「…うぉえええええええええ…」

「大丈夫?キシ君。お水持ってこようか?」

キシとフウがこの船のクルーになって一週間。未だキシは船酔いとの格闘中だった。

「大丈夫かよキシ、ったく、いい加減慣れろよそれくらい。そんなんじゃ船乗り務まんねえぞ」

ケイが側で笑っている。レイアは心配半分、呆れ半分である。

「僕でも三日で慣れたけどぉ…キシもしかして一番向いてない仕事だったんじゃないのぉ?」

「うう…」

呻くキシの背中をかいがいしくフウはさする。彼はここへ来て一度も船酔いにあっていない。どうやら強い体質らしい。それをケイが指摘するとフウはにっこり笑った。

「揺れるのとか回るのは平気なんだ、昔から逆さまになって回ったりしてるから」

フウは甲板でその特技を披露した。周りから拍手と歓声がおこる。

「おーすげーな新入り!!なんつー技?それ」

「大道芸人でも食っていけるんじゃね?」

「もう一人の新入りは?またトイレか?あいついつになったら船酔いに慣れるんだろうな」

キシはトイレで涙目だった。便器が一番の友達である現状に泣きそうである。

そんなキシに朗報が飛び込む。明日、陸地に上陸するという知らせが舞い込んだ。

「ああ…地に足が付いてるって幸せ…!!」

船乗りらしからぬ感動を胸に、船酔いから解放されたキシはようやくまともに働くことができ、どうにか追い出されなくてすみそうである。ひと段落終えると夜まで自由にしていいと言われ、四人で散策に出かけることにした。

「すっげー…人がいっぱいだな」

上陸した港町は馬車や人でごった返していた。キシが田舎者丸だしな感じでキョロキョロしてあれやこれや指差して叫ぶものだから、ケイとレイアは恥ずかしくて距離を置いて歩く。フウはにこにことキシに付いていっている。

人が多い理由は立ち寄った屋台で立ち食いしていた時に店のおばちゃんから聞いた。三年に一度開かれる大バザーの開催期間だからである。

「すっげー!!バザーだって!珍しいもんとかあるんじゃないの?見に行こう!!」

キシが目をキラキラさせながら先頭を歩く。外国が初めてな彼にとって珍しいものばかりなのである。それはフウも同じだが彼はまだ大人なのかもしれない。

始めはそう乗り気じゃなかったレイアとケイも、想像以上の賑やかしさと規模に、テンションを上げた。世界中から珍しい品々が集まる上、しのぎを削っているからお買い得品も目白押しである。はしゃぎまわって買い物を楽しんだ後、バザーの中心部の大きなテントの看板に目が行った。

「サーカスだってぇ!凄い、僕一度見てみたいと思ってたの!」

レイアが跳びはねる。フウも興味があるようだった。

「すごい技いっぱい見られるのかな?行きたい!!」

「けどよー、入場料めっちゃ高いぞこれ。俺らの手持ちじゃ無理じゃね?」

ケイが看板に記されている入場料を見て目を細めた。とてもではないが、今の自分達の経済力では手がでない。それだけ有名なサーカス団、ということだろう。

「しゃーねー。諦めよう。お、あれなんだ?」

サーカスのテントの向かいの大きな広場にステージがあり、そこに人だかりができている。どうにかかきわけていくとそれは大食い対決らしい。ステージには体格のいい少年と、しかしその少年の倍の体積はあるであろう怪獣のような男が座っていて、彼らの眼の前には山のようなホットドッグが置かれている。

「すげー…なんだあれ、マジで食うのかよ…」ケイはどん引きだ

「僕なんか一個で充分だよぉ…信じらんないよぉ」小食のレイアも引いている

「うーん、俺もさすがにあの量は…」キシは汗をかきながら顎に手を当てた

「キシくんならいけそうだよ!」フウはキシの肩に手を置いた。

4人が固唾を飲んでいると司会者が声を張って盛り上げる。観客も総立ちで歓声をあげ、ステージ上の二人が睨みあった。

「泣いても笑ってもこれが決勝戦!!勝者には一年分のホットドッグ進呈!!それではぁ~!!ファイッ!!」

ゴングが鳴り、二人の挑戦者がホットドッグを流し込む。1つ、2つ…まるで吸い込まれるようにしてホットドッグは次々に両者の胃に収められていった。その壮絶な戦いに4人は魅入った。

