「ここに登ればちょっとぐらいは…くそっこの木が邪魔だな…双眼鏡持ってくりゃよかったぜ…」

なんとかして露天風呂を覗けやしないかと勇太は試行錯誤する。恵と挙武に手伝ってもらって屋根に登ったものの状況は芳しくない。

「おい寒いからとりあえず中に入ろう。それに目立ちすぎる」

「勇太おめーよ、女装して堂々と入りゃいいんじゃね?その方が確実に覗けんぞ!ギャハハハハハハ!」

「しー!!恵お前は声がでけーんだよ!うわ!」

バランスを崩して勇太は落ちる。植え込みがあって事なきを得たがこんなことでは諦められない。

「くそ…ここは仲居さんにシフトチェンジした方がいいのか…?浴衣美人と2ショットぐらいは撮っておかねえとな…」

「君達何やってんの?」

お菓子の袋を持ってぼりぼり食べながら、長身の柔和な表情をした少年が勇太達に問いかける。

「何っておめーこれが天体観測や地質調査に見えっかよ。覗きスポット検索してんだよ!!」

勇太が開き直ってキレ気味に説明すると挙武は肩をすくめた。

「まあ張り切ってるのは専らこのエロイムエッサイムだけだ。僕らは暇潰しの付添いだ」

「ふーん…覗きねえ。三次元より二次元の女の子の方が可愛いのにー」

「あ?ジゲン?ジゲンっておめールパンのあれか?おめーそーいうのが趣味なのか?」

恵が「じげん」を勘違いしていると少年は目を輝かせた。

「ルパンは傑作だよね!ふ~じこちゃ~ん、なんつってさー。こんなとこでルパン愛好家に出会えるとは思ってなかった。友好の印に俺がさっきなんとなく発見した良覗きスポット教えてあげるよ」

「何!?それは本当か!?」

勇太は身を乗り出した。少年は海人と名乗った。通称「うみんちゅ」らしい。

「うみんちゅ!!俺達とお前は心の友だぜ!!」

勇太達はすっかり海人と意気投合した。

 

 

「はちみつソフト食べたい!!嶺亜兄ちゃんはちみつソフト!!」

売店にはご当地ソフトクリームが売られていた。郁が目を輝かせてねだる。

「こんなに寒いのにアイスぅ?もう仕方ないなあ…」

ソフトクリームと塩せんべいを買ってもらいご機嫌な郁と嶺亜は部屋にもどろうとする。と、その時…

「おっと」

郁が躓いた。その拍子にソフトクリームが手からするりと抜け落ちる。そして無残に地面に叩きつけられた。

「ああー!!俺のソフトー!!!」

絶叫し、郁は絶望のあまりハチノコになった。ブンブン震えていると誰かが通りかかり、郁にソフトクリームを差し出した。

「あの、もし良かったらこれ」

「あ…!」

嶺亜は目を輝かせた。さっき廊下ですれ違ったイケメンがソフトクリームを両手に持っておりそのうちの一つを郁にくれたのだ。イケメンは言った

「うみん…兄貴に買っといてって言われたんだけどどっかに行っちゃったみたいで。溶けるしもったいないからどうぞ」

「まじで!!!いいのかよ!!!やったー!!」

郁はハチノコから生還してうさぎのようにぴょんこぴょんこ跳ねた。

「良かったら君も…」

「いいんですかぁ…?ありがとうございますぅ。かっこいいだけじゃなくて優しいんですねぇ…」

「いやそんな…」

イケメンは照れる。

「この優しさは惚れるね!俺が女の子だったら惚れてるね!!ナイスガイだね!!」

郁も絶賛である。嶺亜がぶりっこモード全開でイケメンに名前を訊ねると彼は顕嵐と名乗った。なかなか風変わりな名前である。

「あらん君っていうんですかぁ…僕、嶺亜ですぅ。この子は郁ぅ。よろしくお願いしますぅ」

嶺亜が桃色視線を投げかけると顕嵐は顔を赤らめ始める。うん、ちょろいよぉ…と嶺亜が思っていると横から待ったが入った。

「ちょっとちょっとうちの兄貴に色目使ってもらっちゃ困るな!」

振り向くと色が白く外国人みたいな顔をしたウケ口の少年が立っていた。

「顕嵐ダメだろ!いくら「見た目はイケメン、中身はラノベ好きのオタク」だとしてもさー。男に色目を使われて顔を赤くするなんざ弟として許せないね!」

「海斗…お前何言ってんの?俺は別に…。話していて和むなぁってちょっと思っただけで観覧車一緒に乗りたいだとか無人島に連れて行って一緒に釣りがしたいとか同じブランドのバッグ薦めたりとかしようなんて思ってないって」

