「イエーーーーーーシソデレラーーーーーーーーーーパツキンーーーーーー!!!」

「イッツァ、スモーーーーーーーーーーールワーーーーーーーーーーールドーーーオオオオオオ!!!」

ジンとアムはリゾート気分でノリノリだ。ミックーサングラスも買ってテンションマックスになっている。肩を組んでパリピ全開である。

「もう…二人とも…恥ずかしいからちょっと離れて」

「ゲンキ、そう言うお前こそそのミヌーカチューシャはなんだ?もう二十歳にもなろうとしている男がそんなもんつけて俺たちと大差ないじゃないか」

「いいんだよ…僕は可愛いからこれくらい許されるよ」

普段は謙虚なゲンキもリゾートの開放的な気分でちょっぴり大胆発言だ。

「レイアみたいなことを言うな。そういやあいつらはどこへ行った?」

アムは今更レイア達がいないことに気付いたようだ。きょろきょろと辺りを見渡す。

「知らねー。俺らとは群れたくねーんだろ。フウとカオルはともかくレイアと回ったら喧嘩ばっかになるだけだから別にいーし」

「もう…ジンは子どもなんだから…僕から見たらどっちもどっちだよ」

「本当にな。トウキョウドームでは何年ぶりかのジグレアがドーム全体を揺らしたというのに」

「あ?どこの何の話だよ。それより俺はシソデレラとは絶対写真撮影するからな。お前らも探せ」

呆れ目のゲンキはしかし次の瞬間その大きな瞳を輝かせた。パークの人気者、ミックーマウスが現れたからである。

「ジン!アム!ミックーだよ!!こんな…いきなり出会えるなんて今日はラッキーデーだね!!早く!!ボーっとしてないで写真撮るよ!!」

興奮したゲンキはジンとアムの首ねっこを引っ張って行列に引きずっていった。こういう時の腕力はおよそ乙女な見た目とはほど遠い。

「ああ…ミックーと2ショットだなんて…前に来た時はどうしても出会えなくて泣く泣く帰星したから…夢みたい」

「俺はあんな着ぐるみよりシソデレラとか黒雪姫とかと撮りたいぜ。ゲンキ興奮しすぎじゃね?」

「何言ってるの!!ミックーは着ぐるみなんかじゃないよ!!パークの人気者なんだから人なんて入ってない!あれはミックーっていう一つの生物でくぁwせdrftgyふじこlp;@!!!」

ゲンキは人が変わったかのようにまくしたてる。温厚で冷静なゲンキは遙か彼方に行ってしまった。般若の形相で「ミックーとは」をジンに論説し始めた。その間に順番がちょうど良く迫ってくる。

「ゲンキをここまで変えてしまうとは…夢の国恐るべし」

アムが感心しているとパークのキャストが陽気にやってきた。

「ミックー!お客さんたちには申し訳ないけど、今からステージに出なきゃいけないから来てくれるかな?」

ミックーは「OK」のサインと両手を合わせて並んでいる客たちに「ごめんね」のジェスチャーをした。

「じゃああと5名様と撮ったら来てくれる?待ってるからねー!」

キャストは陽気に去って行き、ミックーはその後ろ姿に手を振る。

「5名様…って…」

ゲンキは数えた。1,2,3,4…

「俺たちは6番目だな」

アムが無情にもその数字を叩きだした。ゲンキは絶望の表情になる。

「嘘だ…ミックー…そんな非情なことって…夢の国なのに僕には夢を見ることすら許されないのか…?」

「しゃーねーよゲンキ、諦めて次行こうぜ。マーメイドラグーンとか…」

「嫌だ…僕はミックーと写真を撮りたい…世界を救うゲンキスマイルとミックーのコラボなんて夢そのもの…それなのに…」

大きな瞳が瞬く間に潤みだす。さっきまで幸福感に満ちていた笑顔はもうそこにはない。あるのは非情な現実に打ちのめされた絶望だけ…

世界中の不幸を背負ったかのようなそのゲンキの悲壮感にジンとアムはどん引きだった。

「長い付き合いだけどこんなことでここまで落ち込むなんて知らなかったぜ…」

「確かもう二十歳だと聞いたが…ミックーと写真が撮れなくて不幸のどん底を演出する二十歳の男…ううむ…」

コイツをどうしたもんか…と二人で腕を組んで頭を悩ましていると、突如としてけたたましい笑い声がすぐ側で響いた。

「ギャハハハハハハハハハハ!!!おめーそんなにミックーと写真撮りたいのかよ!!!マジウケる!!ギャハハハハハハハハ!!」

どこのオーサカ星のおばちゃんだ…?というような下品で汚らしい笑い声…それはすぐ前に並んでいた男から発せられていた。

「たかが着ぐるみじゃねーかよギャハハハハハハハハハハ!!!」

「着ぐるみじゃない…あれはミックーっていう一人の生き物…」

絶望してなお己のミックー論を説こうとするゲンキの涙を誘う姿にジンとアムは感動すら覚えた。ゲンキ、お前は真のドリーマーだぜ…

「そんなに撮りてーなら譲ってやってもいーぜ!!!俺はミックーにアッパーかましてるとこ撮ってもらってあんにゃろうに送ってやろうと思って並んでたけどよギャハハハハハハハ!!!!」

