「うおおおおおお、おっしゃれええええ!あ、これもいいな。こっちもいい!迷うなー」
「良かったねキシ君。あ、このバンダナいいね。船乗りにはやっぱりバンダナだよね。お、お揃いとかどうかな…」
「ちょっとフウこっち来て。これ取って。僕の身長では届かなくて…」
「おいゲンキ、何他の男に頼ってんだよ。俺様がいるというのに…あ、綺麗な花売りのねーちゃん…おいゲンキ待てよ。お前すぐ拗ねんなよ!待てってばおい!」
「ジンも懲りねえなー。あ、ミズキ、これ美味そう。買おうぜ」
「カオル無駄遣いやめなって。それよりあっちの店見たい」
「おいレイア、何読んでんの?ガイドブック?」
「ん、あのねぇ各国の王子様特集だよぉ。見て見てケイぃ。このニウス共和国のテゴシ王子って超かっこ良くない?一度でいいから会ってみたいよぉ憧れるぅ」
「はぁ?俺の方がかっこ良くねぇ?そう思うだろ、タニムラ?」
「…いや…気品が違…痛い!!脛は痛い!蹴るならお尻とかにしてくれ…」
「レイア僕にも王子様特集見せて。あ、エビシ国のトツカ王子が僕はいいなぁ。優しそうだし誠実そうだし…誰かさんみたくチャラくなさそうだしね、ジン?」
「ゲンキお前日に日に可愛くなくなっていくぞ…あ、おい待てって!俺が悪かったから拗ねるなって!」
「この国の王子様は載ってないみたいだけど…どんな王子様かなぁかっこいいかなぁ…」
「だから王子より俺の方がかっこいいって!おいレイア、聞いてんのか?」
わいわいやってるうちにミズキが町の中心部にあるおふれ書きの看板を見て皆にこう言った。
「ねえ見て。明日お城の一般公開があるんだって。お城に入れるみたいだよ。行こうよ!」
帝国では月に一度城の一般公開をしているようである。もちろん入れる範囲は限られているが、お城など全く縁のない船乗りにとってそれは魅力的な催し物であった。
「へぇ~お城かぁ。俺も行ってみたい!騎士とかいるのかな」
「あ?キシならここにいるだろカオル」
「アホか。キシじゃなくてナイトの方だよ。こんな汗だくが城にわんさかいたら暑苦しくてかなわねえよ」
「キシ君がいっぱい…夢のようなお城だね…」
「フウ大丈夫ぅ?回り過ぎでおかしくなっちゃったんじゃないのぉ?」
レイアがフウのおでこに手を当てて笑いが起こる。夜遅くまで観光を楽しむと町中にある「オンセン」と呼ばれる巨大なお風呂施設に皆で寄ることにした。
「おいジン…やっぱオンセンとかやめときゃよかったんじゃね?なんか嫌だぜ。レイアを見るあのオッサンの目すげーやらしくね?」
「俺もそう思ってたところだ。ゲンキのこと舐めまわすように見やがって…けがわらしい視線この上なしだな。飢えた狼どもの中に羊を放り込むようなもんだ」
ケイとジンは湯に浸かりながら深い溜息をつく。その側ではミズキとカオルがはしゃぎ、タニムラは隅っこで瞑想していた。「てめーやらしい目でレイアのこと見てんじゃねー!!」と早々にケイにいいがかりをつけられて蹴りを入れられたからだ。
ケイとジンがやさぐれているのにはもう一つ理由があった。
「うわー凄いよぉフウのこの腹筋。バッキバキだぁ」
「ほんと。ねえ、触ってみてもいい?」
「え?別にいいけど…なんかくすぐったいよ」
レイアとゲンキがフウの鍛え抜かれた肉体を褒めちぎるもんだから、貧弱体型のケイとジンはなんだか切ない。明日から腹筋運動でも始めるかな…と二人はぼんやり思っていた。
そしてキシは「サウナ」と書かれた部屋に興味を示してそこにいた。
「…熱い…ああでもなんか芯まであったまって良さそうな感じ…ここではどんだけ汗流しても文句言われなそうだし」
いつも汗だくだがそれ以上にぼたぼた汗を落としながら恍惚としていると、少し頭がクラクラしてきた。どうやらのぼせてきたようだ。ここで倒れたら全裸で運び込まれてしまう…それは格好悪いなと思い立ち上がると足がふらついた。
「おっとっとっと…」
よろめいて、入ってきたばかりの人とぶつかる。
「あ、すみませんちょっとふらついてしまって」
「…いえ。入り過ぎは良くないですよ。お気をつけて」
丁寧な口調でそう返して来たその少年はキシにそう忠告した。ぼんやりとした視界に映るその後ろ姿はひどくスタイルが良く、お尻のあたりに変わった痣が見えた。なんか前にも似たようなのを見たことがあるような…という気がしたがいよいよ視界がチカチカしてきてキシはサウナから出て水風呂に入った。
「あーやっぱ風呂上がりのミルクは格別だなー!!」
一足早くあがったカオルはぐびぐびとミルクを飲んでいた。ロビーには同じように風呂上がりの一杯を楽しむ客で賑わっている。
「にしてもオンセンって警備厳しいのな。なんでだろうな」
ロビーや受付、そしてオンセン場の入口に兵隊のような人が点在している。なんだか厳重態勢である。入ってきた時はそうでもなかったのだが…
まあいいや、とカオルはもう一本ミルクを買おうと小銭を握りしめる。今日はよく売れているのか最後の一本だった。よーし一気飲みだ、と思いながら売店のおばちゃんに声をかけようとするともう一本手が伸びた。
「最後の一本か。それも良かろう」
なんだか変に上品ぶった口調がすぐ側で聞こえたかと思うとその最後の一本はそいつに奪われてしまった。
こと食べることに関しては蛇のごとき執念を持つカオルは当然猛抗議である。
「おいちょっと待てよ!そいつは俺が先におばちゃんに金払ったんだぞ!俺が飲むミルクだ!返せ!」
「何を言う。俺はもう予め予約しておいたのだから君は間に合わなかったということだ。それに、見たところカロリーの摂り過ぎだからやめておいた方がいい」
すました顔で、なんだか上から目線でそいつはそうのたまった。年もそう違わないだろうし背はカオルと変わらないがなんか見下ろされている気がする。いけすかない感じだ。
「うっせーよ余計なお世話だ!いいからミルクくれよ!ミルクミルクうううううううううう!!!」
最後の手段、ジタバタ暴れるとその少年は呆れたようにカオルを冷ややかな目で見た後、ほうと溜息をついた。
「…幾つか知らないがもう少し品性というものを身につけておいた方がいいぞ。まあいい。確かに御気の毒ではあるからこれをやろう」
少年はガウンのポケットから何かを取り出した。チケットのようなものだ。
「何これ?こんな紙切れでごまかされるかよ!ミルクだよ!ギブミーミルク!」
「城の近くにメロン畑がある。そいつを農主に見せれば一つ丸ごとくれるだろう」
「え!?マジで!?ラッキー!!お前いい奴だな!」
カオルはコロっと態度を変えた。少年に礼を言うと彼はミルクを飲みながら去っていく。気のせいか兵隊風の人間もぞろぞろと引いて行った。
「なんだありゃ?まーいーか。メロン楽しみだな!棚からぼたもちってやつだな!」
カオルは上機嫌にチケットを握りしめた。