ふーっ、器とお箸を置いたぼくは、お腹いっぱいになってため息をついた。
「クリスマスなのに、本当にこれでいいのか? 託生が和食にしたいって言うから、ここにしてみたんだが」
「うん、ありがとうギイ。とっても美味しかった、きっと、これ、最高級のお肉だよね。それに、」
言って、ガラスが嵌め込まれた窓の向こうを見た。
様式美っていうんだろうか、雑誌や写真集で見るような和風の庭園が、ずっと向こうまで広がってる。温かな灯りが砂利の間から立ち上る庭は、きれいに人の手で刈り込まれた庭木の下で、ついこの前までなら足元から虫の声が聞こえていたであろう高さの違う木々が程よい間隔で植えられ、ところどころには大きな岩が置かれていた。整然と並ぶ砂利にまで意匠の手が施されているように、庭全体が端正なれどクリスタルな輝きに満ちている。
ぼくたちがいる個室から眺めるそれはクリスマスムードではないけれど、ふたりで食事をするには充分過ぎるほど心やすらぐ妙なる風景。アメリカニューヨークで生まれ育ったギイならクリスマスにチキンがセオリーだろう。でも日本人のぼくは、愛する人とひそかに楽しめる、こういうところの方がリラックスできるのだ。
「こんなに静かで、夜景までしっとりと綺麗だ」
ー今宵、ぼくたちだけのために、セットされた舞台のようー
同じく庭へ視線を向けたギイは
「高層階のレストランから眺める夜景は、ジュエリーの展覧会のようで、彩色豊かにきらびやかだろ。だからこそ、託生を一度、ここに連れてきたかったんだ。寮の窓から、ふたりでよく眺めたよな。もっとも、校内の庭は、野趣溢れるダイナミックだったけど」
懐かしむように語る。

305号室。ギイと過ごした、1年間。窓から手を伸ばせば届きそうなところに植えられていた高木が、こっそり設置されたイルミネーションで燦然と輝いていたクリスマスイヴ。山奥にポツンと建つ祠堂の寮にありながら、ぼくだけのクリスマスツリーをプレゼントしてくれたギイ。
今は、目の前の君が、無垢な光でライトアップされたように、輝いていて見える。
「ギイ、このままうちへ帰る前に、寄りたいところがあるんだけど」
告げたぼくへと視線を戻したギイは、つと小首を傾ける。
「ギイと、一緒に行きたいんだ」
さらに強い光を受けたように、綻ぶ笑顔が輝きを増した。そしてぼくの頬は、熱を帯びたように熱くなる。
「これからが、本当のクリスマスデートってことか。託生くん、俺を、いったいどこへ、連れて行ってくれるんだい?」
「そ、そんなに嬉しそうにしないでくれよ。初めて行くところだから、着いてきて欲しいだけだから」
「俺でよければ、もちろんお供しますよ」
目を眇めたギイの手は、早くもチェックアウトを告げるためのベルを押していた。