事件のおかげで神7学院は一躍有名になった。しかしその騒ぎも三日もすれば鎮静化しつつある。

嶺亜と神宮寺は事件前とそう変わらぬ関係に落ち着いている。今日も岸くんを挟んでお互いの席から憎まれ口を飛ばしあっていた。

「てめー俺が焼きそばパン狙ってるの知っててわざとラスト2個買い占めやがっただろ!!!まじ性格わりーなこの女狐!!」

「はぁん何言ってんのぉ?そんなに食べたきゃダッシュで食堂まで走れば良かったじゃん遅いんだよぉ」

「走ろうとしたらお前が『神宮寺ぃ岸がSM本見せてやるって言ってたよぉ』なんて嘘つくからだろーが!」

「嘘は言ってないよぉ「S(すうがく)のM(もんだい)集」のことだもん」

「んだよそのこじつけ!!おい岸くんなんとか言ってやれよこの嘘付き女郎に!!」

「お願いだから静かにしてもらえませんか…授業中なんです…」

岸くんは涙目で懇願した。予想通り、岸くんも三人で騒いだとみなされ教師にしこたま怒られる。

そんな二人だが事件後はそれぞれ拠り所を獲得したようだった。

「神宮寺、何読んでるの?」

放課後、めずらしく図書室に立ち寄った神宮寺に岩橋が訊ねる。

「俺やっぱ探偵の才能あるんじゃねーかと思ってさ。今回の事件は俺の第六感が解決に導いたようなもんじゃん。この学校にはまだまだ秘密が眠ってるような気がしてよ。神宮寺少年の事件簿case2が今始まろうとしてんだよ」

「お前の脳みそは気楽でいいな。あんな目にあったというのに」

通りがかった羽生田が呆れ気味に皮肉を言う。

「おう羽生田、なんならお前助手にしてやってもいいぜ。小林少年ならぬ羽生田少年だな。岩橋、お前は今からこの俺のライバル的存在としていわち小五郎と名乗るがいい」

岩橋と羽生田は二人して顔を合わせて深い溜息をついた。

一方、嶺亜はというと気持ちを確かめ合った栗田とラブラブ全開れあくりジャスティスユートピアを展開…と思いきや、まだ続きがあった。

「谷村ぁ、裏の森でこれとこれとこの薬草仕入れてきてぇ。あと下の方に川が流れてるからそこのピュアミネラルウォーターポリタンクいっぱいにしてきてぇ」

「あの…前より過酷になってませんか…」

谷村がおずおずと切り出すと嶺亜はまだ古びたその本を持っていた。そして大切に握りしめるとこううっとりと呟く。

「これには続きがあるんだよぉ。好きな人と気持ちを確かめあうことができたら、今度はより美しくなるための儀式をするんだってぇ。今よりもっと綺麗になって栗ちゃんと幸せになるんだよぉ」

「はぁ…」

日常が戻ってきたのはいいが更に条件が難儀になってしまっている…谷村はうんざりした。

しかしうんざりしているとこう続く。

「とりあえず身を清めないといけないからその川に行ってすみずみまで清流に身を浸さないとねぇ。ちょっと季節がら厳しいけど栗ちゃんのためならエンヤコラだよぉ」

「あ、御供します」

まあそれはともかく乙女の水浴びを思う存分堪能させてもらおう、と谷村は気持ちを切り替えた。

「いいけどぉまた霊に憑かれて襲ってきたら川に沈めるからねぇ」

谷村が川の下流で釣り人に釣りあげられるその小一時間ほど前、颯が廊下の隅で緊張の極限に達しながら回りたくなるのを必死にこらえていた。

「だだだだだ駄目だ緊張して口からメロンパンが飛び出しそう…」

「何をそんな緊張する必要があんだよ」

貝ひもをへけもけ噛みながら倉本がその隣で呆れている。

「だだだだってもし受け取ってくれなかったら…」

震える颯の手には弁当箱の包みが乗っている。

それは颯が岸くんのために心をこめて作ったお弁当だった。本来ならば昼休みに渡す予定だったのだが緊張しすぎて気を失ってしまっていたため放課後になってしまう。

「もし受け取らなかったら俺が食ってやんよ」

お弁当は倉本の指導の元完成した。単に倉本は味見と称してつまみ食いをすることが目的だったが…

「それはそれでへこむよ!倉本、だいたい…」

「おい岸が来たぞ」

「え!?そ、そんなまだ心の準備がああああああああああああああああ」

半ばパニックになって颯は弁当箱をぐいっと前に差し出した。

「き、岸くん!放課後の掃除御苦労さま!!こ、これ良かったら食べて下さい!!」

「ごふっ!!!」

颯が勢い良く突き出した手は岸くんの顎に命中した。蹲る岸くんに颯は完全にパニックである。それを倉本がどうにか収めた。

「まー一応調理実習室で一生懸命作ってたみたいだから食べてやりゃいいんじゃね?」

「いてて…あ、じゃあいただきます。ありがとう颯」

顎をさすりながら岸くんが受け取ると颯は感激のあまり回りだした。ハリケーンになる前に岸くんが寮に戻って弁当箱を開けるとなかなか個性的な見た目とにおいのおかずが広がっていた。

