――――270号室にて
「真行寺、文化祭の劇、シェイクスピアの冬物語だったら良かったのにな。」
「どうしてっすか、大路先輩。」
「真行寺が王で三洲が妃。妃の気品、三洲にぴったりだろ。」
「それいいっすね。なんで文化部の先輩たち、そっちにしなかったかなー。」
「去年の運動部が洋物だったからな。対抗するならインパクトのある和物だろ。真行寺ならどっちでも似合うけど。」
「なんか今日の大路先輩、変っすよ。いつも俺を邪険にする癖に。」
「そうか?で、この物語は不倫疑惑で幕を開けるんだ。」
「アラタさんは不倫なんかしないっす。」
「じゃ、三洲が真行寺を好きになることもないな。普通に彼女作って、普通に結婚して真行寺の出番はなし。永遠の片思い、ご苦労。」
「や、アラタさんて気まぐれなとこもあるっすよねー、大路先輩。」
「で、不倫疑惑の他国の王が俺。」
「はあ!? それじゃ、まんまライバルじゃん。」
「ライバルになんかならないだろう。王が勝手に嫉妬に駆られるだけなんだから。」
「そうっすけど。じゃ、俺がアラタさんを牢屋に入れたり虐めるんすか?」
「ストーリー通りに演ればそうなるな。真行寺、いつもと違ってストレス発散になるぞ。」
「俺、嫌っすよ、後が怖いし。」
「でもそうして殺せば、永遠に王のものだから殺すんだろ?」
「それにしても……。もしアラタさんが死んじゃったら、あんなことやこんなことや出来なく――。」
「ん?」
「やや、なんでもないっす。」
「嫉妬に駆られたとはいえ、王もいろいろ悩んだ末に殺すことに決めたんだぞ。」
カチャリ
「誰が誰を殺すって?大路。」
「み、三洲………。なんでもないよ。な?真行寺。」
「は、はい。ね、大路先輩。」
「それで、なんで真行寺が俺の部屋にいるんだ?呼んだ覚えはないが。」
「そうだそうだ、真行寺。俺と三洲は大事な話があるんだ。」
「ひっでーな、大路先輩。アラタさんに会いに来たら入れっつったの大路先輩っしょ。」
「うるさい、真行寺。俺と大路は生徒会の件で話があるんだ。さっさと出ていけ。」
「三洲、これ頼まれてた会計報告のコピーだけどさ。こんな項目あったか?」
「ちぇっ。先輩ってホント理不尽だよな。失礼しました。」
カチャリ
「待て、真行寺。」
「なんすか?アラタさん。」
「ひとつだけいいことを教えてやろう。冬物語はラストシーンで、後悔した王の嘆きを聞いた妃が復活するんだ。そしてキスシーンで大円団。」
――――――――っっ。
「マジっすか!? やりぃ!まんま昨日のアラタさんっすね。」
「え?どういうことだ、真行寺?」
「やや、なんでもないっす、大路せんぱーい。」
「――――邪魔だ。とっとと出ていけ、恩知らずのばか犬。」
「はいはいはーい。じゃ、また来ますね、アラタさん。」
「金輪際、俺の前にその顔を見せるな、この駄犬が。」
「三洲、やっぱりあんながさつなヤツは近づけない方がいいぞ。」
「そうだな、検討の余地がありそうだ。大路、ありがとう。」
ふふん、真行寺、残念だったな。三洲は俺がもらう。
すべては大路の計画通りだった。