円熟の域を目指し、たゆまぬ進化を続ける中村剛也選手 | Peanuts & Crackerjack

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2003年のデビューから9年、昨日までで2,874の打席を積み重ね
順調にいけば今シーズン終了までに3,000打席に到達し

そして昨日まででキャリア通算196本塁打・493打点と
200本塁打500打点を記録することも目の前の剛也さん。

三振が多い、打率が低い、得点圏打率が低いなど
従来の伝統的な評価指標で見れば欠点ばかりが目立ち

“まずは明らかな欠点を矯正して平均以上に教育してから
長所をこつこつ1つ1つ長い時間をかけて積み重ねていかなければ

なによりチームで闘う集団競技の中では和を乱すことになり
将来リーダーへと成長していく一流の選手にはなれない、

いやどちらかといえば心情的になってほしくない、なるべきでない”という

固定観念の強いNPBではまったく的外れの、ある意味嫉妬や誹謗中傷にも似た
様々な批判を受けることも日常茶飯事ですが

今シーズンも21二塁打・37本塁打と順調に長打を積み重ねていき
リーグ断トツ1位を記録する、抜群の長打率.591を誇り

またリーグ2位の55四球を奪いながら
打率からおおよそ1割程も高い、リーグ6位と非常に優秀な出塁率.359を記録、

目の前の打順がこれまた打点王争いをするナカジさんでありながらも
今シーズンここまで立派にリーグトップの88打点を挙げることに成功し

ライオンズ攻撃陣の中軸をどっしりと務め続ける剛也さんについて

以前ナカジさん、クリさんの打撃におけるアプローチを分析したものと同じ手法を用いて
そのスタイルをカウント別にわけながら詳細に見ていきたいと思います。

(参照:【苦しむ中島裕之選手、その原因を探る】 【栗山選手の打席におけるアプローチに迫る】


それではまず、剛也さんが本格的に順調に打席を積み重ねるようになった2008年から
年度別に打率・出塁率・長打率の推移をグラフにて示しました。
(※破線で示しているのは、ここまでの剛也さんのキャリア成績です)

$ピーナッツとクラッカージャック-Nakamura1101

その経過をみていくと、やはり基本的には他の打者と同じように
その出塁率・長打率は打率の増減によって増減するということ、

そしてその上で

① 2008年、09年では出塁率と打率の差(IsoD, Isolated Dicipline)がおおよそ.075あたりなのに対し
  2010年、そして今シーズンでは約.100に増加するなど

  より出塁率を残すことのできるアプローチに変化したと見て取れること。

② 長打率と打率の差(IsoP, Isolated Power)について見てみると
  常に.300以上を記録する、まさにパワーヒッターにふさわしい
  素晴らしい成績を継続して残していますが

  その中でも.350以上と抜群だった2009年、そして
  .300近辺の物足りなかった2010年を経て

  今シーズンは2008年と同等の.325あたりに戻っていること。

大きくわけてこの2つの変化が浮かび上がります。

つまりはキャリアを重ねるにつれ四球を数多く奪い出塁率を向上させながら
その中で、剛也さんの突出した特長である長打率を維持し更なる向上を目指すことで

クリーンアップ・ヒッターとしてよりチームの得点に、勝利に貢献できる
まさに大ヴェテランの円熟の域を目指し、たゆまぬ進化を続ける姿が

くっきりと浮かび上がってきます。


さてそれでは続いて、打撃スタイルに最も関連性の深い“打席でのアプローチ”について
2010年シーズンのデータと2011年シーズンここまでのカウント別データを比較しつつ