声と喋り方こそクソ汚いがしかしよく見るとその男はなかなかの美形だった。顔が小さくて足も長くモデルのようだ。くりくりとしたぱっちりお目目も可愛らしく喋りさえしなければ女性もイチコロだろう。

「え…ホントなの…!?」

「おおよ!!おめーにはこんだけ笑わせてもらったからな!!!あーおもしれーミックーと写真撮れなくて絶望に浸る二十歳の男ギャハハハハハハハハハハ!!!」

「あ、ありがとう…!!」

ゲンキは立ち上がり希望にまた瞳を潤ませる。

「いいってことよ!!まーおめーが俺の昔の知り合いにちょっとキャラ似てて可愛こちゃんだったからよ!!ギャハハハハハハハハハハ!!!」

「ミックーにアッパーって…そんなことしたらパーク出禁になるぞ…」

「けどなんか知らねえけど面白そうな奴だな。うるさいけど」

無事ミックーと写真が撮れて幸せの絶頂のゲンキはお礼のその男に食事を奢ることにした。ジンとアムもその底なしに陽気な男と意気投合し4人でパーク内を遊び歩いた。

 

 

本日の講習が全て終わりキシ君は心地よい疲れと共に講義室を後にした。

「やっぱ宇宙船は日々進化してるんだなー。最新式のシステム憧れるけどリフォームのローンもあるしまだ夢だな。仕事をいっちょ前にこなしていつかは俺も大型宇宙船持ちたいなあ」

そんな大志と共にロビーに降りるとさっきのパイロット講習で一緒だった少年がまた顔を青くしている。

「どうかしたの?」

「携帯無線が見当たらなくて…あれがないと知り合いと連絡が取れない…」

「知り合い?待ち合わせでもしてたの?」

「今夜泊まるところをその知り合いが手配してくれてるんだけど、まだ場所もホテルの名前も聞いてなくて…どうしようどうしようどうし…」

見る間に悲壮感が漂い出す。キシ君はなんだか気の毒で仕方がなかったからちょっと力を貸すことにした。

「落とし物ならこのビルのサービスカウンターに届いてないかな。聞いてみようよ」

「はい…」

しかしサービスカウンターには届いていないとのことだった。講義室にも寄って座った席の周辺も探してみたがない。

「ここに来るまでの道で落っことしたなら交番とかに届いてないかな?」

「ここへは宙港からタクシーで直接来たんだ。俺は方向音痴ですぐ迷うからって知り合いが無理矢理乗っけたからどこも歩いてない…」

「だったら宙港かもしれないよ。俺もカミセブン号宙港に停めてあるから一緒に行こう。宙港のサービスセンターに行けばあるかも」

「あ、ありがとう…」

しかし願いも虚しく宙港のサービスセンターに届いている落とし物の中に彼の携帯無線はなかった。

「どうしよう…」

いよいよ暗黒に染まろうとしているその少年は絶望感をその背中に漂わせた。負のオーラでやられそうだ。キシ君は逃げ出したくなったが乗りかかった船。沈む前に波止場に停まらなければ。

「と、とにかく、その知り合いも君と連絡つかなかったら不思議がるだろうし困ると思うから宙港の伝言サービスセンターに行こう。無線の番号さえ分かればメッセージも送れるし」

「はい…すみません…」

「良かったらそれまでうちの宇宙船で休んでく?狭いし綺麗とは言いがたいけど…」

「いいんですか…?」

すがるような目で少年はキシ君を見る。なんだかとてつもなく厄介なものを背負い込んだような予感がしたがキシ君は無理矢理それを払拭した。

カミセブン号に戻るとまだ誰も帰ってきていなかった。夕飯までには戻ろうという約束だったからまだそれまでに一時間近くある。そうこうしているうちに皆揃うだろう。キシ君は少年にお茶を淹れた。

「ありがとうございます…」

ふうふうとキシ君の淹れたお茶をすすって少年は沈黙した。若干気まずいからキシ君は話題を振ることにする。

「うちの従業員がもうすぐ戻ってくると思うけど、なかなかに個性が強いから圧倒されないでね。みんな気のいい奴で…」

「従業員…何人くらいですか…?」

少年は暗い瞳でお茶を見つめている。

「えっと、1,2、3…6人かな。なんだかんだ増えていってさ」

「6人も…」

少年は青ざめる。そうしてぶつぶつ何かを呟きながら両手の親指と人差し指をくるくるとやりだした。奇妙な動作にキシ君は引きながらも訪ねてみた。

「あの…どうしたの…?その動作は一体…」

「気にしないでください…自我修復です…こうでもしていないとこれから6人もいる空間に自分が耐えられる自信がなくて…クセなんです。小さい頃からの…」

「あ…そう…」

誰でもいいから早く帰ってきてくれ…キシ君は願った。そうでないとどんどん自分もこの暗黒ペースにひきずりこまれそうで怖い。

そして待つこと小一時間…ようやく皆が帰ってきた。先にジン達が、そしてそれからほどなくしてレイア達が帰宅したがそこで思いがけない展開が訪れることとなる。

 

