「挙武は自分でご飯よそってぇ」

嶺亜が冷たく言い放つと、食卓に張り詰めた空気が走る。今日の夕ご飯は鮭のムニエルである。ムニエルは一応全員分あったがご飯とみそ汁は挙武のお椀だけ空っぽだった。

挙武と嶺亜は目下のところ冷戦状態にある。二人とも決して折れないからいつまでたっても平行線だった。

「…子どもじみた真似をするなよ」

挙武が嶺亜を睨みながら炊飯器に向かう。嶺亜はふんだ、と頬を膨らませた。

「ま…まーまーれいあ、そう怒んなよ。挙武、おめーも素直に謝っとけって!!」

恵がご飯粒を撒き散らしながら嶺亜を宥める。

「挙武は間違ったこと言ってねーだろ。嶺亜が大人気ねーんだよ。俺のAVやビニ本にはぐちぐち文句言うくせによー」

勇太が挙武の加勢をすると嶺亜は「勇太の分もじゃあもう作らないよぉ」と拗ねた。

「お願いだから二人とも仲直りしてよ…こんなんじゃ余計に集中できないよ、ね、龍一?」

颯が涙目で懇願し、

「お願いします…二人とも怒りを収めて下さい…」

龍一はさりげなく人参を郁の皿に移した。

「パパなんとか言ってよー。パパがやりてーやりてーって言うからだろー」

郁は岸くんになすりつけてきた。皆の視線が岸くんに突き刺さって来る。

「えっと…えっとですねぇ…」

岸くんは茶碗を持ちながら発汗である。波風立たせず双方に納得してもらうにはどうしたらいいか…皺の少ない脳みそを懸命に絞って考えた。その間にも嶺亜と挙武の口論は激化してゆく。

「だいたい怒り方が幼稚すぎる。僕のだけよそわないとかご飯を作らないとか…16歳にもなってすることか?」

「嫌だったら自分で作ってぇ。だいたい自分は人に無音生活強いておいて何様ぁ?なんで何もしない挙武にそこまで気を遣わなきゃいけないのぉ?おかしいでしょぉ」

「それは前々から役割分担で決めているだろう。今更持ち出すのは卑怯というものだ。それに僕は自分のためじゃなくて颯と龍一のために言ってるんだ。この二人は弟だから何も言わず我慢してるだけで、兄ならばそこに気付いて然るべきじゃないのか」

「僕はちゃんと颯と龍一のお世話してるもぉん。お弁当だって作ってるしぃ洗濯物だってちゃんと部屋にまで持って行ってあげてるしぃ部屋のお掃除だってしてるよぉ」

岸家で最も口のたつ二人の口論は留まるところを知らない。恵と勇太は口を挟む隙すらなかったし郁は避難してテレビ前のテーブルで食べ始めた。岸くんもただおろおろとするばかりである。

