馴染んだ日本とは違う、クリスマスを控えたスペインの街並み。まだ、11月になったばかりの頃から始まったイルミネーション、すべての通りを覆い尽くさんばかりの装飾の数々が、今はもう街の一部と化している。

「クリスマスパーティー、か。」

街中にある、大きな広場では余さず開かれるマ―ケットも、すでにクリスマスムード一色。やはり本場は、厳粛なれど熱の入り方に格段の差がある。休日ともなれば、明るい顔をした人々が次々に訪れ、親しい人たちへの贈り物を目を凝らして物色している。

日本での最後のクリスマスは、受験前だってのに寮で仲間たちと騒いだっけ。

母校の祠堂学院では寮生活ということもあり、終業式が終わった夜、帰省を前にした一夜を、学生たちは賑わいに興じる。3年ともなれば卒業式まで登校しない奴もいて、この日が最後の夜。同じ一夜を過ごすなら楽しまなきゃ損とばかりに、戸惑う1年生を巻き込んで、盛大に盛り上げてやった。

1年の後期から生徒会長になった俺は、この年、部外者の立場から初めてクリスマスパーティーを楽しむことが出来た。引き継いだ新生徒会の役員たちが、俺たちに劣らず、政だけでは飽き足らず、祭事にまで精力的な奴らだったこともあるだろう。

それに、春に入学してきた1年共が例年になく華やかな連中だった。女の子が入学してきたと騒ぎになるほど美少女のような少年や、良家の子息には事欠かない祠堂にあって、尋常でないクラスの御曹子まで入ってきたものだから、種々のスキャンダルには暇がなかった。温故知新、祠堂は甚だ自由な校風であったが、あの学年は別格で、入学早々から次々に騒ぎを起こしてくれた。ゆえに、教師だけではなく生徒会の方にまで仕事が回ってきた。極めつけが、あの葉山だな。

だが同時に、イベントも華やかになった。自然と人目を引き付ける者、義務教育を終えたばかりとは思えぬほど所作に余裕のある者が多く、ノリの良い者に至っては途中から無礼講さながらに楽しんでいた。都会から隔絶された暮らしは、些細なイベントでも、積極的に楽しむ術を生み出すものである。

その中にあって、いつもと変わらず控えたところから眺めていた三洲。決して劣る容姿をしているわけではないが、その性格が彼の周りだけ温度を一段下げる。比べて、崎などは見た目の華やかさもさることながら、礼節を弁えつつも、その場の雰囲気を自ら率先して動かしていく。

最初に目につくのは、どうしても崎なんだよな。

そして、忘れられなくなるのが、三洲。

俺は、気づくのが遅すぎたか。あの受験生が春に合格していたことは、石川から聞かされていた。だが、まさかあの三洲が、あそこまで受け入れるとは。ことのほか穏やかで、いつも柔和な笑みを湛える三洲が、あの受験生にだけ見せた不機嫌な素顔。だが、だからといって諦められるのかと問われれば、俺は………。


『タカヒロ、日本に残してきた恋人へのプレゼント、悩んでいるのかい?』

『恋人ねえ………。』

『どうしたんだい? タカヒロらしくもない。』

『いや、フリオはもうプレゼントを買ったのか?』

『ああ、パーティーにはワインを差し入れることにしたよ。』

『飲んで食べて楽しんで、自ら動く、その方が建設的だな。』

『スペインでは、それが普通さ。』

情熱の国スペイン、冬真っ只中にあっても、その身の内側にある熱は変わらない。日本では美徳とされないものも、ここでは緩やかに人を取り巻く。

この熱に充たされたまま帰国することも、悪くはないだろう。



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クリスマス第1弾?