「びっくりしたー!!本当にそっくり!」

カオルとミズキが二人して顔を見合わせる。フウも頷き、キシも顎に手を当てて「想像以上だな」と呟いていた。

「皆さま、強運の持ち主でいらっしゃいますよ。王妃様と王子様がご一緒のところに巡り合えるなんてなかなかないことです。長い間行方不明でいらしたレイア王子が見つかったのも奇跡ですしまさかお会いできるなんて」

ガイドが興奮気味に話している。そう、王国は行方不明の王子が見つかったという話題で持ち切りだった。公表はしていないようだがそれでも人の口に戸はたてられない。もう国中に知れ渡ってしまっているようだった。

「レイア王子がご長男ですから、いずれ国王になるのはレイア王子なのかそれとも優秀でいらっしゃるアム王子なのか…国民の関心も高まってきてるようですよ」

「…」

ケイは胸が重たくなる。いよいよレイアが遠くに行ってしまいそうで切なかった。「信じて待ってる」とは言いきったものの、不安は完全には拭えない。会えない日が続くとそれは否応なしに肥大していく。

レイアの隣にいた彼の母親…王妃は驚くほど似ていたし、双子の弟であるアムも少し似通った雰囲気がした。三人は正真正銘の親子であることは全くの他人であるケイにも確信させるのに充分だった。

このまま、レイアはお城で手の届かない存在になるのかな…

揺らぐ不安に喘いでいるとぽん、と誰かが背中を突いた。

「心配すんなケイ、レイアに国王なんて務まんねえよ。あいつけっこう天然なとこあるし抜けてるし。厨房の女王が一番似合ってるって」

元気づけてくれようとしたのか、ジンがケイの背中を叩いて笑いながら耳打ちしてくる。

「そうだよ。レイアはお城にいるより船にいる方が似合ってる。日焼けしないのは船乗りらしくないけどね」

ゲンキもまた、ケイの肩に手を置きそう言ってくれた。二人の気遣いを有り難く感じながらケイは一度だけレイア達の行列を振り返った。

 

カミセブン号メンテナンス終了のお知らせは突然にやってきた。それもそのはず、工程などは末端船員が知るはずもないからだ。幹部船員からそのお知らせを聞き、クルー達はバカンスの終了と共に宿を発つ準備に入った。

「レイアのとこにも知らされてるかな…」

ミズキがそう呟いた。カミセブン号一行は空を見つめてそれぞれ想像をめぐらす。

「きっと届いてるよ」

キシがそう言うと、隅でタニムラが頷いていた。

そしてその日の昼ごろに宿の前に豪華な馬車が向かってくるのをちょうど買いだしを終えたフウが見かけて皆の元に走って知らせた。

「みんな!きっとレイア君だよ!早く!」

ばたばたと8人が集まり、宿の前でその馬車を迎える。ゆっくりとそれは停まり、従者らしき兵隊がかしこまりながらそのドアを開けた。

中から出て来たのはレイアである。だけど、どことなく気品が溢れていて少し違って見えた。船乗りではなく、それはやはり高貴な身分の者…王子の風格がわずか数日でもう呼び起こされてしまったかのようだった。

「…」

レイアに会えて嬉しい半面、彼が出した答えを聞くのがケイは一瞬怖くなった。身分の違いのようなものを否がおうにも肌が感じてしまって、信じているのに目の前にするとそれが揺らいでしまう…

だけどそれはやっぱり大切な存在だから…だから故の不安なんだ、とケイは自分に言い聞かせた。そしてその不安を一掃し、レイアの目を見ながらその答えを待った。

レイアは微笑む。それはまるで王子というよりは妖精のようで、ケイは状況を忘れて魅入った。

その妖精の小さな口がこう言った。

「ただいまぁ、みんなぁ」

「…!」

その一言で充分だった。ケイが声を出す前に皆が喜びの声を上げる。背中や頭をばしばしと叩かれ、「良かったなケイ!」「俺の言ったとおりだろーが!」「おかえりレイア君」「城で美味いもん食った?」と飛び交っていた。

「レイア…!」

感動の再会をはたし、感極まってケイは皆が見ていてももうどうでも良くなってレイアに抱きつこうとする。

「レイアああああああああああああああああ…ぶっ!!」

が、それは空を切った。レイアが踵を返し、馬車の中に向かって声をかけたのだ。ケイは勢い余って馬車に激突する。

「もったいぶってないで早く出てきなよぉ」

「?」

一同は狐につままれたような顔になり、お互い見合わせる。中に誰かいるのだろうか…そんな疑問が浮上した頃、レイアが皆を振り返って一つ小さな咳払いをした。

「えっとぉ…なんていうかぁ…どうしても船に乗りたいってだだをこねるから仕方なく連れてきたんだけどぉまずはキャプテンに了承を得ないといけないからぁ皆に話すのは後にしたかったんだけどまさかこういう形で出迎えてもらえるなんて思わなくってぇ」

「レイア、何言ってんの?だだをこねるって誰が?」

キシがケイを抱き起こしながら訊ねる。彼の鼻からは強打による鼻血が出ていた。

「ほらぁ。ちゃんと挨拶しなよぉほんとしょうがない弟ぉ」

「弟?」

またも皆が顔を見合わせると中から凄い勢いで人が飛び出してきた。

「何を言う。誰がしょうがない弟だ。いつから上から物を言える立場になったんだ。俺はお前が一緒に来てくれと言うから仕方なく乗ってやるだけだ。事実を捻じ曲げるな」

それはアムだった。彼がレイアにそうつっかかると負けじとレイアも反論する。

「誰も捻じ曲げてなんかないよぉ。僕がカミセブン号に戻るって言ったら自分も乗りたいって言ったじゃん。船乗りの仕事はきついし船酔いだってあるからアムには無理だよぉって僕が親切に忠告してやったのにどうしても乗りたいって我儘言ってぇ」

「どうしても、とは言っていない。どうせトキオ王国の王位継承者は18を過ぎると他国に留学をしなければならないしきたりがあるからちょうどいいと思っただけだ。それに、ちゃんとレイアのことも見張っておかないと逃げられでもしたら母上が気の毒だからな」

「誰が逃げ出すってぇ?僕は船乗りとして一人前になるまではとても王様なんて務まらないからぁってちゃんと言ったもん。お母さんだって分かってくれたじゃん」

「分かるもんか。それにトキオ王国の王子が再び戻ってきた時に彼氏つきで王女様になってたなんてシャレにならないからな。俺は国の未来を考えて船に乗るんだ。そういうことだ」

「とかなんとか言ってぇ自分が継ぎたくないだけでしょぉ」

「違う!何度言ったら…」

二人して兄弟げんかを始め、完全にカミセブン号一行達は置いてけぼりになった。しかしながら、彼らの言い合いを要約すると…

「アムが船に乗る…?」

「それって…」

皆がぼそぼそと呟き合っているのを受け、アムはコホン、と咳払いをした。その仕草はなんだかレイアに似ていた。

「まあそういう訳でだ、諸君の仲間入りをすることになった。気は遣わなくていい。よろしく」

「ええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!?」