「凄すぎぃ…あっちの子、僕らとそう年が違わなさそうなんだけどぉ…」

「ブラックホールみてーだなオイ…」

試合開始から10分、勝敗が明らかになり始める。大柄な男のスピードが鈍り始めたが少年は変わらぬスピードで食べている。その数分後、ギブアップにより勝敗が決まった。

「優勝はぁ~~~!!カオル君!!おめでとうございマース!!」

司会者に腕を上げられ、カオルと呼ばれる少年は雄たけびをあげた。

「うおおおおおおおおおおおやったぜミズキいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!」

トロフィーとホットドッグ券の束を手にしたカオル少年はインタビューが終わると足早に去って行く。

「いやー面白かったな。大食い対決とか初めて見た。やっぱ外国って面白いな。俺船乗りになって良かったよ」

「キシぃ…それは船酔い克服してから言いなよねぇ」

「あー胸やけしてきた。しばらくホットドッグ見たくねー」

「ケイ君、自分が食べたわけじゃないのに」

「でも僕達もそろそろ晩ご飯の時間だよねぇ。せっかくだからこの国の名物料理とか食べたいなぁ」

皆で店の物色をして回っていると当然というか迷ってしまった。勝手の知らない町に来た時はきちんと道を訊ねてから動くという鉄則を綺麗さっぱり忘れてしまっていたのである。

「どうしよぉ…船に戻るの遅くなりすぎると怒られちゃうよぉ」

おろおろとしていると、フウが何かを発見して指を差した。

「あれ見て!確かあの先端で光ってるやつさっきのサーカスのテントのてっぺんのやつと一緒だよね!」

フウの指差した先に彼方にキラキラ発光する装飾が見えた。ライオンのモチーフだったと思うが確かにそうだ。巨大テントの先端についていたものである。

「ありがてー!テントまで戻りゃあとは分かりやすい道だったよな!それ行け!!」

ケイが駆けだし、3人も追う。テントに戻るともうサーカスは終わった後らしく、客がぞろぞろと出てくるところだった。

「確かテントの裏手の道から来たよね」

キシがそう言って裏手に回ると、サーカスの出演者らしき人たちと道具が運び出されていてなかなか進めそうになかった。

「あれ?あの子…」

フウが指差した先にはさっき大食い大会で優勝した少年…カオルがいた。それともう一人、カオルよりは小柄な少年がいて、二人で何か話している。盗み聞きするつもりはなかったのだがそこを通らないと元来た道に出ることができないから自然と耳に入ってきてしまった。

「ミズキ、俺優勝したぞ!ほら、ホットドッグの券こんなにもらった。これでお腹いっぱい食べられるぞ」

「ありがとうカオル。でも俺…」

「何遠慮してんだよ!ほら、受け取れよ。俺なら大丈夫。バザー期間中は似たような大食い企画色々あるし、それで腹膨れるし」

「うん。でもこんなの持ってて団長に見つかったら俺怒られちゃうから…」

ミズキ、とカオルに呼ばれたその少年は精悍な顔つきをした美しい少年だった。衣装のような派手な服を着ているからサーカスの子かもしれない。4人がぼんやりと思っているとカオルが振り向く。

「誰?あんた達?」

「あ…」

どうしたもんかと答えあぐねているとケイが大きな声で答えた。

「いや、俺ら船まで戻んなきゃいけねーからこの道通りたいだけで別に盗み聞きなんてしてねーよ!てかお前、さっきの大食い対決の優勝者だよな?すげーなあんな大量のホットドッグ食うとか胃の中ブラックホールじゃね!?」

その声にサーカスの団員らしき大人がなんだなんだとやってくる。そしてその中の誰かがカオルを見て顔をしかめた。

「またお前か!おいミズキ、何やってたんだ!?誰だこいつらは!?」

「やべ…」

カオルが方目を瞑って踵を返し走り出した。何故かケイ達もそれにつられてダッシュでその場を去る。しかし追ってくる気配はないからすぐにカオルは止まった。そして振り向くと恨めしそうにケイを非難した。