 

「カオルぅ、帰る時間までになんとかしてよねぇ。でないと置いていくからぁ」

「任せとけ任せとけ!よ~しカオル・クラモトはりきっちゃうぞー」

カオルがパーク内のイベントである大食いに挑戦し始め、フウとレイアはそれを観覧席で見ながら待つ。巨大なピザが運ばれてきて挑戦者達が一気に食べ始めて会場は大盛り上がりだ。

「しかしよく食べるよねぇカオルはぁ。あんな大食い宇宙でも数えるほどじゃないぃ?たらればになるけどJr大賞の大食い部門で何連覇もできそうだよぉ」

「凄いよね。ブラックホールってあのことを言うんだろうね。宇宙って広いよね。まだまだ知らないビックリ人間がいるかも」

「フウほどのビックリ人間もそうはいないと思うけどぉ。回って台風起こせるのって全宇宙でもフウだけだと思うよぉ。そういう意味でフウは宇宙一じゃなぁい?」

「そうかな…怒られることの方が多いからあんまり回っちゃいけないと思ってるからそんなフウに言われると照れるな」

フウは頭をかく。カオルは5個目の巨大ピザを食べ始めていた。

「そういえばさぁ、昔ナイショで行ったイベントでフウが回り出しちゃって大混乱になって二人して怒られたこともあったよねぇ。それにぃ…」

レイアは機嫌がいいのか昔話に花を咲かせ始めた。フウはそれをえんえんと聞いて相槌を打つ。気が付けばカオルは20個目に突入していた。

「なんか懐かしいね。あの星を離れたのが遠い昔みたい。色んなことがあったね」

「そうだねぇ…ってフウ、懐古するには早すぎないぃ?時間にしてまだ半年程度だよぉ」

「そっか。そうだね。俺たちがキシ君に出会ったのが5ヶ月くらい前だから…そういうことになるね」

「平和っていいよねぇ…何にも代え難いよぉ」

「うん」

二人で思いを馳せているとカオルの優勝と共にファンファーレが鳴り響く。ちょうどいい時間だ。

「いやー大漁大漁!!これでしばらくはピザに事欠かないぜ!!今夜はピザパだな!!」

優勝賞品の冷凍ピザ三ヶ月分を抱えながら上機嫌でカオルは笑う。フウとレイアもピザが好きだから一緒に喜んだ。

「凄いねカオル!フリーザーに入るかな!?」

「そうだねぇフウ。食費抑えられるしキシ喜ぶかもぉ」

きゃっきゃわいわいと騒ぎながらカミセブン号の格納庫に到着する。別行動を取ったジン達も講習を受けていたキシ君たちももう帰っているらしく、リビングルームの方から何やら賑やかしい声が聞こえた。

「なぁ、いきなりこのピザの山放り込んだからみんなビックリするかな?」

カオルがイタズラっぽく提案した。フウもレイアもイタズラは大好きだ。賛成し、足音をたてず気配を殺して三人でピザの箱を抱えた。

「せーのでいくよぉ。せーの…」

1,2の3で扉を威勢良く開く。そして「ジャンジャジャーン!!」とピザの箱をドカドカと放り込んだ。

「宅配でーす!!カミセブン号に三ヶ月分の冷凍ピザ、お届けに参りましたぁ!!」

宅配員よろしく叫ぶと案の定中にいた奴らがなんだなんだと騒ぎ始める。大成功だ。

「びっくりした!?カオルがね、大食い大会で優勝してもらった商品なんだよ!」

まずフウがそう説明をしながら中に入る。

「カオル様のブラックホールならちょろいもんよ。今夜はピザパだぜお前ら」

少し気取りながら次にカオルが中に入った。

「キシぃ、ちょっとは食費助かるでしょぉ?」

最後にレイアが小悪魔スマイルで入る。

中にはもう皆揃っていた。だが気のせいか人数が多い。確か全員で7人だからレイア達3人を除いた4人のはずなのにやたら空間が狭く感じた。

「あれ…お客さ…」

そこでフウの時が止まる。

レイアも同じくして小悪魔スマイルから驚愕の表情に変わった。そして二人は同時にこう呟く。

「嘘だ…」

なんだお客さん?誰その二人?キシ達の知り合い?」

レイアとフウの異変をまだ察知しないカオルの呑気な一言が響いた。