今まで考えたこともない選択肢だった。
「ツインにするとたくさんメリットあるよ。さっき言ったように安定するでしょ、動員が増えるでしょ、まぁメンバー多い方がまともに頑張れば動員増えるからね、あとそれぞれの個性にコントラストを付けられるし、一番いいところはプレッシャーを低減できるということかな」
「プレッシャー?」
「TENも今までたくさん関わってきてるからわかってるかもしれないけど、ボーカルっていうのは一番重圧がかかるんだ。そもそもボーカルが良ければ動員増えるよね、逆にバンドが良くてもボーカルが駄目だと何をやっても駄目。つまりボーカルが一人だと売れるか売れないかはほぼ全部ボーカルにかかってる。これって逆説的だけどある意味バンドの意味ないよね。だから俺も昔バンドやってた時ボーカルが何回も抜けた。結局それに耐えられなかったのかなって。」
「なるほど、それって人によったりしますか」
「そりゃ多少はあるんじゃない。でもどこまで行っても悪平等感は増えるよね。TENのバンドも曲は聞いたけど俺はすごい好きだよ。ただボーカルに正直カリスマ性みたいなものはないよね。まぁそもそもそんなものあったらどこかの大きな事務所に入れてるし、そうじゃないからTENの募集に来た訳でしょ。でもそれをツインにすることでコントラストを付けて彼の闇の部分が魅力になる可能性はあるかな。そうなったら見せ方もたくさん考えられるよね。ジャニーズだってなんで必ず複数人で売り出すかというとその方がたくさんファンが付くからなわけだし」
TENはザイオン氏が自分の曲を好きと言ってくれたことに涙が出そうだった。
彼はそこまでに自信を失っていた。
「だってガールズバンドだって唯一成功してるのSCANDALだけどさ、あそこもツインというかマルチで歌ってるじゃん。女性なんて特に年齢意識高いから抜けるのも超早いからね。二人で歌ってれば売れてないのは私のせいじゃないって自分で言い訳できるしそれって気が楽だよね、そういう居心地みたいなのも大事じゃない?似たような話だとAKBはみんな事務所が違うんだよね、それも自分が売れてないのは私のせいじゃないってメンタルケアにもつながるからメンバーの精神安定にもいいと思うよ」
いつのまにかザイオン氏が一方的に喋っていた。
彼がバンドにあまり希望を持っていないこと、そしてその上でどうやれば継続して活動できるのかを常に考えていたこと、そして彼の経験から導き出されたその考えには一理ある、とTENは考えを受け入れる気持ちになってきていた。
「あとTENのバンドはもっと映像とか使うとかっこいいと思うよ、これからは動画の時代なんだからさ、古典芸能やってるバンドに埋もれちゃやばいよ」
古典芸能、そういえば以前ある業界の飲み会で会った有名な作曲家も同じ言葉を使っていた。
今のライブハウスは古典芸能じゃん、あんなの誰が見に行くの?30年前から時間が止まってるよね、と。
そんな感じでザイオン氏に駄目だしされたのか励まされたのかよくわからなくなったがたくさん話を聞いてるうちに閉店の時間になってしまった。
よく考えるとどうやれば人間関係をまとめてればいいのか人脈の増やし方はどうすればいいのかとか聞きたいことはたくさんあったが聞けていない状態だった。
「いやー今日はありがとうございました」
「いやいやごめんね、なんか俺喋りすぎたかな、こんなに人と喋ったの久しぶりだよ」
その言葉がうれしかった。忙しいはずなのに5時間も一緒に過ごしてくれて感謝でいっぱいだった。
「ちょっとまだ混乱してますが新しい考えがまとまりそうなのでまたなんかあったら報告します!」
本当は明日にでも続きをしたかったがそこまではさすがにお願いできないと思い遠慮した。
とにかくすごい人と会って話をするというのは自分のためになる。新しいことができそうな気がしてきた。

