知ってる?宇宙って超ヤバイ


今自分達がいる地球は太陽系っていうグループに所属しているんだけど、まぁこれがまた広いよね。
んで、その太陽系っぽいモノを何十個か集合させたのが『銀河』っていうんだって。
その時点でもかなり馬鹿でかいと思うけど、
『銀河』をさらに数個から数十個集めたのを『銀河群』と呼ぶらしい。
『銀河群』が集合して『銀河団』、
さらに『銀河団』が数千個集合した『超銀河団』が現在観測できる限界の範囲で、まだまだ宇宙はずうっと続いているらしいんだけど、もうなんか名前だけ聞くと戦隊モノっぽいしワケがわからなくなってきた。

あ、話は少し変わるけど、
地球から太陽までの平均距離1億4959万7870kmなのは知ってる?
ちなみに新幹線で行くと70年かかるし、
ノンストップの徒歩で行っても4000年くらいかかるんだって。
太陽までに行くのにこれはきついよね。
でも光の速さならなんと8分で行けるんだって。
光の速さは秒速30万kmだからあっというまだよね。
けれど宇宙はやっぱり広いもので、
冥王星までは6時間、
北極星までは約400年、
アンドロメダ星雲まで230万年、
しし座銀河群まで約2700万年、
かみのけ座銀河団まで約2億9000万年くらいかかるんだ。
とてもとても遠いね。
『かみのけ座銀河群』から地球に届く光は2億9000万年前の光らしいんだけど、 今もまだ『かみのけ座銀河団』って残っているのかなぁ。
地球の光はちゃんと届いているのかなぁ。
ねぇ、ちゃんと聞いてる?

「わかったわかった。んで今どこにいるの?」

「…」

「…いつもの公園」

「りょーかい。んじゃむかえにいくわ」

「ん…」

ガチャリ。
電話を切った後、つけっぱなしのテレビを消しジャケットを着込む。
些細な口論が原因で、あいつが飛び出したのはちょうど1時間前。
あいつは分が悪くなるとすぐ家出するのだが、
大抵何時間後に電話がかかってくるのがいつものサイン。
まったく、と思いつつも毎回笑わされるな。
感情の起伏があまり顔に出ないらしい俺はくぐもった笑いで、部屋の電気を消した。自転車にまたがり、胸ポケットに入っていた煙草に火をつける。

「よし、いくか」
時速10km、光の速さには程遠い。
そういえば彼が死んで1年が過ぎた。


ふと部屋の模様替えしようと思ったのは、つい1時間前。
5年半近く同棲していたので今でも彼のシャツはタンスの上から2番目に入ってるし、
煙草くさいジャケットもクローゼットに入ったままだった。
遺品に近いモノは殆ど彼の家族に渡したけれど、まだ彼の所有物は僅かに残っていた。
なので、ゆっくり片付けていこうと思った矢先に仕事が忙しくなり、
それこそ日付が変わる頃に帰宅することが当たり前になる頃には、すっかり片付けなんて忘れていた。
たまの休日も死んだように寝ていたあたしにとって、せっかくの連休でのこういった機会を生かさなければ次は何ヵ月後になることやら。
まったく、だらしない自分の性格を恨みつつも、長くなりすぎた髪をきつく結い準備は万端だ。
リビングの窓を大きく開き、換気する。
太陽の日差しが暖かく差し込む。
…もう、2月だよ。
ゆっくりと伸びをしながら、タンスを開け詰まっている衣類を全て出した。
明らかにあたしよりサイズが大きいシャツが何枚も出てきた。
本当にセンスを疑うデザインばかりで、今となってはかなり笑える。
初めてのデートの時、気合を入れた服装で挑んだのに、
ジーパンとセンスの悪いTシャツというラフなスタイルでやってきたあいつ。
「せめてジャケットを着ていて欲しい」というあたしの願いはなんとか叶い、黒いベルベットのジャケットをあたしが選んであげた。
その後、あまりに口うるさいあたしの影響のせいか、
少しずつファッションにも気にするようになったのだが、頻繁にこのジャケットを着ていた。
「他のは買わないの?」と聞いても、あの人はニッコリ笑うだけだった。
クローゼットにかけてあったあのジャケットを取り出すとやっぱり煙草くさい。
一応、ポケットの中身を確認してみると、
くしゃくしゃになったセブンスターとジッポが入っていた。
そういえば、ジッポが無いとギャーギャー騒ぎ出して大抵ポケットに入っているというオチだけど、
見つかる度に「よかったぁ」という大きな声で泣くように笑い、つられてあたしも笑ってしまった。
思えば、よく笑う人だった。
今となって、本当にそう思う。
最近は日々忙殺の一方で、こんなにゆっくり思い出に浸ることなんて無かった。
頬に暖かい何かがつたう。
涙とわかるまで、そう時間はかからなかった。
あたしは最後、彼と何の話をしたんだっけ。
あたしは最後、彼といつキスしたんだっけ。
思い出そうとしても、彼の笑顔だけが浮かんで消えていくだけ。
涙はいつしか嗚咽へと変わっていき、一人には少し広すぎる部屋に秒針の音が響く。
彼がいなくなって以来、ゆっくり息を殺すようにすっかり泣くクセがしまったな。
しばらく時間が経った後、
ふとジッポに何か挟まっていることに気づいた。
…一体何だろう。
あ。
初めてのデートの時に取ったプリクラが入っていた。
まだ髪が短かったあたしの横に、買ったばっかりのジャケットを着ている彼がニコリ。
『1/24 オシャレ記念』とあたしが書いた文字。
恥ずかしいからそれはやめてくれと彼が情けない顔でせがんでいたな。
そんな彼を見て私は有無を言わせず決定。
出来上がったプリクラを見て、「すぐ捨てるからな」と彼はプイっと向いてしまった。
取っておいてくれたんだ。
ふふ。つい昨日の出来事かに思え、口元が緩む。
まったく彼には笑わされてばっかりだ。
だけど、今日で卒業しよう。
過去の思い出を笑うのではなく、あたし自身でちゃんと今を笑おう。
窓から覗いた空はかぎりなく青に近かった。