今日もゆかいなカミセブン号。定員満杯の7人を乗せて遙か彼方のゴッドセブン星を目指す。年頃の少年たちは和気藹々と業務に励むが…
「ちょっとおおおおおおおおおおおおおお誰だああああああああああ機関部の冷却液漏らしたのはああああああああああレイアあああああああジンんんんんんんん今日という今日こそは許さんんんんんんんんんんん!!!!!!」
目覚まし時計ではなくエラーの警報音で目が覚める。慌てて詳細を確認すると機関部の冷却液が漏れてオーバーヒートを起こしかけていた。
「はぁ?人を疑うのも大概にしなよぉ濡れ衣だよぉ濡れ衣ぅ!」
「そうだぜキシ君。レイアはともかく俺はやってねーよ。んなミスするかよ」
「なんだよぉレイアはともかくってぇ。そっちこそ機関部の近くで夜通しオナってたんじゃないのぉ?ジンの精液ってなんか酸性っぽいしぃ」
「んだとコラ!誰が酸性だ!てめーこそほんとにチンチンついてんのか今この場で確認させろや!あぁ!?」
「うわヤダほんと最低ぇこの歩くセクハラ洗濯板ぁ悔しかったら鍛えてみろよぉ」
レイアとジンは舌戦を繰り広げようとするがそれどころじゃない。依然として警報音は鳴り止まない。応急処置に向かったゲンキが鬱屈とした表情で戻ってきた。
「ゲンキ!直りそう!?」
キシ君が駆け寄るとゲンキは首をかしげて渋い表情をする。
「とりあえずやれるだけはやったけど…早くどっかの星に停まった方がいいと思う。このまま運行続けててもっと悪化したら困るし。宙港の修理所でいっぺん見てもらった方が…」
「そ、そうか。じゃあ近くの星を探してみる。えっと…フウ?どこ行った?手伝ってほしいんだけど…」
いつも早起きで緊急時には一番に駆けつけてくるフウの姿がない。レイアたちも一時休戦して探すと難しい顔のアムの後ろから悲壮な表情のフウが現れた。
「フウ、どこ行ってたの。探したんだよ。…つっても狭い船内だけどさ。こうしちゃいられない、早くどこか停まれる星探さなきゃいけないんだ。手伝って」
「ごめんなさい」
「へ?」
フウはその純粋な目からぽろぽろと涙を零し始めた。みんなぎょっとしてそれを注視する。
「早く起きたからヘッドスピンの練習しようとしたら…機関部にぶつかって…そしたら警報が鳴って…俺のせいなんだ…ごめんなさい…ごめんなさい…」
「うそ…」
警報音を鳴らすのはレイアの得意技のはず…そしてジンが乗ってからは彼も負けじとエラーを起こす…てっきりどちらかがやったと思ったのだが…
しかしそうなるとキシ君は反省しておんおん泣くフウを宥めないわけにはいかない。努めて明るい声を張り上げながらフウの背中をさすった。
「ドンマイドンマイ!失敗は誰にでもあるって。幸いうちには整備士のゲンキがいるんだしこうしてすぐにエラーの原因も分かったし宙港の修理所で直してもらえばなんてことないよ!さあ泣いてないで手伝ってよ。フウが補助してくんないともう大変なんだから」
「おいおいキシ君俺らの時と態度が違うじゃねえかよ。贔屓だ贔屓」
「そうだよぉなんでフウの時だけドンマイドンマイで僕らには許さんんんなんだよぉ」
ジンとレイアがぶーぶー非難してくるがアムが紅茶をすすりながらツッコミを入れてくる。
「そりゃあ頻度の違いだろう。お前らはしょっちゅうやらかしている上に役に立たないがフウはキシ君の補助を一手に担ってるからな」
「そういうこと。さ、フウ頑張ろう!ひと仕事終えたら休憩にしてカオルお手製のアップルパイでも食べよう」
カオルはこの非常時にも「俺は今アップルパイ作りで手が離せない」と一蹴した。いい匂いがたちのぼり始めている。ぶーぶー言ってたレイアとジンもアップルパイの魅力に負けてティータイムを楽しみ始めた。
そして二時間後、カミセブン号は最寄りの星に停まり修理に半日ほどかかるというので気分を直してそれぞれ観光に出かけることにした。
「よし、まずはこの俺にふさわしいプリンセス探索だ。プリンス星のプリンスこと星民の彼氏ジン様に選ばれる幸運なプリンセスをな」
似合わないグラサンをかけてジンは張り切っている。キシ君とゲンキは呆れて放って行ってしまった。
「なんだよキシ君もノリわりーな。前はあんなじゃなかったぜ。ゲンキもゲンキだ。いつまで草食キャラ貫くつもりだ。時代は肉食キャラだろ…ああいう奴に限ってパツキン巨乳外人美女好きとかそういう性癖持ってっから草食キャラなんか信じない方がいいんだブツブツ…」