「あ…ああああ嶺亜も挙武もちょっと落ち着いて…俺が、俺が悪かったからどうかどうかお怒りをお鎮め…」

「いい加減にしてよ嶺亜くんも挙武くんも!!!!」

颯が茶碗をテーブルに叩きつけて叫んだ。シン…とリビングを静寂が支配する。

「…俺は…二人が喧嘩するのが一番勉強の邪魔だよ…だから仲直りしてよ二人とも…」

颯は震える声で呟いて、腕で目を拭った。感情を表に出さず耐えているだけだった颯はそれを少しずつ表に出すようになってきたようで、鼻をすすってしゃくりあげている。

岸くんは颯の頭を撫でた。

「ごめんな颯…大丈夫だよ、嶺亜も挙武も分かってくれるって…。俺も気をつけるから…」

「気をつけなくてもいい…パパも…嶺亜くんも挙武くんもしたいようにしてくれてるのが…俺にとって…」

「分かった。嶺亜も挙武もそれでいいよな…?」

嶺亜と挙武は反省の色をその表情に宿した。

「…ごめん、颯ぅ…。お兄ちゃんが大人気なかったよぉ。だから泣かないでぇ」

「僕もだ、すまん。とんだおせっかいだったな」

颯の涙の効果は絶大だった。嶺亜も挙武も先程の険悪な雰囲気を一掃させて和やかなディナーが戻ってくる。避難していた郁も席に戻って来た。

「いやー良かった良かった。これでヤるとこがなくなったら…って挙武の三者面談の日にラブホテル街とか見て回っちゃってさーそれで…」

「あーパパずりーぞ!!俺だって見学してーよ!!今度一緒に行こうぜ!!」

「勇太何言ってんのぉ?パパぁ…そんなとこ見てたのぉ?不潔だよぉ」

「そういやそこで松島に会ったぞ。その二日前にも似たようなとこで会ったんだ」

挙武が言うと、四つ子はへえ…と意外そうに呟く。

「松島ってあれだろ?T高行った…。そういや最近めっきり会ってねーな」

勇太がムニエルを口に入れながら言った。

「あーそーだっけ?そーいやあいつにはよく宿題写させてもらったなーギャハハハハハ!」

恵が再びご飯粒を撒き散らした

「松島元気そうだったぁ?身長伸びてたぁ?」

嶺亜が龍一に「ちゃんと人参食べなさぁぃ」と睨みながら言う

「元気…そうにはあんまり見えなかったな…あいつにしては。身長はあんまり伸びてなかった。おっさんと一緒にいたっけな…」

「なんだよそれ。少年援交とかじゃねーの?」

勇太が茶化し、恵もまたそれに乗って悪ノリをする。

「アホかおめー!!いくらラブホテル街で会ったからってそれはねーよAVの見すぎだギャハハハハハ!!」

「でもぉ…松島って可愛いしぃもしかしたらぁ…なーんてねぇ」

嶺亜も珍しくこの手の冗談に参加した。

「まああいつは勉強もできるし明るいし友達も多いからきっと高校生活を満喫してるだろうな。龍一、今度T高のこと訊いといてやるからな」

挙武は人参を涙目で口にしている龍一の肩を叩いた。

その次の日、挙武は帰り道に松島を見かけた。また知らないおっさんと歩いている。

「…松島?」

またしてもラブホテル街へと松島は消えて行く。その横顔は優れなくてどこか鬱っぽく見えた。心配になり声をかけようと後を追ったが見失ってしまった。

「君、こんなところで何をしてる?」

ふいに肩を叩かれ、挙武は振り返る。手帳を見せた私服警官とおぼしきおっさんが不審そうな眼で自分を見てきた。

「友達を見かけて、声をかけようとしたら見失ったんです」

毅然と答え、挙武は踵を返した。だが警官はまだ疑わしい目で見ている。

「その制服…M高だね。駅まで送るから一緒に来なさい」

「大丈夫です。駅までの道なら知っているし迷子になるような年齢でもありません」

何故こんなにしつこく食い下がられるのか、若干不快に思っていると私服警官はぼやくように言った。

「最近この界隈で援助交際が横行しているとのことでね、しばらく張り込んでるんだよ。だから一応念のため学生を見かけたら声をかけて駅まで送ることにしているんだ。そんなわけで、一緒に来てもらう」

「それはどうも御苦労さまです」

この僕を援助交際少年と間違えるだなんて失礼な…と挙武は憤ったが抵抗しても仕方がない。素直に従い、駅に着くと私服警官はむやみにあの辺に立ち入らないようにと忠告して去って行った。

「少年援交…ねえ」

馬鹿馬鹿しい、と鼻白む一方で何故松島がここのところ同じような場所に違うおっさんといるのかが気になり始める。挙武は次の日もその界隈に足を運ぶ。同じような場所を張っているとやはり松島がいた。今度は駆け寄って声をかけた。

「挙武…」

「松島、ここのところいつもここで見かけるけど何をしてるんだ?まさか援交なんてことはないよな?」

松島は冷めた目で挙武を見ている。援交をしているのならもっと後ろめたそうな表情になるだろうからシロかな…と挙武が分析していると彼は力なく首を振る。

「挙武には関係ないよ。またね」

「ちょっと待て、松島。おい、松島!!」

しかし松島はそのままホテル街に消えてしまった。

 

 

「俺、なんか変な噂聞いたぜ」

その日の夕飯の席で挙武が松島の話をすると勇太がたくあんをかじりながら言った。

「T高の勉強についていけなくてノイローゼ気味だって。そんで、なんか最近は学校終わったらいつも一人で帰ってどっかに消えて行くってよ。何してんのかほんと謎だけど、「お金がいる」って誰かに話してたらしい」

