ドアが開くと同時に、高らかな声がした。
「あっらたさ〜ん」
今しがた出て行った葉山が戻ってきたのかと思う間もなく、吹き出しのついた漫画ならば語尾にはハートマークが付いたであろう真行寺の声。その手には、何やら怪しげなモノを下げていた。
「見て見て、かわいいっしょ」
はしゃいで両手で持ち上げたモノは、少女が髪に挿す髪留めに、動物の耳らしき三角形がついている。
「真行寺に女装趣味があったとは、知らなかったな。ジェンダーレスな昨今、おまえのシュミにとやかく言う気はないが、麓の女子高生たちの嘆きが聞こえそうだ」
「ちょ、どこから訂正したらいいかわかんないっすけど、俺が女装しても気にしないんすか。冷たいっすね、アラタさん」
戸惑いながらも肩を落とした真行寺は、ようやく声量も落ちた。その姿としょげた声に、笑いが込みあがってくる。
「心外だなぁ。シュミはシュミとして認めてやっているものを」
「やや、シュミじゃないし、アラタさんの好みに合わせるっすよ、オレ」
「そろそろ、俺の冗談にも慣れたらどうだい、真行寺クン。それで、キミはそのかわいいモノを俺に見せにきたのかい?」
冗談とわかった途端に元気を取り戻した真行寺は、手にしたものを俺に差しだす。
「今日、犬の日だって聞いたから、盛り上がった仲間といっしょに作ったんす。会心の出来っしょ、ありあわせで作った割には」
「男子校のどこに髪留めがあったものか、知りたくはないがな。で、今からコレを着けた真行寺を散歩に連れてけばいいのかい?リードがいるな」
「アラタさんと散歩!やりぃ、リードはなくていいっす。俺、アラタさんから離れないっすから」
逸る気持ちを抑えるように、真行寺が俺を覗き込む。まるで飼い主にじゃれつく(▽◕ ᴥ ◕▽)そのものだ。
「散歩ついでに、躾もしなきゃならないだろうが。なんといっても、今日は“教育の日”でもあるんだからな」
覗き込む真行寺の頭を、ひとつくしゃりと撫でて立ち上がる。つられて見上げている目が、みるみるうちに大きくなっていく。
「ほら、行くぞ」
声をかければ、否やを言うこともなく真行寺は着いてきた。
ワンちゃんの写真、見せて!
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