海斗と呼ばれた色白少年はしかし首を振った。

「いかんぞいかん!なんかよく分からないけどそれもう半分くらい浸食されてるぞ。弟として大事な兄貴をむざむざ奪われるわけにはいかん!」

「良く分かんないけどぉ…海斗くん?はそこで一発芸やってりゃいいと思うよぉ。なんなら僕が足技かけてもいいしぃ」

嶺亜は冷やかに言い放った。郁はソフトクリームを舐めながら傍観している。

岸くんの預かり知らぬところでちょいとややこしいことになっていた。

 

 

「すいませーん、卓球ありませんかー」

受付に颯が遠慮なしに訊ねると、受付は「ビリヤードならありますが」と答えた。

「う~ん、ビリヤードも卓球も同じテーブルで玉を転がす競技だしね!この際いいよね龍一!」

「なんだその分からないこじつけは…俺ビリヤードなんかやったことないよ」

「成せば成る!成せねばならぬ何事も!!さあレッツトライ!!」

龍一はこの温度差についていけなかった。颯はいつも変なテンションだが初めての家族旅行に少々浮かれ過ぎだ。辟易しながら従うと、ビリヤードコーナーに浴衣を着たおじさんが入って来た。

「お前は…!?」

おじさんは颯を見て驚いている。眉毛も顔も濃い褐色の肌に白い歯が映える昭和時代のイケメンのような男だ。

その男は颯を指差して、

「お前は神七中学の颯(はやて)のFU!!こんなところで会うとは…!!」

「まさか…!!」

颯も身構える。そして男を指差した。

「虎比須中のサンライズ超特急の朝日…!!なんでこんなとこに…!?」

中?中学?中学の先生か誰かだろうか…龍一は展開に付いていけない。

「ここで会ったが百年目…夏の総体のケリを今着けようじゃねーか。ワイルドなこの俺の走りをビリヤードに変えて!」

「望むところだ…!!」

二人の間にバチバチと火花が放たれる。

「ちょ、ちょっと待って、颯…。誰この人?」

龍一は颯に問い質す。自分だけ置いてけぼりになるのは不安だ。というよりこの独特の世界観には付いていけない。

颯は説明を始めた。

「陸上の大会で三年間ライバルだったんだ。夏の総体はお互い不本意な結果に終わってその決着が付けられなかったんだよ。まさかこんなところで会うなんて思ってなかった」

「総体…?てことはまさかこの人中学生…?」

龍一が呟くと朝日は「何おぅ!」と突っかかって来た。

「誰が老け顔だって!?誰が昭和顔だって!?お前こそ市役所の窓口の後ろとか銀行の奥から出てきそうな感じするじゃねえか。くたびれたネクタイ下げて缶コーヒー片手に午後の公園のベンチで溜息ついてるサラリーマン臭がぷんぷんするわ!!」

「ちょ…あんまりだ…」

悲しくなった龍一は自我修復に勤しむ。その間颯と朝日は少年バトル漫画みたいなやりとりを展開しながら初心者ビリヤードで決着を着けようとしていた。

 

 