「金がいるって…あいつん家それなりに金持ちじゃなかったっけ?」

恵が味噌汁をすすりながら呟く。颯もその横で首を捻った。

「親には言えない使い道とか?でもだったらアルバイトとかしてんのかな?」

「ホテル街でのアルバイトって言ったらぁ…一つしかないよねぇ…」

「ちょっと待て。少年援交なんかそんなに簡単にできるもんじゃないだろう。こういうのは需要と供給というものがあってそんなに少年好きのおっさんがそのへんゴロゴロしてるわけでもあるまいに」

挙武はトンカツを口にしながら否定してみる。してみるが一旦植わった疑念は消えない。

「援交ホモプレイかーそういう動画一度でいいから見てみてーなー。一度でいいけどな」

勇太がわくわくしながら目を輝かせる。その横で龍一がぼそっと呟いた。

「うちで毎晩似たような行為が繰り広げられてるけど…」

「龍一あとでおしおきねぇ」

すかさず嶺亜の絶対零度が飛んできて龍一は軽はずみな発言を心底後悔させられる。

「もしも松島がそんな非人道的行為に身を染めているのならば…可及的速やかに阻止しなくてはならない。これは友人としてまっとうな道に連れ戻す必要がある…」

挙武は使命感に燃えた。

 

 

翌日も挙武はホテル街に立ち寄った。制服だと目立ってしまい警官に補導されかねないので私服に着替えた。そこで松島を待つが彼はなかなか現れない。そうしているうち私服警官らしきおっさんが前からやってくるのが見えたから咄嗟にビルの陰に身を隠した。

ぽん、とそこで肩を叩かれた。びびって声が出そうになったがなんとかそれを喉の奥に封じ込める。

振り向くと、真面目そうなサラリーマン風の男がいた。

「こんなところで何してるの、君?」

私服警官か?と思ったがそうではなさそうだった。友達を待っている、と答えると男は言った。

「友達って?写真ある?見かけたら教えてあげるよ」

「はあどうも。こんな顔してるんですけど」

挙武は携帯電話の画像フォルダを開いて中学時代に撮った松島との2ショットを見せた。男は片眉を上げた。

「この子ならさっきあっちに入ってったよ。男と一緒に」

男はラブホテルを指差した。挙武の全身から血の気が引く。

「なんということだ…今すぐやめさせなくては…。松島は、僕の中での松島は純粋でキラキラした瞳をたたえていて、好き嫌いは多いけどクラリネットの練習をがんばっていて…ほとんどだけどー!とかキラキラ声で叫んでて…とにかく友人がそんな非人道的行為に及ぶだなんて黙って見過ごしていられない。なんとかしなくては…」

挙武が独り言のように呟くと男は挙武にこう囁いた。

「だったら僕と一緒にあそこに入ろう。お友達が救えるかもしれないよ」

挙武の思考回路はこの時狭窄していて、後先があまり考えられない状態になっていた。

そして気がつけば挙武はホテルの一室にいた。

 

 

(ちょっと待て挙武…何も考えずこんなところに来てしまったがここからどうするというのだ?松島の泊まっている部屋なんて分からないし一部屋ずつノックして回るわけにもいかない。だいたいなんで部屋にまで入る必要がある?冷静に考えておかしいだろう…)

ホテルの一室で、挙武は今更ながらにおかしいことに気付く。男は挙武を部屋に入れるとタバコをふかしながらまるで舐めまわすように挙武を視姦する。思わず背筋が冷たくなった。

(ていうかこのホテルもおかしくないか?オッサンと美少年DKがご休憩とかフロントではねるべきだろ…なんでなんの疑いも確かめもなく『ハイどうぞこれ鍵ね。三時間コースだから10分前に室内のコール鳴ります』じゃないだろ…おかしい…日本は狂ってる…)

脳内で幾重にもツッコミが重なってくるが、こうしていても仕方がない。

「ちょっとトイレに行かせていただきます」

挙武はトイレに行くふりをしてもう一度考える。これはもしかしてひょっとしてピンチって奴ではないのか?あのおっさんは松島がここにいる、と嘘をついてこの僕を手ごめ(死語)にしようとしているのではないか?トランス状態だったからこの挙武様としたことがそこに気付かずむざむざ檻の中に入ってしまったのではないだろうか?

