暗闇の中で目を開けても、そこに光は届かない。自分が起きているのか寝ているのかすらぼんやりとして曖昧だった。まだ頭がクラクラする。
「どこぉ…?ここぉ…?」
視覚は闇しかとらえないが嗅覚はその独特な臭いを嗅ぎ取っていた。黴臭いじめじめとした嫌な臭い…そう、渡り廊下のそれだ。嶺亜は暗闇の中で顔をしかめた。
すぐ側に人の気配がする。そいつは呻いた後、ごそごそと動きながら掠れた声で呟いた。
「なんだ…?ここどこ…?」
神宮寺の声である。嶺亜はどこか暗いところに彼と二人でいることを自覚する。これが現実であることを認識するのに若干の時間を擁した。
「神宮寺ぃ…僕達一体どうしちゃったんだろぉ…」
そう問いかけると神宮寺はびくっと肩を震わせた…気がする。
「な、なんだ脅かすなよ…嶺亜か。おい、ここどこだよ?確か俺達渡り廊下に…」
「そうだよねぇ…でもここ…臭いは渡り廊下のそれに似てるけどぉ…なんかあちこちごろごろした石みたいなのもあるしぃ…」
手さぐりをすると硬くてバラバラしたものが幾つも転がっているのが分かる。湿気もあってじめじめとしている。
「おいちょっと待て…いって。あちこちいてえ…携帯の灯りでなんか分かるかな…」
神宮寺が何かを取り出す気配がする。ほどなくしてパっと液晶の画面が光り…
その瞬間、嶺亜と神宮寺は同時に悲鳴をあげ身を寄せ合った。
「な…なななななななにぃこれぇ…!!!」
「ちょ…シャレんなんねえぞ…!!」
つたない灯りが照らしたもの…それは骸骨だった。石かと思ったものは骨だ。そこいらに散らばっている…1体、2体、3体…恐ろしくて数えることもできない。
「やだぁ!!やだやだやだ!!こんなとこ早く出よぉよぉ神宮寺ぃ!!」
「あ、あったり前だろ!!俺はこういうの大嫌いなんだよ!!ホラーは映画だけで充分だっつーの!!」
二人しがみつき合いながら立ち上がったが足が震えて上手く立てない。しかも、どこにも出入り口のようなものはなかった。頭上だけがかなり高いことぐらいしか分からない。
「なんなのぉここぉ…墓場にしては無造作に置きすぎだよぉ…?」
「わっかんねーよ!!一体なんなんだよこれ…!!なんだってガイコツがこんなとこに…」
「とにかく出ようよぉ。あ、ポケットにちっちゃい懐中電灯持って来てたの忘れてたよぉ。これで出口をぉ…」
嶺亜はポケット懐中電灯を取り出し灯りをつける。だが…
「おい…これって出口は上しかないんじゃね…?」
「そぉみたいぃ…」
空間には人骨がまばらに散らばっていたが、ぱっと見はどこにも出口はなさそうだった。あるとすれば光の届かない頭上か…
「ていうかぁ…なんで僕達こんなとこに閉じ込められちゃったのぉ…?一体誰がぁ?」
「そんなん分かるわけねーだろ!確か…渡り廊下に着いたと同時になんか変な臭いがしてフラフラして…そんで気付いたらここにいた…ここは渡り廊下のどこかか?」
「渡り廊下はもっとだだっぴろい空間だよぉ。床は木製だしぃ。最初に来た時に谷村と懐中電灯ですみずみまで見て回ったけどぉ…ほとんど何もないとこだったしぃましてやガイコツなんてぇ…」
言いながら、声が二人とも声が震えているのを自覚する。まるでガイコツ達がじっと自分達を凝視しているかのようで落ち着かない。
「んじゃここどこだっつうんだよ。どうでもいいけど早く出ねえと…今何時だ?」
神宮寺が携帯電話で確かめると朝の八時過ぎだった。12時間以上眠っていたことになる。どうりで頭がぼうっとするわけだ。
「どうやってぇ?手が届きそうにないよぉかなり上は高いみたいだよぉ」
「とりあえず俺がお前を肩車すっからできるだけ手、伸ばせ。よいしょ」
神宮寺がフラフラになりながら嶺亜を肩車し、一生懸命手を伸ばすが空を切るばかりである。交代してみても結果は同じだった。