一人でぼやきながら歩いて行くと、道行く女性がなんだか自分をクスクス笑っている気がする。あっちもこっちも綺麗なお姉さんの隣には男がいてなんだか虚しい。破竹の勢いのチャラ男キャラが最近身を潜めているとの評判も良く耳にする。ジンはショーウインドウに映った自分の姿を改めてまじまじと見た。
「…」
なんだか自信が失われると誇らしいこの容姿もくすんで見えてしまう。俺は一体どこへ向かっているのか…なんて自問いもやってきた。
「まさか…実は俺はカッコ悪いなんてことは…いやそんな…そんなはずはない…ぐげ!」
必死に自分を保っていると頭上に何か落ちてきた。痛みにうずくまっていると「すみませーん」と誰かの声が後ろから響いた。
「すみませーんうっかり落としちゃって。大丈夫ですかぁ?」
これが美女なら恋の予感なのだがその声は男のものだった。痛みと精神的不安定でジンは頭に血がのぼる。
「いってーな何しやがんだ!このビューティフルフェイスにもしものことがあったらどうしてくれんだ!てめーどこのどいつだ!名を名乗れ!!」
とりあえずありったけの剣幕を放って振り向くとそこにはちょい年下っぽい少年がぽかんと立っていた。
「あ、ハイ。俺の名前はミナト・マツイです…あの…失礼ですがあなたは…」
「あ?俺か?俺の名をようく覚えとけ。ユータ・ジン・グージだ。プリンス星が誇る星民の彼氏とは俺のことだ」
いつもの決め台詞もちょっと自信なげになってしまうのは仕方がない。
だがミナトと名乗った少年はふるふると唇を震わせこう呟いた。
「凄い…カッコいい…」
「へ?」
「カッコいい…星民の彼氏…ファッションもキマってるし下げたグラサンから覗く子鹿のような瞳…俺には出せない…こんな雰囲気…」
ミナトはジンの手をがしっと掴んだ。
「あなたこそ俺の求めていた理想像!恋人にしたいJrです!弟子にしてください!」
「弟子…?」
「ハイ!俺…今キャラ設定に悩んでて…このまま「ウサちゃんピースとかやっちゃいます」とか「三代目ぶりっこJr目指します(はあと)」とかやってていいものなのかって…クラJも解体されたし望んでないのに身長がぐんぐん伸びてくるし先の見えないトンネルに迷いこんでて…」
確かになんかちょっとそんなテイストを感じなくはないがジンはそんなことよりミナトの自分への憧れの眼差しになんだか新鮮な感動と共にさっきまでの迷いが晴れていくのを自覚した。
「あなたのようなカッコイイ人のそばにいれば俺ももうひと花咲かせられるんじゃないかと思ってビビビっときました!ぜひぜひ弟子に!」
誰かから尊敬されるというのはこんなにも気持ちがいいものなのか…ジンは震えた。これまでどちらかというとクスクス笑われたりレイアみたくハナっからバカにしてくる奴の方が多かっただけにこんな無条件に慕ってくれる存在は貴重だ。そうなると途端にコイツも可愛く見えてくる。
「フッ…」
ジンはできるだけニヒルな大人のほほえみを作ってみる。そしてグラサンを装着するとミナトの肩に手を置いた。
「なかなか見込みのある奴だ…仕方がない、そこまで言うなら弟子にしてやらんこともない。お前、宇宙船に乗る覚悟はあるか?」
「宇宙船…?まさか…まさかあなたはパイロット…?」
「いや…パイロットは別にいる。俺の幼馴染みだ。そいつが俺にぜひ付いてきてくれと言うもんだからつい先日加わったばかりだが宇宙は危険に満ちている。宇宙船業務もそれはそれは激務だ。それに耐えられるか?」
「凄い…凄すぎる…カッコ良すぎる…!俺、あなたに一生付いていきます!あの、お名前をもう一度…」
「フッ…ミナト・マツイと言ったかお前…いいかもう一回しか言わねえぞその名を脳裏に刻み込め。プリンス星が誇る星民の彼氏、ユータ・ジン・グージだ。俺のことはジン様と呼べ」
「ジン様…俺のことはミナティとでも呼んでください!2000年生まれのミレニアムベイビーです!」
「おう。それじゃ行くぞミナティ。言っておくが俺はスパルタだからな」
「はい!!」
ジンは最高にハイテンションになりながら生まれて初めてできた子分を引き連れて宙港を練り歩いた。
「まったくもぉ腹立つよぉキシの奴ぅフウばっか贔屓しちゃってさぁ」
宙港の手続きを済ませるとぼやきながらレイアはフウと一緒に散策に出かけた。
「まあまあレイア、ほっぺプクーしないで。キシ君は優しいから…ほんとに素敵なキャプテンだよね」
「フウにやけすぎぃ。あ、見て見てぇなんか人だかりが出来てるよぉなんだろぉ面白そぉ」
イベントスペースらしきところに人だかりが見えたので行ってみようとするとちょいちょいと腕を捕まれる。何だろうと振り返るとガラの悪そうな男が数人ニヤニヤしながら立っていた。
