主人公は中学を卒業したばかりの“白川ありす”

執事姿のウサギに導かれ、「お金が存在しない不老不死」な異次元の世界へ迎えられ、不遇な実社会に見切りをつけ、ここに住むことを決めました。

 

まだ読み終えてない2巻の冒頭に内容が書かれていたので転載します。

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京都であって、京都ではないもうひとつの京都。

【京洛の森】

もしかしたら、私は長い夢を見ているだけなのかもしれない。

ふとした時に、『朝目覚めるのが怖い』と感じるのは、この世界にいたいが故なのだろう。

ーどうか、夢なら醒めないで。

今も時折、そんなことを思いながら、私は朝を迎える。

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文章、ストーリー共に平易につき、小学高学年~

親が読み聞かせるなら、もう少し小さな子にも楽しめる可愛い物語です。

 

 

 

ということで「平和」を象徴する、横槍の入らないこの世界は、それぞれの人が「功徳」を積むことにより安全が保たれています。そのために人々は自分の天職を見つけ、精進に励むようになります。

 

この世界で15歳の“ありす”は舞妓修行を断念し、大好きな本を扱う書店を開き、集客する朗読イベントを行い大成功をおさめました。

「お金」が介在しないのでコストパフォーマンスの概念は存在せず、収支の概念もないので原価計算をしません。

 

私は、この本『京洛の森アリス』をお金を払って購入したのだが・・・

たぶん、望月先生は無料で作品を配布しません。一度でも『売る』ことを覚えた人は『あげる』ことをしないって、世の中を見渡してわかりませんか?口では「あげる」と言えども見返り(報酬)を望んだ時点で「売る」意識が発生します。そのために報酬を得られなければ負の念が起こり、被害を感じます。

たとえば先生が授業を行った後に「ご清聴ありがとう」とか、退園のあいさつで先生が「楽しい今日をありがとう」など感謝する社会を想像つきますか?教育にかぎらず、診察した医師や管理職等も同様です。それが実現したとき、物語の社会になります。

 

また京洛の森には王家が存在し、“ありす”は王太子の思念に呼ばれ入り込みました。この王室で暮らす王族は、豪奢な衣装を着て奉納式を行い生活しています。

さて、豪奢な衣装を作る布地は空から降ってきますか?布地の原料は繊維、絹地(シルク)なら養蚕の餌も必要。紙も繊維から作ります、色を染めるには染料も必要。他にも、王室の敷地を維持しようとすれば、建屋を修理したり掃除する人や食材を調理する人も必要になり、こうした職人の生活は王族が現物支給しますか?

 

物語が進むにつれ、このような疑念は晴れていくけれども、壮大なスケールの世界観に対して行き当たりばったりの印象が残ります(笑)(笑)

浦島太郎なども、竜宮城へ着くまで呼吸はどうしていたなど、大人には不可解な話を子供は違和感なく受け入れますし、こちらの作品も童話として読めば楽しいかも。

大人の童話!実際、さまざまな童話に登場するキャラが比喩に使われており、見つけるのは楽しい。

 

なにより、

この世界で初の書店は競合他社がなく市場を独占する上々の日々。書店のない世界で識字率はほぼ100%あり、リクエストが殺到します。

このような“ありす”と共にありたい王太子は地位を捨て王宮を飛びだし、平民として市井で暮らさはじめます。

 

これもシンデレラストーリー?

自称「おっとりさん」な主人公、京洛にきて最初に住み込んだ置屋の主人からは「イノシシちゃん」て呼ばれていました。どっちやねん(笑)

 

最後に、夏の終わりに読んだ「個人書店を起業した方々」のインタビュー本を思い出しました。

元職は本関連以外の業種から参入した方もいて、みなさん口を揃えて「書店だけでは利益(自分の生活費)が出ない」と話しています。建屋等の開店にかかる諸費用を回収する分しか売上から出せないらしく、サイドビジネスから生活費を捻出するそう。ひとりだけ出版社勤務から転職した方がおり、書店に入る一冊あたりの歩合が低いことを告げています。

私は量販店勤務時代に、本来は正社員管轄の売価を算出する計算式を非正規の身分で教えられまして、それと比べてもたしかに少ないです。本にメーカー指定の消費期限はないし、廃棄にしても店の在庫は書店負担になります。『旬』があるようでないような書物世界の独自性によるものかも。

それでも『書店経営』にこだわる理由もみなさん異口同音に、仕入れる本を自分の目で選べる、お店のコンセプトに合わせた仕入れるができることを挙げておられました。これもネット社会と共存するために店頭販売が生き残る存在意義になるそう。

 

実社会と物語世界では、さほどの違いがあることも記しておきます。

 

 

望月麻衣先生の作品は『三条のホームズ』と『拝み屋さん』の長編シリーズを読んでおらず、私が好きな作品は以下

 

 

 

どちらも大学卒業後の青年が主人公です。