勝手に、奈良さん登場記念です(笑)



「ねえギイ、どうしてぼくだけ黒い衣装なんだい?」

見上げたぼくを引き寄せたギイは、頭に付けられた、先が三角形に尖ったツノを指先で弾く。

「託生の白い肌には、黒が良く似合うぞ。ほら、このツノなんて、こうすればプルンて、まるで託生のーーーー」

「崎、お前は、今、ミカエルの出で立ちだということを、忘れるなよ。」

背中越し、三洲から冷ややかな眼差しを送られたギイは、ぺろりと舌を覗かせ小さく肩を竦めた。

「ギイがミカエルなら、もちろん僕はガブリエルだな。」

「にしても、どうして俺までこんな恰好なんだ!」

ギイや章三と同じ、薄い布を何枚も重ねたようなローブを纏う矢倉は、衣装を摘みしきりに首を捻る。

「矢倉、裾を踏ん付けて、みっともなくすっ転ぶなよ。」

「赤池、良く見ろ。俺の、この、しなやかな身のこなしを。」

「身長的に、バランスが良かっただけだろう。崎に赤池、矢倉、どう見ても、身長以外に要因がない。あの作者だし。」

黒板を背にした三洲の片手には、いつも読んでいる暇潰し用の文庫本。しかし矢倉と同じ衣装なれど、文庫本すら聖書と見間違えるほど、違和感もなくこの室内に馴染んでいた。

「それにしちゃ、三洲だけ、バランスが悪いな。」

「どっちかつーと、アラタさんより、俺の方がバランスいいっすよね。」

「ウルサイ。お前こそ、黒い衣装を借りて、サタンで良かったんじゃあるまいか。」

胸ぐらを掴まれた真行寺は、引き攣る笑みで三洲を見下ろしても、掴んだ手が力を緩める様子は見えない。

「わわ、三洲くん、ラファエルは、そういうキャラじゃないだろ。」

「ええい、離せ、葉山。こいつだけは、別格だ。」

咄嗟に掴んだぼくの腕を振り払う勢いに負けないようしがみついているのに、真行寺にのみ発揮される三洲の傍若無人さは変わらず、腕がダメならとばかりに足で蹴りはじめた。

「アラタさん、あんまりっすう。アラタさんと別の世界に住むなんて、俺、死んじゃうっす。」

「お前が別の世界に行けば、俺はうるさく纏わり付かれずに済んで、せいせいするんだよ。」

「ひっでーな。葉山さーん。」

足蹴にされ、その体格ならば俄然余裕で躱せるであろうに、三洲だけは傷つけてはならじが信条の真行寺は、三洲から逃げるようにぼくへと駆け寄る。

「おっと、真行寺。これ以上、敵を増やすなよ。本当に消されて、あっちの世界へ送られても、僕は責任を持たないからな。」

有り難い章三の忠告が飛ぶやいなや、真行寺はさすが運動部員の瞬発力で急停止し、ぼくへと伸ばしかけた腕を引っ込めた。

「赤池先輩まで、冷たいこと、言わないでくださいよ。」

「まあまあ、待て。真行寺、三洲のチームに入れるよう頼んでやるから、三洲の為に働くだろ?」

「げげっ、俺、また、こき使われるんすか!?」

「駒澤も一緒なら、三洲だって、勘案してくれるさ。」

「いくらギイの頼みでも、駒澤は渡さないよ。三洲の為になんか、使わせやしない。」

ぼくたちよりも一回り小さな翼を広げた政孝の横に立つ当の駒澤は、迷いのないそのひとことで、首まで真っ赤になっている。

「しっかし、なんで俺がキューピッドなんだ。この矢、駒澤にしか打ってやらないからな。」

「の、野沢さん・・・」

「じゃあ、ぼくの矢だって、吉沢専用だぞ。」

「高林くん、それは職権乱用というもので、」

「どうしてだよ、吉沢。ぼくだけじゃないだろ。それとも吉沢は、ぼくの矢じゃ、気に入らないって言うのかい?」

頬を膨らませた高林に10センチも下から思いきり睨めつけられた吉沢は、毅然と言い出した勢いを脆く崩れさせ

「ごめんよ、高林くん、僕はそういうつもりじゃなくて。高林くんの矢なら、もちろん大歓迎だよ。」

「吉沢は、僕以外の奴が放った矢なんか、ちゃんと弾き返せよ。」

たちまち身を潜めてしまう。

「とか言ってる間に、既に、矢に射抜かれてる奴が、ここに一名だな。」

呆れ果てた章三の声で皆が振り向いた先には、まだ一言も発していない八津を一心に見詰める矢倉が突っ立っていた。

キューピッドの矢って、大天使にも効くんだ。などと感心している場合ではなく、

「お前ら、揃いも揃って、よくも俺の前で言えるな。」

ゼウスさながらの低く静かな声が、天から響いた。たちどころに、今の今までざわめいていた面々が、一斉に凍りついたように声の主を注視する。

「それじゃ、今年の雪掻きは生徒会長と、次年度階段長たちのローテーションで決まりっと。メンバーは、各々で集めること。異論がないようなら、解散していいぞ。」

寮内で僅かに残る3年生、受験本番を間近に控えながら3学期も帰寮した奈良先輩は、生徒会長すら子供扱いするその威厳を惜しみなく漂わせ、おもむろに室内を見回した。


(この後、託生くんはギイの愛により、再び天へ召喚されることとなり、白いローブを羽織る一員となるのでした。めでたしめでたし。)


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完璧に時系列を無視した、個人的趣味の作品です(笑)お付き合いありがとうございました。

ところで、広田透会長の身長は180cmを超えていたのですね(^-^; 小さいイメージが強いものでして。180cm超の長身で、生徒会室のドアを勢いよくガラリと開けたなら、前のめり気味で三洲会長には格好の餌食だったことでしょう(*´艸`)次巻には弥生三月が掲載されるでしょうか。