「お、もうこんな時間か。夕飯の時間だな。宴会場に行かないと」

岸くんはロビーの時計を見た。岩橋と閑也と共に宴会場に着くとすでに食事は始まっており一種異様な光景が目に飛び込んでくる。

「よーしうみんちゅ、飲め!食え!これは俺達の友情の証だ!!」

「あ、いいの悪いねー。じゃあマグロとイカもらうねー。天ぷらもいただこっかなー」

「僕のメロンに手を出したらうみんちゅじゃなくて海坊主にするから気をつけるように。あ、この激辛キムチは君にやる」

「ギャハハハハハ!!後でゲームコーナー行こうぜ!!」

勇太と挙武と恵が海人と仲良くなっていて大盛り上がりだった。その隣では…

「顕嵐くん、お酌しますねぇ。はいどうぞぉ」

「おいちょっと待て!顕嵐の飲み物は俺が注ぐと生まれた時から決まってんだ!昨日今日出会ったばかりの小娘がさしでがましいぞ!」

「落ち着けよ海斗…女性にはもっと紳士的に…ってあれ?女性じゃないか…でも可愛いからいっか…」

「やりー!!カニ鍋―!カニ鍋―!!」

嶺亜が顕嵐の隣を陣取ってかいがいしくお酌をしようとするのを海斗が止め、顕嵐は満更でもない様子だ。その横で郁はカニ鍋に沸き立っている。

また一方では…

「ビリヤードでは決着が着かなかったが…今度はこの牛乳早飲み競争で勝負だ!!ワイルド朝日は小学校で一度もこの牛乳早飲みで負けたことがない!!」

「受けてたとう!!龍一、コールお願い!!岸家の名にかけて負けるわけにはいかないよ!!」

「静かに食べさせてくれ…。あ、にんじん嫌いだからよろしく…」

朝日と颯は牛乳早飲み競争を始める。その横で龍一がしぶしぶそれに付き合っていたが、むせた颯が牛乳を龍一の顔の前で吹いた。

宴会場は大騒ぎである。他の客が若干引きながら若い衆を見やっていた。

「これは…一体…」

岸くん、岩橋、閑也の三人は唖然とし、立ち尽くした。

「何やってんだあいつら…わが弟達ながら恥ずかしい…」閑也は溜息をついた。

「…他人の振りをしておこう、岸くん。連れて来てもらってなんだけどこんな羞恥プレイ僕には耐えられない…あ、お腹が…」岩橋は腹を押さえた。

「嶺亜…ここにちゃんとした夫がいるというのに…」岸くんは泣きそうだ。

どんちゃん騒ぎはそれからしばらく続き、岸くんは涙目でカニをほじくった。

 

 

「パパぁ。いつまで拗ねてんのぉ。大人気ないよぉ」

岸くんは不貞腐れて部屋でゴロ寝しながら野球を見ていた。ふんだ、いいよ、どうせ俺なんか…完全にスネスネモードに入っていて死んだ目をしている岸くんに、嶺亜はこう囁いた。

「露天風呂行こうよぉ。背中流してあげるぅ」

「そんな誘惑で俺が許すと思ってんの!?だいたいここに決まった相手がいるというのに他の男に色目を使うなんてどういう神経してんだよ!パパは嶺亜をそんな小悪魔アゲハ淫乱浮気性に育てた覚えはないぞ!!今日はもう口きかないからな!!反省しろ!!」

…と厳然たる態度で言い放つつもりだったのに気がつけば岸くんは露天風呂にいた。無意識って怖い。そんでもってなんかとある一部分がすでに凄いやる気マンマンモードになっちゃってるし…しかもなんかあつらえたように全く人がいなかった。

これはもう…これはもうやるしか…

「わぁひろ~い」

岸くんがエネルギーをチャージしていると嶺亜ははしゃぎながら露天風呂に入って行った。

「ねぇパパぁ。星が見えるよぉ。ロマンチックだねぇ」

湯に浸かりながら嶺亜が夜空を指す。だが岸くんにはロマンチック浮かれモードに浸る余裕は残されていなかった。湯けむりにぼんやりと浮かぶ嶺亜の白い肌が岸くんの理性のセキュリティを壊してゆく…

「あっちょっとパパぁ」

「嶺亜…!俺は…俺はもう…!」

「駄目だよぉパパぁここ公共スペースなんだからぁ。抑えて抑えてぇ。どうどう」

今朝からもうストレス溜まりっぱなしだったしここまでおあずけを喰らって抑えろというのは無理な話である。岸くんは温泉が大好きだがゆっくり浸かるのはやることやってからでいい。まずはこのたぎる情熱を放出しないことには始まらない。

