(元記事)
https://jalopnik.com/the-dilemma-of-buying-a-dictators-ferrari-1821161264 by Bradley Brownell Dec 10 2017
(内容)
RM Sotheby’s
このフェラーリ212インテルには尋常ならざる歴史がある。ギア社による特注車体とゴージャスな塗装に身を包んでいるのみならず、たった73しかない内の49番目に製造され、パリモーターショーの展示に使われ、有名なアルゼンチンの独裁大統領フアン・ペロンが所有したことで知られている。そして現在オークションに出されている。
この黄と黒のツートンカラーのゴージャスな車は今週のEsoteric Auctionに選定されたので、1月に開催されるRM Sotherbyのスコッツデール・セールにお目見えすることになるだろう。
オールド・フェラーリはどれも豪華なオーナー履歴にうんざりする。しかし、これは違う。
ペロン大統領は、人道に対する罪を巧妙に逃れた著名なナチス庇護者であると同時に、第一級の熱狂的カーマニアとしても知られており、権力の座にある時、フェラーリからパッカードまであらゆる車を収集していた。また、彼はアルゼンチン・ドライバーのフアン・マヌエル・ファンジオ、ホセ・フロイラン・ゴンザレスの支援者であり、レースへの資金援助していた。彼がパリのステージに華を添えたギア社の212インテルを見るとすぐに、自分のモノにしようとフェラーリに連絡した。
ペロンは、圧倒的な大衆人気を背景に1946年にアルゼンチン大統領に選ばれた。1952年にも再選されたが、その時の権力継続を祝してこの車を購入したのである。ペロンは、国民に圧政を強いて隷属状態にする独裁者というありふれた光景から隠れることは殆どなかった。彼は特に貧困層の間で人気を維持したが、それは美しいカリスマ的妻であるエビータのお陰だった。さらに、彼に反対する人々が消し去られていったことによる。
ペロンは労働者層を支援するキャンペーンを繰り広げる一方、次々に独裁的な政策を打ち立てていった。1950年代初めはアルゼンチンにとって厳しい時代となり、この国の経済は破綻した。従前はペロンの政策が労働者層の役に立ったが、もはや彼に対する信頼は失われていった。
RM Sotheby’s
1952年にエバ・ペロン(エビータ)が死去した時、ペロンの人生も、そしてその延長線上にあるアルゼンチン国民の運命も根底から覆された。彼の横にエビータがいなくなると、急激に人気は下降した。アルゼンチンは敬虔なカソリックの国であり、教会は政府内部に深く組み込まれていた。しかし、バチカンがエビータの死後に聖人化することを拒絶すると、ペロンは教会を国から切り離す作業を始め、学校から宗教的授業を排除し、離婚や売春を合法化すると脅した。こうしたことは大した動きではないと見られていた。
バチカンとの争いが最も激しかった頃、ペロンが二人のカソリック司祭を国外退去にすると、即座に彼は教会から破門にされた。ペロンに反対する暴動が起こり、多くの人が亡くなった。ペロニスト(ペロン主義者)を鼓舞する扇動的スピーチをして反対派を虐殺したことで、ペロンは軍隊によって退陣させられ、パラグアイへの亡命を申請した。
1955年、ペロンが軍隊によって大統領の座を追われた時、彼は国外に逃亡したが、この車は国内に残された。長年そのままの状態で置かれていたが、1970年代初頭に遂にディーラーの手に渡った。1973年にブエノスアイレスに住むイタリア人コレクターがこの車を購入し、この特別な車を14年間も乗り続けた。1987年に彼が売ってヨーロッパに渡ると、大がかりで心の籠ったレストアがなされ、1952年当時の状態と外装に蘇った。
RM Sotheby’s
1999年に再度売却され、ユニークで特注のフェラーリ・コレクターの手に渡った。このオーナーはほぼ完ぺきな状態で車を維持し「Concourso Italiano」や「Cavallino Classic shows」に出展された。
RM Sotheby’s
トラディショナルなエッグクレートグリルやエレガントなギア社のボディを考慮すれば、この車が史上最も美しいフェラーリの一台にランクされるかもしれない。さらにこの212インテルは1950年代からのツーリングクーペとして最高の色のコンビネーションになっている。通常私はクロムめっきや白いタイヤは好みではないが、このフェラーリだけはスタイルと上手くマッチしている。ギア社デザインのボディは、クライスラー・デレガンスのコンセプトとギア社が開発していたGS1を彷彿とさせるが、ユニークな部分もありすぐに峻別できる。
「車体No.0191 EL」は、1月18日と19日に開催されるスコッツデール・オークションで入札可能。プレオークションでの予想落札額は現在、160万~200万ドルと記載されている。確かに高額だが、南米の一国を支配し、ペロニストの政策を打ち立てた気になって、向う見ずに散財しよう。そうすればこのフェラーリ212インテルが手に入るのである。更なる写真や情報が欲しければ、こちらをチェックしてほしい。
ここで一つジレンマがある。元々のオーナーの残虐行為を知った上でこの車を所有できるだろうか?かつてファシスティックで残忍なペロンが座ったシートに腰を下ろすことに思い悩むのではないか?南米の独裁者がかつて所有していたことなどいかなる付加価値にもならないだろう。他に選択肢がないとすれば、この美しいフェラーリへの入札に躊躇などしない。一見冷酷に見えるかもしれないが、そんなものは結局、金属とゴムで出来たアマルガムに過ぎないのである。