「お前がでかい声出すから気付かれちゃっただろ!どーしてくれんだよ!」

「あ?知らねーし」

「まあまあケイ…それよりこの子に港までの道案内してもらおうよ。地元の子なんだったら知ってるでしょ?」

宥めすかすようにキシがそう提案して、渋るカオルを説得して港までの道案内をしてもらう。その途中で少し打ち解けたカオルは身の上を少し語った。

「俺は小さい頃に親亡くしてさ、この町で観光客相手にガイドしたり、食いもの屋の手伝いして余ったやつもらったりして生きてんの。家はアパートの屋根裏にタダで住まわしてもらってる。バザー期間中は稼ぎ時だし食いもん関係のイベントが催されたりして一年中で一番楽しい時期なんだよな。しかも今年は三年に一度の大バザーだし」

あっけらかんと語るが、なかなかハードな人生だ。だけどこいつなら逞しく生きていくのかも…と皆思った。

そのカオルは少し表情を曇らせて次にこう語る。

「けどさ、ミズキは可哀想なんだ。いつもサーカスでこき使われて飯もちょっとしか食わせてもらえない。育ち盛りなのに…」

「ミズキって…さっきの子ぉ?」

「うん。サーカスが一か月前からここに来てて、たまたまガイドした観光客が行けなくなったからって俺にチケットくれてさ。売って金にしようかとも思ったんだけど一度見てみたくて行ったらミズキがそこでピエロとか空中ブランコの手伝いとかしてて…サーカスよりミズキに夢中んなっちゃって終わったあと声かけたんだ。同い年の14歳だし、すげー気が合って…俺にはこの町で友達なんていないし嬉しくてミズキの役にたちたくて…」

「なるほど。それで大食い大会の景品をミズキにあげようとしたんだね。優しいんだね、カオル」

感心したようにフウが言うと、照れながらカオルは「よせよ」と手を振る。

「俺もサーカス入ればミズキといられるかなーと思って申し出てみたんだけど門前払いでさ。何回かしつこくお願いしたらあの通り害虫扱いだよ。ま、俺大食いしか取り柄ないから。ミズキに話しかけるのもあいつら良く思ってないし、だったらせめてミズキにお腹いっぱい食べてほしくてさ」

「いい話だなー」

キシは感動して鼻をすすった。ちょうど話し終えた頃に港が見えてくる。

「明日またこっそり行ってみる。ミズキと一緒にホットドッグ食うんだ!」

目を輝かせてカオルは去って行った。その眩しい笑顔に、4人はほっこりしていい気分で船に戻ったがとっくに門限が過ぎていて「こんな時間まで何やってたんだ!」と怒られてしまったのだった。

夕飯の席で、先輩クルーが盛り上がりながら紙きれのようなものをはためかせていた。

「そんでよ、腕試しにやってみたら優勝しちゃって。景品もらったんだけどサーカスとか俺興味ねーからお前らどう?半額で譲ってやろうか?」

「あ?サーカス?興味ねーわ。ストリップショーとかなら行きてえけどな!」

「ハハハ、でもストリップショーとまではいかねーけどベリーダンスのショーは劇場であるらしいから明日仕事明けたら行ってみっか」

どうやら誰かがサーカスのチケットをもらったらしい。だが荒くれ者だらけの船員たちには興味がないようだった。レイアとフウが目を輝かせて見つめ合う。

「僕欲しいですぅ。サーカス一度見てみたくってぇ」

「俺も!俺にもできそうな技があったらやってみたい!」

レイアがぶりっこを駆使し、働き者で先輩受けのいいフウが甘えてすかして、サーカスのチケットを4人分ゲットした。そして翌日、仕事を終えるとサーカスのテントにうきうきと向かったのだった。

 

 

 