「もうパパ…しょうがないなぁ…一回だけだよぉ?」

嶺亜が折れて、岸くんは免罪符を勝ち取った。そうときまれば話は早い。この一回に全てを注ぎこむ。それはもうそれはもうたっぷりと濃厚かつ凝縮されにされた愛のエキスをお届けしましょう。

恵はゲームコーナーに入り浸ってたし勇太はうみなんとか君と肩を組んでどっかに行った。挙武はもう寝たし颯は龍一を巻きこんで夕日…じゃなくて朝日と十番勝負の最中だし郁は今夜食中だ。岩橋は巨人阪神戦に夢中である。邪魔する者はいない。

「では…いただきます!!」

「パパ…どっからでもどうぞぉ」

あああああよっしゃいくぞおおおおおおおおお!!!!!!!岸くんは己のアクセルを全開にふかした。このまま一直線に突っ走れ!!やれ!!岸優太!!なんぴとたりともこの俺の情熱のDNAを止めることなどできない。

とそこで恵とはまた違った種類の皺枯れ声が響いた。

「おー!!やっぱ温泉は露天風呂に限るのー!!」

「まったくじゃ!!最近腰がいとーてのー。ちっとは良くなってくれるといいんじゃがのー!!」

「めしゃーまだかのー!!」

あと一歩というところで爺さんの団体がぞろぞろと入りこんできた。そして抱き合う岸くんと嶺亜をじろじろと目を瞬かせて見た爺さん達は…

「おー!!若いニイちゃんとネエちゃんがコトにおよんどる最中じゃったかすまんのー!!」

「わしらにかまわず続けんしゃい!!ほれほれ、そこでちゅーじゃ!!わしも若い頃は婆さんと…」

「眼鏡どこかのー!!良く見えんわい!!」

爺さん達は煽って来た。そしてやれやれコールで合唱し始める。もうムードも何もかもぶち壊しだった。さらに…

「よし今度は『どっちがより長く息を止めてられるか!』勝負だ!これで決着を着ける!!いいな朝日!」

「望むところだFU!!まあワイルドな俺には余裕だ。小学生の時のアダ名がブラックサブマリン朝日だったこの俺にとって朝メシ前!!」

次いで颯と朝日がどかどかと入りこんできた。龍一がうなだれながらそれに付き添っている。

「ゆっくり浸かりたい…」

「あ、パパ!それに嶺亜くん!ちょうど良かったここで因縁の対決に幕を下ろそうと思うんだ。だから俺のこと応援してて!!」

「颯がんばってぇ。お兄ちゃん応援してるよぉ」

嶺亜は颯の応援を始めた。爺さん達もやいのやいのガヤりだし、颯vs朝日の潜水対決が露天風呂で繰り広げられる。勝負はなかなかつかず、そのうちにのぼせはじめた爺さん達は退散し嶺亜も「あついよぉ」と引きあげだしたので岸くんも仕方なくあがった。

そして龍一はタイミングを見失ったためにのぼせてぶっ倒れた。勝敗の行方は不明である。

 

 

「我が人生に悔いなし…!」

翌日、妙に晴れやかな表情の勇太を筆頭に岸家はチェックアウトをする。デーモン化対策で灯りをつけて就寝態勢をとった甲斐あって岩橋が暴れることはなかった。龍一は颯の十番勝負に最後まで付き合わされて死んだように眠っておりあわや忘れて帰られるところであった。