「冗談じゃない…」

挙武はどうにかして脱出をしようと試みた。トイレから出るとおっさんは立ち上がる。

「じゃあ僕はシャワーを浴びてくるよ」

何が「じゃあ」なのか良く分からないが男はタバコを灰皿に押し付けると、バスルームに入って行った。よしチャンスだ。脱出…

「…なんだこれは…」

ドアの防犯バーが固定されてびくともしない。一体どういうカラクリなのか、中からドアを開けることができなかった。独房でもあるまいに、どういう作りになっているというのだろう。

「ならば窓から…」

しかし窓は転落防止のため、10センチほどしか開かない。これでは脱出は無理だ。というよりここは8階だから飛び降りるのも無理である。

「そうだ、フロントに電話…!」

室内の電話機を手に取ってボタンを押す。が、死んだように何も反応がなかった。

「何故だ…!?」

挙武は受話器を持ちあげてみた。すると線が抜かれていることに気付く。その抜かれた線はどこにもなかった。

「かくなる上は助けを呼ぶしか…!」

鞄の中から携帯電話を取りだす。だが…

「なんということだ…」

バッテリーが抜かれていた。なんという周到さ。かかった獲物をなんとしても逃すまいとする執念、恐るべし援交ショタホモオッサン…

「って感心している場合ではないぞ!僕はそういうキャラじゃない!おっさんに好かれたりそういう妄想をされるのは専らうちの長男の役目だ!僕は潔癖キャラだ!そりゃあこの僕のスラリと伸びる手足や小さい尻、色は浅黒いけどもシミ一つないこの少年期特有のつるつる肌、ヘッドライトのごとき鋭い眼差し、サラッサラの髪の毛は世の中のホモおっさんを魅了してやまないだろう。某横浜の多目的アリーナ会場で生涯に一度の神席が来て神7メンバーを余すことなく至近距離で観察した作者をもってして「勝利とあむあむのケツの小ささは国宝級」と言わしめるほどのナイスバディの持ち主だ。だがしかし、それとこれとは別。この僕の神聖な貞操がどこの誰とも知らぬおっさんに奪われれるだなんてそんな不条理で理不尽なことがあろうか!いかん!断じていかん!全国100万の挙武ファンが『いやああああああああむあむの貞操がオッサンに奪われるだなんてえええそんな非人道的展開ダメよおおお!!あ、でもちょっと見てみたいかもおおおおお』とおピンク妄想にお花畑作ったとしても断固拒否だ!あああこんなことしている間にもヤツがあがってきたらめくるめく官能の世界に引きずり込まれてしまう!ヘルプミー!」

挙武は叫んだ。力の限り叫んだ。叫んだところでどうなるものでもないがとにかく叫んだ。叫んで叫んで天井を仰ぎ見る。オーマイガー…オージーザス…オーサクルムコンヴィヴィウム…

そうして挙武の目は一点を捉えた。

 

 

挙武が貞操の危機にある頃、岸家では夕飯の準備がなされていた。

「挙武の奴おせーな。どこで道草食ってやがんだ?」

勇太が窓の外を見やる。恵がゲームをしながら爆笑した。

「あいつ少年援交にでも手ぇ染めてんじゃねーのギャハハハハハハ!」

「挙武くんは潔癖なところがあるからなあ…「やるなら全身シャワーを浴びてからにしてくれ」なんて相手のおじさん説教してそうだよね」

颯の冗談に龍一までもが乗った。

「いちいち『ここの感度はイマイチだからこっちにしてみてくれ。この角度だ』って指示しそうだよね…フフ…」

「龍一気持ち悪ぅい。近寄らないでぇ」

ガチで嶺亜に気持ち悪がられて龍一は自我修復に勤しむ。郁は夕飯の時間を今か今かと待ちながら、

「挙武兄ちゃんが他人に簡単に体許すわけないだろ。『この僕の神聖な貞操を何故君のような輩に』なんて今頃言ってんじゃねーの?そんなことより早く飯くいてぇよ!」

兄弟がわちゃわちゃやっていると、岸くんが帰宅する。

「ただいまー。今日のご飯何?あ、てんぷら?いいねー」

食卓に乗るえびのてんぷらをつまみ食いしながら岸くんは「いやあ~」と笑う。なんの思い出し笑いかと勇太が尋ねると岸くんは答えた。

「さっき岩橋と電話してたらさ、あいつどこそこのホテル街で挙武に似た子を見かけたって言ってたんだよ。サークルの帰りに。そんで挙武似の少年が真面目そうなサラリーマン風のおっさんとラブホテルに消えてっただなんて…うちの兄弟で一番そういうのとは無縁そうな挙武が少年援交とか考えただけで笑えてきてさ、『痛くしたらモデルガン乱射の刑だぞ』とか『そんな非人道的プレイがあるか!まあ…嫌いじゃないがな』なーんておっさんに説教気味にしてたら笑えるなーって」