「おおーすっげえー!!なんだありゃ!!」

「うわライオン!!俺初めて現物見た!!すげえ迫力!!」

最初はあまり興味のなさそうだったケイとキシも初めて見るサーカスに釘付けだった。あっという間に時間はすぎ、感動しながらテントを出る時にふとレイアが呟く。

「あれ?そういえばぁ…ミズキって子いたぁ?カオルの話だとピエロとか空中ブランコとかの補助やってるって言ってたけどぉ…」

「そーいやいたっけ?俺夢中んなってたから分かんねえ。キシ、フウどう?」

「俺も夢中だったし自信ないな。フウは?」

「俺も。火の輪くぐりできるかどうかずっと考えてたから…」

そんなことを話し合っているとちょうど観光客のガイドをしているカオルに会う。だが彼は浮かない表情だった。

「…ミズキが出てこねーんだ。気になってミズキ達の泊まってるテントの周りウロウロしてたらこんな話耳に挟んで…」

カオルは歯をくいしばりながら団員同士の会話で得た情報を語る。

「…リハーサルで補助とちって折檻されて出られる状態じゃないって…?そんな酷いこと…」

「サーカスって華やかな舞台裏は壮絶だっていうけど、それにしても…」

キシとフウは眉根を寄せて悲痛な表情になる。

「ミズキは元々ここじゃない国の出身で、家が貧しいから出稼ぎに出ないか、って誘われて行ったらサーカスだったんだって。半分騙されたみたいな形だよ。アクロバットが得意らしいから目をつけられたんだろうな。でもあいつ、サーカスでがんばってスターになれば家にお金を入れられるしいつかは戻れるからって信じてて…」

「けど、それじゃあ…」

「その前にミズキはこき使われてボロ雑巾みたいにされて動けなくなったら捨てられちまう…サーカスってのは元々そうなんだ。身寄りのない孤児を集めてこうしてこき使うだけだって…でも信じてるあいつの眼を見たら俺、そんなこととても言えないし…」

カオルは頭を抱える。なんともやりきれない話だった。ケイもレイアも、キシもフウも天涯孤独なのは同じだがこうして仲間に恵まれて過ごしている。世の中に数えきれないくらいの悲劇が溢れる中、自分達は運が良かったのかもしれない、と思う。

「ミズキを助けたいけど、俺の力じゃどうしようもない…せめてホットドッグだけでも…」

そう呟くカオルの手にはホットドッグの無料券が握りしめられていた。その券がくしゃくしゃになる。

そのくしゃくしゃになった券に雫が落ちた。

「サーカスなんてなくなれば…あいつを解放してやれるのに…!!」

「…」

4人は今しがた出て来たテントを見つめた。ショーが終わって大満足で出てくる客たち…その客に愛想を振りまいて見送る団員…全てが今はひどく色褪せて見えた。

この巨大なテントの裏にある小さなテントに今少年が一人苦しみながら蹲っている。その事実を一体誰が知り得ようか…

いてもたってもいられなくて、カオルと共にミズキのいるテントにこっそり忍び込む。サーカスは今、客の見送りでその後は後片付けだから暫く誰も戻って来ない。その隙にミズキと会って話を聴こうとした。

「カオル…?」

ミズキは薄暗いテントの中で、粗末な蒲団の中に蹲っていた。カオルが入ってきたのを察知して身を起こす。

「…ミズキ…」

想像以上に悲惨な姿に、カオルはもちろんのこと4人は涙が出そうになる。

半袖からのぞくミズキの両腕には無数の赤い蚯蚓腫れが走っていた。その美しい顔の左半分には大きな痣が、裸足の足にも幾つか怪我が見えた。しかしそれより何よりも彼の口から出た言葉にこらえきれないものがこみ上げる。

「俺は大丈夫。明日はミスったりしないし、上手くやるから…。今日はいきなり目眩がしちゃって受けそこなっちゃったんだ。明日は必ず…」

「何言ってんだよ!!目眩はお前がろくに食わせてもらえないから起こったんだろ!今日は何か食べたのかよ…?」

「そんな…サーカスにも出られないのにご飯なんかもらえないよ…水だけあっちの井戸で汲んで飲んだけど…」

「このままじゃお前死ぬぞ!いいから今から俺とホットドッグ…」

「ごめん、ちょっと今日は気分が悪くて立てないから…また明日…」

息も絶え絶えに、ミズキは掠れた声でそう返す。だけど皆は思った。明日はない、と。

こんな状態で明日またステージに立てるはずがない。そうすればまた折檻だろう。そうして命が尽きるまで誰にも救いの手はさしのべてもらえない。

どうしたらいいんだろう…

惨い現実に己の非力さだけを思い知らされる。ここから解放することも、救ってやるともできやしない。

やりきれなさにカオルは涙を流した。その嗚咽だけが小さなテントに谺する。

しかしその嗚咽が止まる。それは、ミズキがカオルの手を握ったからだ。

「ありがとカオル、心配してくれて。ここに来てから俺のことそんなに気にかけてくれる人に初めて会えたよ。だから俺、サーカスに入って良かった。そうでないとカオルに出会うこともなかったから」

