「んが!」

自分のものか誰のものか分からない、凄まじいいびきで岸くんは無理矢理覚醒を促された。気付けば寝入ってしまっていて、図書室内の時計を確認すると小一時間眠っていたようだ。

のびをして、あたりを見渡すと郁も机に突っ伏して寝ている。神宮寺と玄樹も少し離れた席で寝ていたがやがて二人は起き始めた。

「ふあ…寝ちゃってたね。今朝早かったしあちこち移動したから疲れたのかな」

まだ少しかすれた声で玄樹が欠伸まじりに呟く。神宮寺は首を左右にひねって鳴らしていた。

岸くんは谷村と颯が室内にいないことに気付く。確か颯は校内の散策に出ると言っていたが、谷村はどうしたのだろう。

「トイレかなんかじゃねーの?」

神宮寺に言われて、岸くんもトイレに行きたかったから二人で行ったがそこにはいなかった。用を足してまた図書室に戻ろうとすると、教員の男性にそろそろ閉めるから出てほしいと言われた。

「谷村と颯を呼んでこなきゃ」

岸くんと神宮寺は手分けして二人を探した。と言っても校舎はシンプルな作りだからものの数分で見て回れるがどこにもいない。校庭に出てみたが、姿は見えなかった。大声で呼びかけても返事はない。

図書室に戻って玄樹に説明していると、ちょうど郁も起きてきた。玄樹はうーんと首を捻りながら、

「体育館かな…行ってみよう」

体育館へは職員室の前にある連絡通路を通らなくてはならないが、鍵が閉まっていた。教員に尋ねても、今日はここの鍵は開けてないから入れるはずがないと返される。

「どうしたんだろ…二人してどこに行くっていうんだ…」

玄樹の焦燥感が濃くなり始める。携帯電話で連絡を取ろうにも生憎ここは全域圏外だ。便利な機能に慣れすぎた岸くんたちは途方に暮れる。

「ま、二人ともいい年した奴らだし誰かに道でも訊いて戻ってくるだろ」

呑気な郁の一言に、岸くんも頷きかけたが玄樹と神宮寺はそうではなかった。二人で顔を見合わせて、時計を見ている。

「まだ4時半だから日没までに少し時間がある…先生や村の人にも協力してもらって捜索しよう」

「へ?いやそんな大それた…いいよ別に。どっかにいるでしょ。迷子なんて年でもないし」

小さい子どもでもないし、まだ一時間も経っていない。そう広くない村だから捜索してもらうほどでもない。そう思って岸くんは遠慮がちに言ったが玄樹は首を横に振った。

「どっかで怪我して動けないのかもしれないし、そうなったら危険だから。とりあえず先生に報告してくる」

玄樹が職員室に駆けて行き、その数分後に校内外放送で玄樹が颯と谷村を呼びかける声が鳴り響いてくる。

なんだか大ごとのように颯と谷村の捜索が始まってしまった。岸くん達は暫くの間、校門前でいつ二人が戻ってきてもいいように留まった。

やがて少し陽が傾きかけた1時間後に二人が発見された、と村の人から報告を受けてホっと胸を撫で下ろす。

岸くんは「もー心配したじゃん!」と明るく背中を叩いたが、颯と谷村の表情は冴えなかった。

その理由を、岸くんと郁は病棟に戻ってから颯と谷村から聞いた。それはにわかには信じがたい内容だったが…

「あれ、そういえば栗田がまだ戻ってない…?」

栗田は倒れた嶺亜の看病をするために教会に泊まることになったと玄樹が父親から聞き、それを岸くん達に報告した。