「じゃーな岸くん、岩橋。今度三人で飯でも食いに行こうぜ。あ、あっちの可愛い子も是非一緒に」

閑也は嶺亜を指差した。岸くんは苦笑いしながら答える。

「うん…。三人でね。また連絡する」

「じゃあね。閑也くん。バスケがんばって」

その嶺亜は顕嵐にきゃぴきゃぴと紅茶パックを差し出していた。

「昨日の御礼ですぅ。僕だと思って飲んで下さぁい」

「あ、これはどうも。なんだかおいしくいただけそう…」

「ちょっと待て顕嵐!知らない人からものをもらっちゃいかんと両親が小さい頃教えてくれただろ。何が入ってるか分からんぞそれ」

海斗が止めに入った。そして嶺亜と火花を散らせる。

「なんにも入ってないよぉ。あえて言えばぁ僕の感謝の気持ちぃ」

「いや、なんか飲んだら最後「んんんんんれあたんんん」とかになっちゃいそうな気がする!危険だ」

そこに恵が割って入った。

「おめー何言ってんだ!嶺亜がんなことするわきゃねーだろ!!でもこんな奴にあげるこたねーよ嶺亜!これは帰って俺が飲むからよ!」

「それがいい!顕嵐の紅茶は俺が淹れると生まれた時から決まっているからね!」

「もぉ恵ちゃんやきもちやきだねぇ」

「海斗、ほどほどにしときなよ…」

恵と嶺亜、海斗と顕嵐のやりとりを見ながら挙武がやれやれと肩をすくめた。

「こんなとこでブラコン対決か。やれやれだな。おや、旅の記念にはちみつソフトでも食っとくか」

挙武がソフトクリームを舐めながら記念写真を撮る横で勇太ががっちりと海人と肩を組んでいた。

「お前のことは忘れないぜうみんちゅ。素晴らしい旅の思い出をありがとう!」

「礼には及ばないよー。ありがとねこんないっぱいお菓子買ってもらっちゃって」

「いいってことよ…フッ…この勇太、ちゃんと受けた恩は返す主義でな」

「あーいいなー!!勇太兄ちゃん俺にも買ってくれよ!!」

郁がうらやましがる横では颯と朝日がわずかな時間を惜しんで対決の続きをしていた。

「いいか、この、庭の小石をより高く積んだ方が勝ちだ!俺は小さい時からワイルド小石積みで負けたことはない!」

朝日がドヤ顔で言い放つのを颯は静かな闘志を燃やした目で受けとめる。

「岸家の名誉にかけて負けるわけにはいかない!!龍一、審判お願い!!」

「もういい加減にしろよお前ら…俺が負けってことでいいよもう…ゆっくりさせてくれ…」

龍一はフラフラになりながら「いちま~い、にま~い…」とカウントをする。

かくして色んな思いを乗せてバスが発車した。

「え~皆さま、今回のバスツアーお楽しみいただけましたでしょうか…」

ツアーコンダクターが問いかけると、勇太が勢いよく挙手をする。彼は大変に満足したようだった。その理由を誰も問い質そうとはしない。

「結局ヤれなかった…てなわけで家に帰ったらその分…って嶺亜何してるの?誰とメール!?」

岸くんが夜のおねだりを嶺亜にしようとすると彼は携帯電話を熱心にいじっていた。

「ん、あらん君とぉ」

「ちょっと待って!いつの間に交換したの!?パパは納得いきませんよ!?許しませんよ!?」

岸くんが全力で嶺亜にお説教をするその後ろでは岩橋がご機嫌な勇太にからまれていた。

「おい岩橋!!俺は最高に機嫌がいい!帰りに一緒にツタヤでAV借りて帰ろうぜ!!温泉湯けむり浴衣モノな!!お前18歳だし借りれるよな!?」

「え…そんな卑猥なものを僕に借りろと…?これはなんのたかりいじめ…?お腹が…」

岩橋が早くも腹痛を発症させているその後ろで恵と郁が取っ組み合いの喧嘩を始めた。

「あー!!恵兄ちゃんそれ俺の塩せんべいだぞー!!返せよー!!」

「うるへー!!おめーは食い過ぎなんだよ!!俺はもっと太らなきゃいけねーくらいだから食ってやってんだ文句言うな!!」

「うわあああああああああああああんひどいよひどいよおおおおおおおおおお」

泣き叫ぶ郁の声を若干迷惑に感じながらも龍一は疲労感いっぱいでぐったりとシートにうなだれた。その横で颯が十番勝負の続きを考えていた。

「やっぱりここは日本昔話対決…どっちがより多くの話を知っているか…龍一どう思う!?」

「頼むから寝かせてくれ…なんだか俺、今回こんなことばっかり言ってる気がする…」

龍一は指をいじいじして克服しようとする。が、力尽きて深い眠りに堕ちた。

「まったく騒がしい一家だな…。もっとこう…落ち着けないものか…。やはり早く自分で稼ぐようになってロスかバリか太平洋クルーズにでも行きたいな」

挙武は他人の振りをしながら温泉まんじゅうを食べつつほうじ茶をすすった。