スーパープレゼンテーション出演者です。

(元記事)
http://www.onhumancondition.com/#!LAUGHTER-with-Dr-Sophie-Scott/cu6k/55a0ccbd0cf25b8bf7e67742
 July 16, 2015

(内容)


神経学者ソフィー・スコット博士に、UCL(University College London)において、笑いの科学について訊いた。

笑いについて私が経験した一番奇妙な体験は、ロベルト・ベニーニ監督の映画「ライフ・イズ・ビューティフルだった。私は笑うと泣くの間の奇妙な接点に到達したのだ。私の脳は混乱した。私の口からは出たのは鯨の鳴き声みたいなうなり声!それは心の底から出た、不安になるほどの音だった。一緒にいた女友達は大受けしていたに違いない。悲劇と喜劇は人生という回るコインの裏表だけど、なぜかそれが並立していた。



マーク・トウェインが言っている。「ユーモアの秘密の源は喜びではなく、悲しみである」映画「ライフ~」ではこれが見事に表現されている。無邪気な息子を守る為、父はナチ強制収容所行きをただのゲームとウソをつく。これは泣くべき場面で笑わせるという悲劇のコメディでもあり、また逆も言えるドラマでもある。こうした状況下で何が起こるのか理解したくてソフィーにコンタクトを取った。彼女と話す中で、笑いの科学についての真実、虚構、分からないことを教えてくれた。

○笑いとは何か?

笑いとは本質的に速い呼吸。つまり肋間筋による胸郭の拡張と弛緩。楽しい感情に根差した無意識の社会的機能でもある。感情(恐怖、怒り、嫌悪など)の殆どが一般的に、環境からのネガティブな刺激に対する反応であるのに対して、笑い(楽しい)は純粋に社会的なもの。お互いに良い感情を相手に示すために使っている。

「6~8ヵ月位の赤ちゃんに最初に見られる感情が笑いです。くすぐられれば笑いだす。それが親や世話人との強い結びつきを生むんです。成長すれば、それがより複雑になっていく(ユーモア)」格言にもあるように、笑いは人の間の最も近い関係であり、社会的絆を生むツールである。




○全ての動物が笑うか?

チンパンジーが笑いながら木を転げ落ちるのは見たことがない(著名な霊長類学者ジェーン・グドール氏の逸話を引用)けど、サルやネズミなど、哺乳類はみんな笑うことができる。コミュニケーション動作を研究しているマリナ・ダヴィラ・ロス博士は、他の動物種においても見られる「ポジティブな発声」が笑いの進化に密接に結びついていると推定している。笑いは遊びと強く関係している。



実際、ジャーク・パンクセップ氏は、笑いは楽しくはしゃぐ行為への誘いであると主張している。遊びは環境について学ぶ為の有効なツールなのだ。




○なぜ笑いは伝染するか?

1962年、タンザニアのタンガニーカ地方にある小さな学校で、笑いの流行性アウトブレイクが起きたと言われている。最初は3人の少女から始まり、多くの生徒に広がり(159人中95人)、学校は閉鎖を余儀なくされた。これが笑いが伝染した印象的な例。



スコット博士のチームは、笑いや感情的な声(痛み、嫌悪など)を聴いた時の脳の活動を分析した。ここで信じられないことが発見された。関連する聴覚野が発火(膜電位の急激変化)するだけでなく、感情に関連した動きを司る部分も発火していた。

「むっとした時の声に対する反応が小さい一方で、笑い声に対する反応は非常に大きかったのです。よって、笑う行為の伝染は、脳が笑い声を聞いた時に笑う準備に入ることによって起こるのです」別の言葉で言えば、欠伸のようにオウム返しする反射機能の類なのだ。私は彼女に、笑いの音程と調子のどちらがより病みつきになり易いのか訊いた。

「はっきり言って、分かりません。親和性、伝染性という意味でも理解を超えています。笑いを伝染しやすくする何らかの音があるのか、実際分かりませんし、そんな実験もしたことがありません。恐らく(動画)Skype上の笑い連鎖のように人々に注目されて感じのいい笑いというものがあるのでしょう」




○男は女より面白い?