「ミズキ…」

「早く元気になってホットドッグ食べに行くよ。昨日は断っちゃったけどやっぱり食べたいし。なんとかみんなの眼を盗んで…」

そう言いかけた時である。キシがまず始めに異変に気付いた。

「…なんか焦げくさくない?」

続いて騒然としたざわつきが徐々に増してくる。なんだろう、とケイがテントの外を覗いて仰天した。

「なんだありゃ!!テントが燃えてるぞ!!」

「ええ!?」

皆で外に出ると巨大テントから火の手があがっていた。団員が消し止めようとするも虚しくその火は瞬く間にテントに燃え広がり、凄惨な光景と化してゆく。

逃げまどう人々、燃え盛る炎、凄まじい熱気、むせかえるような灰の臭い…辺りはもう滅茶苦茶だった。

「ちょっとこれここにいたら俺らもあぶねーぞ!」

ケイがそう言ったのを発端に、カオルがミズキを抱き起こす。

「カオル…?」

「行くぞミズキ!!チャンスだ!!逃げるんだよ!!」

「でも…どこに…」

「そんなの分かんねえよ!!でも…俺がお前のこと守るから一緒に来い!!」

カオルはミズキを抱き抱えた。

「カオル、一人で抱えるのは無理だよぉ、僕らも手伝うからぁ!」

「5人で抱えりゃダッシュできる!!行くぞ!!」

キシがそう発して、皆でミズキを抱えて火の手から逃げる。本能的に戻ってきた先は港だった。

港からもサーカスのテントの炎が遠くに見えていた。碇泊している船からは野次馬がぞろぞろ出てきていた。皆騒然とし、ざわつきは収まらない。

「だけど、なんであんな火事が…」

「多分…火の輪くぐりで使った火のタネの処分を忘れてるんだ…他にも火を使う演出は沢山あるしすぐに燃えるように発火剤が沢山置かれてるから、そこに燃えうつったらあれぐらいの火にはなるよ…その処分の役目はいつも俺だったから」

そう分析した後、ミズキが弱弱しく呟く。

「どうしよう…これから…」

その手はしっかりとカオルの手を握っていた。

「逃げたのがバレたらやばくない?どっちみちサーカスはもうダメだろうけど…」

フウが呟くと、ケイがぱんと手を叩いた。

「そうだミズキ!!船に乗れよ!お前サーカスやってっから身軽だろ?マストに昇って帆を調整する持ち場が人出足りないんだ!キャプテンに話してみる俺!!」

「え…」

「それナイスアイデア。ここにいたらミズキ見つかっちゃうとまずいし、船ならもうここを発てば足がつくこともないし」

「ケイってアホだけど時々頭冴えるね」

「あ!?なんか言ったかキシ!?」

ケイがキシを蹴りつけ、一件落着に思われたその時…

「カオル?」

「俺も行く」

「え!?」

「俺も船に乗る。ミズキが行くなら俺も乗る!!残飯処理でもなんでもやってやるよ!!」

何故かカオルは自信満々だった。レイアとケイは顔を見合わせる。

そして吹きだした。

「残飯処理なんてないよぉカオルぅ。船の人たちはすごいよく食べるからご飯が余ることなんてないよぉ」

「おめー他になんか取り柄ねーのかよ。大食い以外に」

言われて、カオルは頭を悩ませる。

「取り柄?あー俺この愛くるしい顔で観光客のおばちゃんに人気だったから船のマスコット的存在になれるかも」

「アホかてめえは。船におばちゃんなんかいねーよ。むさくるしいおっさんと無骨な兄ちゃんばっかだ!」

「いってーな。すぐ蹴るなよ!」

ケイとカオルがぎゃあぎゃあと低レベルなやりあいをする横でフウが問う。

「ミズキはどう?」

「…うん、置いてもらえるなら俺、なんでもするよ」

「大丈夫だよミズキ、船の人たちはまあ荒くれた人ばっかりだけどきちんと仕事すれば優しいしご飯も一応三食食べさせてもらえるし少ないながらもお給料も出るからさ。がんばって貯金していつかは…」

「うん。一人前になって母さんと父さんと弟のいる家に帰るよ」

綺麗なミズキの瞳はキラキラと輝いていた。その横でもうすっかりカミセブン号のクルーになったつもりのカオルが拳を天に突き上げながら雄たけびをあげていた。

そしてカミセブン号にまた新たなクルーが二人加わったのだった。