文化祭当日は快晴で、12月とは思えない陽気だった。そのせいか近隣から沢山の一般客も訪れ、いつもは修道院のように静かな校内も賑やかさに満ちている。

生誕祭の上演は午後の2時からだった。30分前に楽屋に集合になっていて、それ以外は自由時間だ。克樹は琳寧達と一緒に屋台を巡ったり、矢花の軽音部の演奏を聴いたりしながら高校生活最後の文化祭を満喫していた。

「あと30分かー。なんか観に行くには中途半端だなー」

校庭の時計を見ると1時をちょっと過ぎたぐらいだった。早めに講堂の楽屋に行こうか、と思ったところでたこ焼きの屋台が目に付いた。そう言えば定番のはずなのにまだ食べていないことに気付く。

「まだ食うのかよ。共食い共食い」

大光にからかわれながら克樹はたこ焼きの屋台の列に並ぼうとした。そこでばったりと嶺亜に会う。

「また食べてんの」

呆れたように笑う嶺亜の手には焼きそばのトレイがあった。そしてその隣には谷村も同じものを持って立っている。

「へー意外。嶺亜先生と谷村先生仲いいの?二人で焼きそばなんか食って」

今野がいか焼きを頬張りながら、克樹の気になったことを代弁してくれた。もっとも今野のそれは単純な疑問だろう。

「校内の見回りは新採の役目なんだよ。二人でやれって」

なんだ、そうだったんだ…と安堵していると、嶺亜がくすりと笑う。

「食べ過ぎの生徒を指導しなきゃいけないからね」

「いや、そんな食べてないですよ。出し物とかも観てたし…」

言い訳をすると、野次が飛んでくる。

「嘘つけー。センセ、コイツ朝からフランクフルトとラーメンといか焼きとベビーカステラ一袋食ってんぞ。そんでまたたこ焼き食おうとしてるし」

「大光、お前はちょっと黙っ…」

「バカじゃないの?本番で衣装はちきれたとかで伝説になんないでよ?この後僕らも観に行くからね。リハは研修行ってて見られなかったし」

呆れた嶺亜の横で、谷村が笑いをこらえているのが克樹には見えた。いつもおどおど自信のなさそうな谷村だが、こうして改めて見ると長身で足も長くてまるでモデルのような体型だ。こんな風になったら嶺亜も少しは見直してくれるのだろうか…と思っていると、嶺亜は何かを思い出したように谷村に向き直る。

「そういや谷村、楽屋の鍵開けた?頼まれてたでしょ?」

「あ…!忘れてた」

「ちょっと、早く開けなよ。もしかしたら早めに楽屋入りする生徒いるかもしれないんだからさ。焼きそば早く食べて」

「う、うん…ごほっ!」

嶺亜にせかされて勢いよく焼きそばを口に入れた谷村はしかし、喉につっかえたのかむせて焼きそばを盛大に吹いた。周りの生徒や一般客が何事だと視線を向けてくる。

「ちょっと谷村やめてよ。文化祭で焼きそばつっかえて死んだとかそれこそ聖神7学園の伝説に残るよ。だれか水持ってきて」

矢花が気を利かせて近くの飲み物売り場で水を買ってきて差し出すと、ようやく谷村は息を吹き返す。それをさっき克樹に向けたのと同じ目で見て嶺亜が溜息をつく。

「ほんと何やってんだか…克樹の食欲といい勝負だよもう…」

谷村に向けられた憧れとはほど遠い視線に、体型だけの問題でもなさそうだと克樹は気付く。だとしたら、嶺亜はどういう相手に憧れを抱くのだろう…やはり岸のように明るく人なつっこいオーラの持つ人間なのか…とまた負のループがやってきた。

そうこうしている間に順番が回ってきてしまって、克樹はたこ焼きを1パック買った。

「じゃあ克樹、たこ焼き琳寧が半分食べてあげるね。カロリー高いから」

琳寧が手を伸ばしてくるのを制しながら、克樹はほぼ自動的な動きで6個入りのたこ焼きを2分で完食した。