単純に言えばノー。体を張ったコメディ(バナナの皮で転ぶ)や生理的なもの(教会での屁)では子供の方が笑いやすいのは事実だ。しかし、男女間で、笑いやユーモアを生み解釈する力に違いはない。

「ひとつ分かったのは、女性の方が男性より、少しだけ笑いが伝染しやすいということ。女性は見ず知らずの女性より、見ず知らずの男性の方がつられて笑いやすいと言えます。一方、男性は見ず知らずの人と一緒に笑い合うことはそれほどありません」これで、くすくす笑う少女についてある程度は説明が付く。

しかし、それは進化で得た特質なのかを尋ねた。「女性の方が用心深いのかもしれません」と彼女は答えた。私は常々、ミュージシャンや歌手は年齢を重ねると円熟するのに、コメディアンはそうではないのは何故だろうと思っていた。ソフィーはそれにも答えてくれた。年を取れば、何でも物事がそれほど愉快で面白くはなくなる。それに、年を追うごとに、本当の笑いとウソ笑いの識別が上手くなる。




○笑いは遺伝する?

この分野を牽引する科学者の一人、ロバート・R・プロヴァインが、笑いは遺伝すると主張する。生後すぐ生き別れ、43年後に再開した「giggle twins」と呼ばれる二人の少女の研究で、彼は、笑う表情、笑いたい気持ち、ユーモアに共通する所があることを発見した。しかし、これはあくまで一つの研究分野にすぎないと指摘しておくことは重要だ。面白いことに、成人が一日平均20回しか笑わないのに、赤ちゃんは300回も笑う。一番笑う年齢は5才頃のようだ。






○ユーモアとは何か?

ニューヨーカーの編集者で漫画家のロバート・マンコフ氏は、ユマー(NY訛りのユーモア)は反対のものとかパラドックスに付随したものであると主張する。もし、全ての政治家がスピーチの最初にこう言ったら?「私はあなた方に決してウソをつきません。私は嘘つきなのです」



ものごとの対極が上手く融合することがユーモアだ。論理vs非論理、悪vs無害、滑稽vs平凡など。「人間は言葉を持つ限り、ユーモアは存在し、ジョークを言うと聞いたことがある。笑いは言葉より先にあったのよ。ユーモアを認識する手段として笑いが始まったとする説があるけど、実際はもっと複雑。ユーモアは笑いより大きくて、笑いはユーモアより大きい。この二つは交っていると同時に、それぞれ独自の世界も有しているのよ」とソフィーは言っている。


○なぜ、笑いは健康に良い?

ソフィーによれば、笑いの誇大広告に騙されやすい(寿命が7年延びるなど)けど、本当は「笑う時には極めて多くの作用がなされていて、胸の筋肉も動いている。血中のエンドルフィン量も増加している。鎮痛効果もある。面白いことに、長期的に見れば、アドレナリンは減少する。だから、よりリラックスして、コルチゾールのようなストレスホルモンも減少する」不安の低減は笑いにとって好都合。その一方で、笑いの発作で死んだ人がいるって聞いたことがある?でも、心配は無用。死んだ人の多くは笑いが発端だけど、本当の死因は心不全や窒息死だから。




○最終に

ソフィーはユーモアは一時的なものだと指摘する。流行でありトレンドである。また、地理的、人口動態的な影響を受けるものでもある。例えば、フィリピンでは、悪い知らせに笑いで反応するのは一般的なこと。私の経験上、英国人は相槌を打つことで自分を笑い飛ばしたり、互いのジョークを広げていく。マワウィではユーモアを再現するスタイルが主流なのに対し、ラトビアの人は視覚的想像によるユーモアが大きい。

笑いについて書くのは、面白いことを期待されるから、プレッシャーがある。笑いのことを書くだけで難しいのに、面白く説明するなんてとんでもなく難しい。それはあくまで経験を積んで出来る表現方法だ。実際に経験していないと、伝えるのは難しい。

2008年3月、ラジオ4のアナウンサー、シャルロット・グリーンは、脚本家アビー・マンの死去というシリアスなニュースを伝える時、笑いが止まらなくなったという出来事もあった。



今回、時間を取って下さったソフィー・スコット博士には感謝したい。彼女は現在、自閉症患者がいかに笑いに対処するかを研究しており、それが私たちのコミュニケーションや感情の全面的理解に繋がるものと思われる。