• 楽曲

かいつまんだストーリーを頭に入れてから聞くとまた面白みがある。実際に歌劇を見るのは少々きついかもしれない(4時間)。ワーグナー中期の作品で、もちろん脚本ワーグナー。中世の伝説をモチーフにしているのではあるが、肉欲的な愛と精神的な愛とどちらが正しいか?という究極の選択の間で揺れる騎士タンホイザーの苦悩を描く歌劇。救済はされるが悲劇でもある。

 

この序曲はとても有名で、唐沢寿明主演の「白い巨塔」で耳なじみになった人も多いだろうし、単独での演奏機会も多い。だが、構成を理解すると聴きやすさがグッと増す。大きく分けてA-B-A'の3部形式。重厚で聖なる響きの序盤と、色彩感溢れた中間部、そして聖なる響きにさらに磨きがかかった再現部である。

 

Aは「巡礼の合唱」。愛欲の地ヴェーヌスベルクを脱出し現世に戻ったタンホイザーが、自分が犯した罪を悔いる巡礼で歌われる旋律からいきなり始まる。物語の真骨頂の一幕のハイライトである。管楽器がゆったりと歌い、次第に弦楽器が加わる。トロンボーンが荘厳さを加え、弦楽器の下降する音型を迎え盛り上がっていく。

 

Bは「ヴェーヌスブルグの世界」。Aが徐々に静まると、「快楽の動機」「誘惑の動機」と呼ばれる動きのある旋律が交々組み合わさって、色鮮やかな音楽が奏でられる。全体合奏で高揚するところが「ヴェーヌス(=タンホイザーの愛欲の相手)への賛歌」。途中バイオリン独奏も入り、再度高揚。テューバのロングトーン、ティンパニ、シンバルが激しく鳴り響き、ここで我に気づき、この世界が遠くなる。

 

A'は再び「巡礼の合唱」。厳かに管合奏が戻ってくる。最後は、これから歌劇が始まることを高らかに宣言するように大きく盛り上がり終演する、というか本来は幕開け。

 

15分程度の序曲だが、個人的な聴きどころはBではなくA。白い巨塔に影響されているところも多いかもしれないが、この壮大な感じ、神聖とも取れるし、悲劇的・宿命的ともとれる、何か大事なイベントがあるときに口ずさんでしまう一曲である。