270号室で背中合わせに配置された机、その右側の机の上に置かれたコピー用紙。ご丁寧にも三つ折にして、机の真ん中にテープで張りつけてある。机上の書棚には、俺の名前を書いた教科書類があるのだから、これはもう1人の住人である葉山じゃなく、まごうことなく俺に宛てたものだろう。

「葉山、誰が置いたかわかるかい?」
「ん?ああ、それ、真行寺くんじゃないかな。ぼくが帰ってきた時、ドアの前にいたから」

シャワールームからでてきた葉山は、好奇心を隠せない眼差しで俺の手元を見た。

「それで、葉山に何も言わなかったのか?あいつ」
「うん。でも、なんだか様子がおかしかったかも」
「どんな風に?」

葉山とニアミスして声を掛けないだけでも、かなり変だ。だが葉山自身にその意識はないようで、立ち去る真行寺の様子を詳しく話しだした。

「ぼくは部屋に三洲くんが帰ってきてて、いつものように真行寺くんが追い出されたんだと思ったんだ。でも、ドアを開けたら中は無人だったから、あわてて振り向いた時にはもう階段のあたりまで行っちゃってて」
「部屋の電気、また消し忘れたんだな」
「え、あ、まあ、」
「だが、真行寺が一目散に立ち去るほど、急いではいたんだ」
「そうだね。三洲くんに会いにきたんじゃなかったのかい?」
「会いにというか、コレを置きにきたんだろ」

そして、また、ふたりで机の上を見た。

「なんだい、それ?」
「なんだと思う、葉山は」
「まさか、ラブレ─」

チラリと視線を向けたら、葉山は言いかけた言葉を飲み込んだ。

「でも、真行寺くんがわざわざ届けにきたんだから、よほど大切な用事じゃないのかい」
「それなら、部活の帰りに、生徒会室へ来た方が早いよ」
「誰かに、頼まれた、とか」
「敢えてあいつに?頼まれ事なら、真行寺だって葉山に伝言を残すだろ」
「うーん、いったい何だろう」

折り畳まれたコピー用紙を前にして、腕組みした葉山は真剣に考えはじめた。あいつが葉山を慕うのは、こういうところだろうな。自分に宛てられた手紙でもないのに、捨て置いてもよさそうなものだが。

「葉山なら、何を残す?」
「ぼく?点呼までに、三洲くんは必ず一度戻るだろ」
「俺じゃなくて、“崎に” だよ。」

まったく。俺と葉山なら、クラスでもココでも、いつでも会えるだろうが。あまりにもためらいなく応えるものだから、屈託した気持ちを抱えながら、笑みがこぼれた。

「ギイねぇ。そういえば、ぼく、ギイに手紙を書いたことないんだ」
「訊いた俺が、悪かったよ。例えば、でも、思いつかないかい?」
「そうやって心配するなら、開けちゃえばいいじゃないか」

そうしたいのは、俺だってやまやまだ。しかし、宛名も差出人すら書かれていないコピー用紙が、手紙だとは思えない。連絡ならば、ひとこと添えられてしかるべきだ。
かといって、他人に開けさせようとも、思わない。すでに葉山は、シャワーを浴びたタオルを握りしめ、成り行きに興味を持ちはじめている。いつ、どちらが、机の上に手を伸ばしてもおかしくない状況になっていた。

「葉山、髪を乾かさなくて、いいのかい」

ひとまず遠ざけるべく声をかけてみたが、葉山はびっくりしたように丸い目で見返してきた。

「三洲くん、やっぱりソレって、真行寺くんからの」
「だから、違うって。あいつがどの面下げて、コピー用紙に書くんだか」

崎なら、それでも喜んで受けとりそうだが。

「そうだね。真行寺くんって、見た目よりロマンチストだし」

何を思ったのか、葉山はおかしそうに笑いながらタオルを置きに行った。
あらためてコピー用紙を眺めてみると、それは2枚を重ねて、しかも丁寧に積み重なった2枚は1ミリのズレもなく、やけに慎重に張りつけられている。ただの案内にしては厳重すぎるし、そこまでするなら封筒を使えばいいだろう。さらに不信感を募らせる用紙はリアリティがなく、イタズラにしては質が悪そうだ。そうして呆気なくテープを剥がし、畳まれた用紙を開く。

はあ?

『あなたの恋愛取扱説明書』とタイトルを記載した紙は、パソコンから印刷したものらしい。下には、ご丁寧に使い方まで指南されている。
用紙を眺める俺の後ろから、近づいた葉山がヒョイと顔を覗かせた。

「どうしたんだい、三洲く・・・ん?」


(問1①、問2②、問3③、で回答。絵を描くやら知らんけどw)

おかしな語尾をつけた葉山は、覗き込むなり遠慮なく吹き出した。

「どう思う?葉山」
「どう、って。さすがは真行寺くんだね」
「そうじゃないだろう」

用紙を畳んだ俺は、ひとまず制服を着替えるために、クローゼットを開けた。


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新刊にて、真行寺がアラタさんの弱味につけこむ話を、ギイと相談していて、ゲスい。不貞な人々によりアラタさんは貞操観念の危機ですが、夏休みはどうするのかしら。爽やかCM撮影の真行寺は卑劣に向かっており、天然から遠ざかって陰湿になりそうで。