市街地の喧騒は、例年のごとし初詣客で賑わう鎌倉。幼い頃は祖母に連れられ参ったこともあるが、学業が忙しくなるに連れ機会もなくなっていった。その帰りだろう、晴着姿でそぞろ歩く人波を抜ければ、じきに出木の家が見えてくる。

「すっげ、なにここ。」

「ばあばん家。中は普通だから。」

「てか、庭なの? 駐車場なの?」

叔父の後をついて車を停めた真行寺は、その敷地を見て驚いていた。庭とも呼べない、ただ土を均しただけの空地のようなここでさえ、乗用車が軽く10台は入る。腰高の塀を挟んだ奥に広がる本格的な庭には、きちんと殖栽も施されているが、真行寺の目はそこまで届いていない。

「ばあばん家ってことは、元はお母さんたちも住んでたんすよね。」

「そうよ、もうずいぶん昔のことだけど。」

「お嬢さまじゃん。」

「あら、そう見えない?」

「俺、すっげアウェー感っす。」

「今更どうにもならないだろう。そもそも、行きたいって言ったのは、おまえじゃないか。」

「それを言われると………。」

「今日は、知哉くんもいるみたいね。きっと真行寺くんと、仲良くなれるわよ。」

空地の横にある正規の駐車スペースに停められた車を見た母が言うと、さらに真行寺は

「って、それ誰?」

「俺の従兄弟。知哉は、お前と同じ年だから。」

「アラタさんの、従兄弟?」

「ぷっ。なんだ、その顔は。」

真顔で繰り返す真行寺がおかしくて、小さく吹き出した。

「大丈夫だよ、真行寺。知哉は俺と違って、捻くれてないから。」

言って安心させると、困ったようにはにかむ。

やれやれ。ばあば会いたさに尻尾を振ったかと思えば、気後れして尻込みしてみたり、ほんと飽きないヤツだ。

「新も、知哉くんとはずいぶん会っていないだろう?」

「うん。大学に入ったばかりの頃に、一度会ったきりかな。」

「そんなに? 近くに住む従兄弟なのに?」

「時間が、ないんだよ。」

後部座席に座る母の前では、真行寺との本当の関係を知らせていない母の前では、いつも通りに言えるはずがなく言葉を濁さざるを得ない。飲み下した言葉の代わりに冷ややかに見やると、真行寺はばつが悪そうに運転席のドアを開けた。



通された客間には、祖母を始め家族が揃って俺たちを待っていた。午前中に自宅を出たはずが、今はもう昼を過ぎている。テーブルの中央には火を細めたコンロの上に鍋が置かれ、お節料理や酒肴がそれを取り囲む。

「まあまあ、真行寺くんまでご一緒。こんなところまでおいでいただいて、ごめんなさいね。」

「俺の方こそ。あ、明けましておめでとうございます。ずっとばあばに会いたかったっす。これ、ほんの気持ちっすけど。」

部屋の中で出迎えた祖母の傍に寄った真行寺が、お年玉代わりに持参した包みを、さっそく手渡している。母からの連絡を伝えた後、祖母が喜びそうなものを探しては、熱心にパソコンに見入っていた。普段は縁のない女性への贈り物、身近には男ばかりしかいない生活ゆえに、女性が身につけているものなど見る機会も少ない。あれこれ物色しては、ベーシックとトレンドどちらにすべきか悩んでいた。

驚きながらも、和んだ表情でそれを受け取る祖母。きっと、真行寺は亡くなった実のおばあちゃんにも、こうしてやりたかったのだろう。包みを手にした祖母を、満更でもない顔で見つめている。

「おばあちゃん、開けてみたら?」

「そうね。なにかしら。」

「絶対、ばあばにバッチリだと思ったんすけど。」

「すごい自信だね、真行寺くん。」

祖母を中心に囲み皆が見守る中で、知哉にからかわれた真行寺は赤面して俯く。だが、視線は祖母へ向いたまま。やはり反応が気になるらしい。

「あら、綺麗なお色。こんなおばあちゃんでも、似合うかしら。」

開けた中には、春を告げるような紅梅色のショールが、丁寧に畳まれ収められていた。見た感じ、温もりのある風合いに触れる祖母の白い指先。

「良く合ってますよ、ばあば。」

「あちらはまだまだ海風が冷たいから、重宝するだろうね。」

「着るものを選ばない色ね。おばあちゃま、今度、お着物を着て出掛けましょう。」

「本当ね。大切に使わせていただきます。お気遣いいただいてありがとう、真行寺くん。」

「ばあばが喜んでくれて、嬉しいっす。」

祖母から撫子のような笑顔を向けられ、満足げな真行寺が加わった会食は賑やかに始まった。




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前作からこのお話を書いていて、昔飼っていた犬を思い出しました(笑)動物病院の看護師さんたちが驚くほど甘えんぼうで、隙あらば膝に乗ったり、キッチンにもトイレにまでついて来ていました。寝ていると、こっそり潜り込んでくっついて寝ていました(笑)犬にも人にも懐くけれど、一声吠えられると猛ダッシュで戻ってきて、足からよじ登ろうと。まるで大橋先生の白衣を登る子猫達たちと同じですが、犬だけに登れません(笑)放置すると脱走して、隣家の犬小屋に入り込み隣家の犬と寛いでいました。超自分勝手で子供より手間のかかる犬でした。ついには、幼かった我が子が妬いて、しかも犬と母のどちらに妬いているのかわからないとまで言い始めたので、愛犬家の老夫婦に引き取っていただき終生幸せに暮らしていました。老夫婦宅では、男の子なのに雌犬が擦り寄ると逃げて、人か他の雄犬から離れなくなります(笑)血統書付きのハイソサエティとは思えぬほど、愛想良く愛嬌もあるのですが、本名はフランス貴族のように長い名前です(笑)血統書を見た人が、二度見した上に犬を見て笑い出すほどに。褒めると頑張るいい子でしたが、褒めるまでアピールをやめなません0(>_<)0 犬を飼う時には、小さなお子様がいらっしゃるご家庭はお気をつけください。これは本物の犬の実話です。


さてはてお正月のお話がまだ終わりません。松の内に終わるのでしょうか(^^;)タイトルが変わる可能性が(笑)