その打撃スタイルにどんな変化が浮かび上がってくるのか、そして
その特長は何かを見ていきたいと思います。

$ピーナッツとクラッカージャック-Nakamura1102

まずは、剛也さんがどのカウントで“投手との勝負の結果”を残したかを
全打席に占める割合で2010年、2011年ともにあらわしました。

これを見ると、大まかに言って上述の過去記事で示した
ナカジさんやクリさんのスタイルと同じように

初球から積極的に勝負をしていくと共に、2ストライク後の勝負についても
おおよそ全打席の半数近くにも上るというスタイルであることが見て取れますね。

ただ、今シーズンになってからはB2-S2、B1-S2での勝負が多少減少し
それによって2ストライクでの勝負が減っているのに対し

その分一般的に打者有利であるB2-S1での勝負が多少増えていることも見て取れます。


さてそれでは次に、そのあたりの変化の原因を探るためにも
剛也さんのカウント別OPSを2010年と2011年ここまでの成績で比較してみましょう。

$ピーナッツとクラッカージャック-Nakamura1104

$ピーナッツとクラッカージャック-Nakamura1103

ここで現れた剛也さんの大きな変化は

① 2010年はそのカウント別OPSの差が非常に激しく
  つまりは剛也さんにとって得意なカウント、不得手とするカウントがハッキリとしており

  特に2ストライクと追い込まれて以降のOPSが非常に低水準であることからもわかるように
  追い込まれてからの勝負を人一倍苦手にしていたということ

② 2011年に入ってからはそのカウント別OPSの差がより緩やかになっていき
  突出して得意なカウント、不得手とするカウントというものが減り

  特にB3-S2のフルカウントにおいてHRが2本→8本と大幅に増え
  その長打率・OPSが劇的に向上していることに代表されるように

  2ストライク以降のHRが4本→14本、二塁打が5本→9本とこちらも大幅に増え
  その結果、その長打率・OPSが軒並み向上しており

  また、全打席に対する三振の割合(K/PA)についても
  2010年の31.4%から今シーズンの22.2%約10%近くも減少させるなど

  勝負の半数以上を占める2ストライクと追い込まれて以降の打席でも
  比較的苦手とすることなく、その最大の特長である長打を魅せながら

  変わらずフルカウントで既に2010年(20個)を超える24個の四球を数多く奪いつつ
  優秀な出塁率を継続して記録していること

この2点に集約されると言えますね。

つまりは、2010年シーズンよりB2-S2やB1-S2での勝負が、そして
2ストライクと追い込まれてからの勝負が今シーズン、減っているのは

2010年は明らかに剛也さんが追い込まれてからの勝負を
苦手にする傾向が非常に顕著だったものの

今シーズンはそこまで極端に苦手とすることなく、
むしろ楽しみながらその素晴らしい特長である長打を数多く魅せつつ
出塁率・長打率共に素晴らしい成績を残していることが

相手の投手、バッテリーを含めたチーム全体の
剛也さんに対する今までの攻め方の戦術がそこまで効果的ではなくなり
大きく変えざるを得なくしたことに繋がった結果、と言えそうですね。

こうやってその最大の魅力である長打を継続して残しつつ
その土台の上で少しずつ、その欠点や弱点を改善していくことでこそ

剛也さんは今後更に数多くの四球を奪い、二塁打や本塁打を量産しつつ
三振を喫することを怖がることなく、それでも徐々に減少させ

更に素晴らしい長打率と出塁率を残し、数多くの打点を稼ぐ
チームの得点に、そして勝利に大きく貢献することのできる

まさにクリーンアップ・ヒッターとして
大ヴェテランの円熟の域へと到達することができるでしょう。

今シーズンもあと40ゲームを切る、まさに緊迫の季節が
いよいよ到来しようとしていますが

今後も、そして来シーズン以降も
剛也さんにはその素晴らしい勝負の数々をどんどんと魅せ続けてほしいと思います。



そして、こうやってチームの中軸として数多くの修羅場を経験し続けることで
まだまだ今後も様々な要因で苦しむシーズンや時期も数多くあるでしょうが

彼は必ず近い将来、若く経験の浅い選手たちには難しい
チームの窮地を救い、またゴールへのあと一歩を自ら産み出すことのできる

押しも押されもされぬ円熟の超一流の大ヴェテランの域に到達することでしょう。

ですから、編成陣に対して今から真剣に取り組んでほしいのは
決して早すぎると後回しにすることなく

剛也さんがFAの権利を獲得する時期を見越して
その時に彼にじゅうぶんな評価と長期契約とを提示することについての

真剣な検討と、そして具体的にどの程度の提示が適切であり
かつ剛也さんにとって満足する水準のものであるかという具体的な分析と考察。

“勝利への執念”を掲げるライオンズですが
あと1点、あと1勝の価値を肌でもって知り、また
安定して期待通りうまくそれを産み出すことのできるのは

何度も何度も修羅場をくぐり、地の底に叩きつけられるかのような悔しさと
天にものぼるような喜びを数多く経験してきた

チームの顔としてチームの中軸を長年にわたって支えてきた、
できれば生え抜きの大ヴェテラン(それも打者)であることも事実です。

ここ数年、勝利への執念が足りないといい続けるライオンズですが

敢えて言うならば、その大きな原因を担っているのは
編成陣が、そういった素晴らしい生え抜きの打者たちについて

この選手だけは必ずチームに残ってほしいという選手の厳しい絞り込み
そのターゲットに選んだ選手に対し満足いく水準の契約の提示とができずに

そういった貴重な選手たちが数多く流出し続けていることにあると言えます。

その持てる市場規模の小さい、"small-market team"である
ライオンズが生き残り、かつ長年にわたって継続して繁栄する為には

“終身雇用”のように自らがドラフトによって獲得してきた手持ちの資源に
失敗を何度繰り返してもこだわり続け、腐らせ続け迷路にはまらせ続けるのは

これ以下が存在しないといっていい下策であると言ってよく

これだと判断する選手に対してはためらうことなく
集中してその持てる資源をフルに活用してじゅうぶんな長期契約を提示し

それ以外の選手たちに対してはある意味冷静に、早め早めにトレードや戦力外通告などで
どんどんと血の入れ替えを行い、市場の競争原理を働かせることこそが唯一無二の道です。


ナカジさんは残念ながら現在、非常に難しいところであるとしても
今後、編成陣がクリさんや剛也さんに対し彼らが満足できる条件を提示し続け

彼らが大ヴェテランの域に達するまで、長きにわたり
ライオンズの欠かせない顔として活躍し続ける姿を観客に、ファンに魅せられ続けるか。

このあたりの編成陣の手腕についても、今後も厳しく継続して
注目し、追い続けていきたいと思います。