まあお腹もすいてるし…と思いながら一口食べて岸くんは幽体離脱した。エクトプラズムを飛ばしていると部屋のドアが乱暴に開く。

「おい何寝てんだ岸くん!!大事件だぜ!!ロビーに集合だ!!」

大騒ぎの神宮寺に引き摺られて岸くんはロビーで岩橋に胃薬をもらってそれを飲んだ。

神宮寺は机の上に一冊の古びた冊子を置く。そして興奮気味に説明した。

「これは俺が図書室の隅で発見した古代の巻物だ!!これによるとこの学校の森の中には妖精が眠っているスポットが存在してんだ!!今からみんなでレッツゴー!!」

「ちょっと待って神宮寺…俺胃の具合が…」

「何岩橋みたいなこと言ってんだ岸くん!!行くぞ!!」

強引に連れて行かれ、外に出ると栗田と倉本と颯に出会う。颯は岸くんの顔を見ると頬を染めながら「お弁当どうだった?」と訊ねてくる。魂がぬけるほどマズかったなんて言えない。言ったら半径1Km以内は草も生えないくらいの大穴が開く。

「あ、う、うん。なかなか個性的で…美味しかった…かな…」

「良かったじゃんよ颯!!これから毎日作ってやれよギャハハハハハハハ!!!」

颯の背中をばしばし叩きながら栗田がとんでもないことを言う。岸くんは汗だくでどう断ったもんか思案にくれた。

「それはそうと神宮寺達何しに行くん?」

「おお倉本!!なんならお前らも来るか!?俺は妖精を見つけに行くんだ!」

「まあ暇だから僕らも付き添いに」

羽生田が淡々とつけ加えると、栗田がバカ笑いした後、辺りを見渡しながら

「んなことよりよーれいあと谷村がまたどっか行ったみたいなんだよ。れいあの奴、いい加減谷村とくっつくのやめてほしいぜ。気が気じゃねー」

「そんなこんなで俺達は嶺亜を探しに行くんだよ。森の中に行ったみたいだから」

そうして合同で森の中に入って行くとそこには清流が流れていてその流れの中に白く眩しく光る妖精が確かに見えた。

「キターーーーーーーーーーー!!妖精!!!!」

叫びながら神宮寺が駆け寄って行くとしかし彼はその妖精にアッパーカットをくらって沈められた。

「やだぁ痴漢かと思ったよぉ。何してんのぉみんなぁ?あ、栗ちゃん」

恥らいながらタオルに身を包むのは妖精ではなく嶺亜だった。

「れいあを探しに来たんだよ!谷村とどっかに消えてったっつうから…あんま俺に内緒でどっか行くなよ心配すんじゃねーか」

「ごめぇん栗ちゃん…谷村だったらぁまた霊に憑かれたからぁちょっと除霊してやろうと思って岩でどついたら流されてっちゃったよぉ」

嶺亜が指を差した先では今まさに神宮寺が流されて行くところだった。慌てて岩橋と颯が引きあげる。

そして下流の釣り人に釣りあげられた谷村の救助に向かうと彼は溺れかけながら小瓶を掴んでいたらしい。

「おい…これ…」

その中には一枚の古い紙が収められていた。そこにはこう記されている。神宮寺がそれを読み上げた。

「『放課後に集いし楽人たちにより解き放たれた7つの彷徨える魂は浄化された。これにより神7のストーリーが幕が上がる。次なる舞台は…』」

全て読みあげた後、やっぱりというか神宮寺はやる気満々の興奮状態だ。

「よーしお前ら!!神宮寺少年の事件簿case2だぜ!!心してかかれよ!!」神宮寺は拳を天に突き上げた。

「早く転校したい…」岸くんは胃を押さえた

「ロマンを求める男ってどうしてこうバカなんだろう…」岩橋は溜息をついたが微笑ましく神宮寺を見ている

「ギャハハハハハハ!!なんか良くわかんねーけど面白そうだな!!」栗田はバカ笑いでひたすらノーテンキだ

「羽生田少年の事件簿…悪くないな」意外にも羽生田は乗り気だ

「寒い…誰か暖を…」自我修復しながら谷村はくしゃみをした

「しゃーねーな、肉まん10個で協力してやるよ」そこらへんに生えている野生のキノコを食べながら倉本は頷いた

「岸くん、お腹痛いの?じゃあこの薬草をすりおろして作った胃薬を…」岸くんの腹痛の理由など知る由もない颯はかいがいしく胃薬を差し出した

「どうでもいいけどぉ僕と栗ちゃんの邪魔はしな…あれ、これなぁに?」

嶺亜は足元に何かでっぱりのようなものを見つけた。何気なくいじってみるといきなり地面が割れる。

「これ…何かの扉ぁ?」

そこに土と草に覆われて隠された金属製の扉が現れた。9人はそれを取り囲む。

「新たな冒険の幕開けだぜ…!!」

神宮寺の掛け声で、せーので9人は扉を開けた。ギギギ…と鈍い音をたててゆっくりとそれは開かれる。

その扉の先には…

 

 

 

END