全員爆笑した。そしてああだこうだと挙武について面白おかしく話しているうちに7時を過ぎたが挙武はまだ帰宅しなかった。

 

 

耳の奥でサイレンの音が谺する。髪は濡れて、騒然としたホテル街を挙武は放心状態で歩いた。

まさに黒ひげ危機一髪…人は追いつめられると思考回路が物凄い勢いで疾走するらしい。我ながらGJだ。

天井を仰ぎ見た挙武の視界に一つの丸いポッチが目についた。火災報知機である。

次にオッサンの残したタバコとライターが目に入る。そして気付けばタバコ数本に火をつけ、机と椅子を駆使して火災報知機に思いっきり近づけた。

案の定、報知機は作動しあれよあれよという間にドアがこじ開けられ、次いで消防車までやってきた。どさくさにまぎれ、挙武はそこを抜けだしたのである。

「恐ろしい…少年援交など…もう二度とその世界を垣間見るだけでも御免だ…」

恐怖のあまり忘れていたがばったりとその人物と会う。松島だった。

「挙武?またこんなとこに…」

「松島…」

松島が出てきたビルの看板を挙武は見る。そこには社名と共に「海外ボランティア」とあった。

「海外ボランティア…?」

挙武が問うと、松島は照れ臭そうに頭を掻いた。

「誰にも知られたくなかったんだけど…しょうがないか。実は俺、ちょっと海外ボランティアに興味があって、そこの説明会と交流会に通ってるんだよ」

歩きながら、松島は語った。

「高校の勉強がしんどい時があってさ、夏休みに軽い気持ちで参加したボランティアで感動して…。どうせ勉強するなら人の役に立てることとか自分がやりがい感じることに向けた方が良さそうで。ボランティアっていってもそこに行く費用がかかるから大学生になったらアルバイトもしたいし、今はとにかく無駄遣いやめるしかないけど。でもこういうのってちょっと人に話すのは照れ臭いし勉強から逃げてるって思われるのも嫌だったからあんまり言えなくて…」

「なるほど…それでお金がいるのか…おっさんと歩いてたのも…」

「うん。そこの交流会で知り合いになった人。働きながら休暇を利用してあちこち行ってんだって。大人の知り合いができるのも楽しいよ」

「そうか…」

挙武は安心する。やはり松島は松島だ。いらん心配をして猛獣の檻に迷い込み九死に一生を得たが、そうでなければ危うく貞操を奪われるところだった。これからはもっと思慮深く行動しなくては…。

「ところで挙武はここんとここの辺で何かしてたの?まさか少年援交じゃないよね?取り締まり強化してるみたいでさあ俺もそのボランティアの知り合いと歩いてると尋問されたことあってさー。失礼な話だよねーばかやべーよね」

「冗談もほどほどにしてくれ松島。この僕が援交なんかするわけがない。見た目だけは真面目そうな変態サラリーマンに口八丁手八丁でホテルの一室に閉じ込められあわやこのミラクルボディサンクチュアリがおっさんの汚い手で弄くり回されてあむあむ言わされる危機に瀕していただなんてそんな馬鹿なことがあるわけがない。ところで近くのホテルでボヤ騒ぎがあったそうだが火の元には気をつけないとな。松島、お前はしっかりしてそうに見えて案外だらしがないところがあるから気をつけるように。冒険もほどほどにしとくんだな。あと、ちゃんと好き嫌いなくなんでも食べないと身長が伸びないぞ」

「うるっさいなー。そういう自分だって大して伸びてないくせにー」

肩を抱き合って笑いながら挙武は松島と歩く。そして駅で別れると今更ながらに空腹が襲ってきた。

「すっかり遅くなってしまった…今日の夕ご飯はなんだろう…あわびのてんぷらが食べたいな…」

腹を押さええながら帰宅すると、すでに夕飯の時間は終わっていて郁が挙武の分まで食べてしまっていた。

怒り狂った挙武はモデルガンで家中乱射して回った。