「ほえ~これが家ねえ…」

羽生田家は民家と呼ぶにはおよそとんでもない広さの日本家屋だった。まるで映画の世界だ。岸くんたちは目を回したが、栗田と郁は記憶にあるからか驚かない。

「ここに5人とも寝られるだろう。布団は後で使用人が持ってくる」

通されたのは二階の和室で、充分な広さがあった。まるで旅館だ。

「あの…挙武くん、嶺亜くん、つかぬことをお伺いしますが、お二人のご両親は…」

「ご両親?うちの両親が何か?会いたければ呼んでくるが」

「お父さん祭りの前で忙しいからどの部屋にいるのか分かんないよぉ。お母さんならすぐ呼んでこれるけど?」

「あ、いえ…それには及びません。失礼しました」

ここでも変化があった。もう疑う余地はない。岸くんは自分たちが違う世界にいることを確信していた。

明日の祭りに備えて夜更かしができない嶺亜と挙武がそれぞれの部屋に戻った後、岸くんたち5人は布団の上で考察を巡らせた。

「なんだってこんなことになったんだ…?まるで世界が変ってる。最初から呪いなんかなかったかのように…」

「分かんない。けど…」

颯が窓の向こうを見やって呟いた。

「雰囲気が全然明るいって言うか…あの村で感じたような澱んだ空気が一切なくて澄み切ってる気がする。嶺亜くんも挙武くんも、さっき会った玄樹くんも神宮寺くんも皆明るくて陰がない」

「それは…そうだな…」

確かに、違和感は感じるものの、ここには何も憂うべきものがない気がした。ただ自分たちがしっくりこないだけで…

「明日、どうする?」

「とりあえずさ、郷土歴史資料館には行ってみようよ。明日来るって玄樹にも言っちゃったし」

「そうするしかねーな。そうと決まったら早く寝ようぜ。疲れた」

「そだね…」

皆はもう心身共に疲弊しきっている。次々と起こる不可解な出来事に、もう付いていくのがやっとだった。

「目覚めたら全て夢だった…とかだったりしてね」

灯りを消し、暗闇の中で誰かがそう呟いた。