「ボクちゃん達ぃ…ちょっといいかなぁ…お兄さんたちちょっと困ってるんだけどね」
「あ、他当たって下さぁい。行くよぉフウ」
こういうのには関わらない方が吉だ。さっさと通り過ぎようとすると行く手を阻まれた。
「話も聞かずにそれはないんじゃないかなぁ。君ぃ可愛い顔してるねぇ…東西で男らしくなったれあたんレポがちらほらしてるけどまだまだ天使ちゃんだねいい稼ぎ先があるんだけどね」
「間に合ってますぅ。もうそういうの足洗ったんでぇ。あとこの美貌はぁ手越くん級のイケメンにしか捧げないって決めてるからぁ。間違っても汚いオッサンなんかに指一本触れられたくないしぃファンサくらいはしてやるけどぉ」
「そっちのボウヤもいいカラダしてるなぁ・・・カブキチョー星のニチョウメ国あたりで稼げそうだよ?どう?興味あるでしょ?」
「何を言ってるのか分からないけど俺の心のプリンスはキシ君キャプテンだけだよ!それより聞いてください、キシ君ってホントに優しくて・・・今朝もですね、俺がヘッドスピンをしてたら機関部いわしちゃってそんで泣いて切腹しようとしたらドンマイドンマイって優しく背中をさすってくれてそれでアップルパイも切り分けてくれてもう俺本当にこんな優しい人の元で働けて幸せだなってそれでそれで」
「あああああああああああうるせー!!お前ら二人まとめてこの俺たちが売り払ってやるうううううううううう明日からは奴隷生活が待ってるぜえええええええええええ」
激昂した男どもはレイアとフウを羽交い締めにして連れて行こうとした。ふいをつかれてフウのヘッドスピンで蹴散らすことも難しくなにげに大ピンチ・・・と思った瞬間レイアを拘束していた悪党が「アベシ!!」と顔面を歪ませて床に突っ伏した。
「?」
何が起きたのか確認する間もなく次はフウを羽交い締めにしていた悪党が続いて「ひでぶ!!」と叫んで泡を吹いて倒れた。
「な…なんだこれはぁ!!てめえら何しやがったぁ!!」
仲間の悲惨な姿に悪党どもは狼狽し始める。だがレイアにもフウにも分からない。何にもしていない。一体どういう現象だろう…と二人で顔を見合わせているとふいに囁くような声が響いた。
「…いたいけな少年を性奴隷にしようなどと・・・貴様らに今日を生きる資格はない」
「なんだぁー!?誰だぁー!?」
ゴゴゴゴゴと何かが轟いたかと思うとスモークが舞い上がり、その白煙の向こうから一人の男が姿を現した。
濡れた黒髪に落ち着いた目元は千里をも見渡すかのような悟りの境地を感じさせる…しなやかな筋肉と均整の取れた肉体からはオーラが溢れ、白煙なのか彼の放つオーラか分からなくなるほどだ。
一目見てただ者ではない…そう思わせるのに十分すぎる迫力がその美青年にはあった。悪党も一時見入ってしまうほどに。
「き、貴様一体…」
「俺か?俺の名は…」
レイアとフウ、そして悪党たちが固唾を飲んで見守っているとその男は静かに名乗る。
「ホクト・マツムラ…人呼んでホクトの拳…」
「ホクトの拳だぁ~!?フザケやがって!仲間をこんなにしやがった落とし前、つけてもらうぜぇ~!!」
悪党どもはどこに隠し持っていたのか、ハンマーや鎖鎌を取り出しホクトに襲いかかろうとする。彼は丸腰だった。
「危ないよぉお兄さん!逃げてぇ!」
レイアは叫んだがホクトは全く動じる様子はない。それどころか薄ら笑いを浮かべた。
「心配するな。すぐに終わる」
「え?」
「なぁにワケ分からんこと言ってやがんだてめぇ!!ミンチにしてやるぜげはははははははあああああああああ!!!!!!」
悪党が武器を持って襲いかかろうとしたその時、ホクトは静かに言い放った。
「お前はもう、死んでいる」
「ひでぶ!!」
先ほどと同じ、いきなり叫んだかと思うと悪党どもは一人残らず泡を吹いて失神した。
「すごぉ…」
「すごいね…」
レイアとフウが唖然とその光景を見ているとホクトはゆっくりとこちらを振り向く。
「大丈夫だったか…?よその星から来たのだろう。この星はいささか物騒だから気持ちを切らすな。俺が助けてやれるのはここまでだ」
「何この貫禄ぅ…カッコ良すぎぃ…」
「何もしてないのに悪党を倒せるなんて凄すぎるね…俺のヘッドスピンでもビクともしなさそう」
レイアとフウは頷いた。そして二人でホクトの両腕を掴む。
「…?何をするんだ」
「僕たちと一緒に宇宙船乗ってくださぁいホクト君!ダブルダッチしてレイアお休みなさいは?って言ってくださぁい!」
「ホクト君みたいな強い人がいたらキシ君も助かると思います!!ぜひぜひ!!」
渋るホクトにおかまいなくレイアとフウはわっしょいわっしょいとホクトを担いでいった。