炭酸飲料といくらかの漫画を持って指定した個室へと向かう。

はじめはネットでもしようと思ったが、なんだか今日はそんな気分ではなかった。

理由はたぶんない。あったかもしれないが、僕はそのことを考えることをやめていた。

ココは不思議な空間なのだから。あるがままである。


漫画を読み出し、随分と長い時間ココにいた気がしたが、まだ4時間しか立っていなかった。

その時、携帯が震えた。メールだ。珍しい。


ひとつ言っておくことがある。

僕は携帯電話での繋がりというものを極めて雑に扱う人種なのである。

基本的に来たメールは読むが返さない。電話も気づけば出る程度。

仕事関係の電話と彼女からの電話は極力出るように心がけている。一応、社会人として。


僕は気まぐれで携帯をチェックした。内容を見ない時の方が多いかもしれないがこの時は見た。

宛名はローマ字と記号の羅列だった。

しまった。メルアド変更の通知メールがきていたはずだがめんどくさがって登録していなかった。

誰だろうと思い出そうとしたところで、普段からマメに携帯をいじらない僕であるから

思い出すはずもなく、過去のメールに目を通した。


「あ。あった。」


後ろから探したほうが早く見つかったくらい昔に送られたアドレス変更だった。

我ながらこのめんどくさがりにうんざりだったが、直す気もあまりなかった。


送られて来た相手は中学の同級生からであった。

内容は至極あっさりしていた。


「今暇?至急連絡求む」


今暇かと問われればネットカフェで堕落極まりなく自分の世界へ逃げ込んでいた人間が僕だ。

暇ではあるが、いざ暇かときかれると、暇ではない。

色々忙しいのだ。漫画の続きも気になるし。


「今ネカフェで漫画読んでる。どうしたの?」


君の提示する内容によっては僕は君の意見を無視するという意味を含めていたが、そこまで深読みする相手ではない。きっと普通に返してくるだろう。


「今から中学校の飲み会するんだ。おいでよ^^」


ああ。

やはりそうきたか。

大体予想はしていたが、その通りだったので驚きはしなかった。

どうしようかと思っていた時すぐさま電話が掛かってきた。隙のない奴だ。

だがネットカフェでは所定の場所以外での電話はマナー違反である。

僕に素晴らしい世界を与えてくれる世界で、僕の世界を僕自身の過失でそれを曲げてしまうのはどうにも許せなかった。すぐには電話に出ずに、電話の出来る所定の場所へ早歩きで向かった。

その途中電話が切れた。

所定の場所で電話をかけ直した。


「あ。もしもし~?久しぶり~、今飲みやってるんだけど来なよ~」


久しぶりに聞いた声であった。少し懐かしい。


最近色々あって、僕は僕の世界を大切にするようになった。

無理せず、嫌なときは嫌を言える人間になろうと誓っていた。


「お。ひさしぶり。飲みか・・・いいよ、暇だし。でも今から一旦家に帰ってから向かうから、30分はかからないだろうけど、20分くらいかかるかな。」


「了解~♪じゃあみんなでまってるね~。着いたら連絡頂戴★」


我ながらまだまだNOと言えない人間なのだなと改めてうんざりしたが

変に予定を立てられてワクワク気分を押し付けられるよりはその場の誘いの方がいくらかマシである。

自分の個室を片付けて、チェックアウトを済ませ、とりあえず家路につく。


軽くシャワーを浴びていたら30分は経過していた。

流石にこれ以上は相手にも申し訳ないと思い、電話で言い訳をした。


「さっき帰ってきて、今から歩いて行くからちょっと遅れるわ」


言ってないことはたくさんあるが、嘘はついてない。

それにしても日本語は便利である。

抽象的な表現が多いおかげで、受け取り方にも個人差が出てくる。

僕にとっての30分は「さっき」の許容範囲だ。

相手はどうだかわからないが。


飲み会の会場までは僕の家からさほど遠くないので歩いて向かった。

途中道を1、2本間違ったが、問題はない。

ここは僕の育った場所である。ちゃんとただりつける自信はあった。


少し遅れたが、無事皆と合流できた。


久しぶりに会う連中なのにみんな変わってなかった。

そこは少し安心した。

いや、女性陣に対して変わってないは失礼なのだろうか。

お世辞でも「綺麗になったね」と言ったほうがいいのか。

だが生憎僕は遊び慣れていないし、しかもシラフでそんな気の利いたセリフは言えそうになかった。


久しぶりと挨拶を済ませ、あとはお酒を飲みながら他愛ない昔話に花を咲かせたり、変貌してしまった人の噂話をしたり近況報告をしたり、あとはグダグダと無駄なトークを気持ちよくするだけ。


気分はよくなっているが、頭の中はひどく冷静だ。

僕はお酒で失敗したくない。

ちょっと嫌なトラウマがある。まあ、若気の至りというやつだ。

それから、お酒の量を間違えず、常に冷静でいられる立場にあろうとする僕は

純粋にお酒を楽しめないでいる。

だが、お酒の楽しみ方は人それぞれだ。

酔っ払って楽しむ人もいれば、スマートに飲んで、お酒を飲む空間と時間を楽しむ人もいる。

そう考えると、僕は本当に楽しめていないのかと言われれば、ある程度楽しんでいるのかもしれない。

ただ満足していないだけ。物足りないだけ。楽しみ方がまだまだ未熟なだけ。

学生的なノリで飲み会をしたことのない僕は、みんなの飲みなれ方に戸惑うばかりだった。


もうわけがわからなくなるくらい酔ってみたい気持ちもあるが、如何せん、それができないので致し方ない。決してお酒が弱いわけではないと自負している。

腹を割って深酒をしてみたいと思える相手にまだ出会えていないだけだ。


いや、1人いる。

だが、その人と飲む機会はあっても、深酒する時間がない。

忙しい奴なのだ。

まあここはこれ以上掘り下げるのはよそう。


あっという間に飲み放題の時間も終わり、なんだか物足りない様子の皆は二次会でカラオケへ向かった。

もちろん、僕もついていった。


僕らの世代の懐かしい曲を中心に盛り上がり、声も出なくなった頃、一人が明日早いからと帰宅を提案してきた。人間引き際が肝心である。これをミスすると取り返しがつかない事態が起こる可能性がある。

極力面倒は避けたい。

僕もそれに便乗して、帰宅を促した。


家につくと、最近ずっとやっているネットのオンラインゲームを少しした。

オンラインゲームなので、友達とVC(ボイスチャット)つなげながらやるのが楽しいのだが

お酒で少し酔っていたのか手元がブレブレであった。

だがそれもまた楽しい。

楽しい時の時間経過は早い。

僕はいつの間にか寝てしまっていた。

全然記憶がないが、しっかりとベットに入っていた。


まったく世の中不思議なことが多い。





色々書いてきたが、要約すれば

昨日は中学校の飲み会に行き、二次会でカラオケに行き、家に帰ってまたネットでみんなと遊んでいたら

日記書くの忘れてしまいました。申し訳ございません。


ってことです。


申し訳ございません(笑)orz