Q224) 先日、塾の高校生の生徒さんに質問を受けました。

1つ目
They play the guitar. の"the+楽器名"はどのような用法なのか、また、何故guitars にならないのか. 

この質問に対して、私はロイヤル英文法と樋口氏の英語の冠詞を参考に、定冠詞の総称用法であり、例えば play the piano(ピアノを弾く) であれば、どんなピアノでも弾く(能力がある)という意味だからであるからだと説明しました。

これに関しては一旦納得してもらえました。ただ、その後、追加の質問を受けました。

2つ目の質問
I don't play the drums. という例文が、他の英文法の書籍にあったが、これはどういうことなのか.

確かにthe+複数形の総称用法は無いので、play the guitar などのように総称だと考えることは出来ないと感じました。
wordreferenceにも同様の質問があり、そこの回答に説明がありました。
その説明は、「バンドなどのドラムセットをイメージする場合は、ドラムは一つではなく複数存在するため、play the drums を用いる。逆に、一つのドラムを叩いているのをイメージする場合は、ドラムが一つなので、play the drum を用いる。」との内容でした。

この説明をしたのですが、その生徒さんは楽器を用いる時は定冠詞の総称用法を用いるはずなのに、複数のドラムを想像するからと言って drums にして良いものなのかという疑問があるようです。

「基本的には、play+the+楽器名(単数)を用い、これは定冠詞の総称用法である。play the drums はこの例外であり、例外として drums にした理由は、play the drum (一つのドラムの演奏) play the drums (ドラムセットのような複数のドラムの演奏) とを区別するためである。」と私は理解しました。ただ、この説明では、the の用法が総称では無くなるのはわかりますが、the は何の用法になっているのかという疑問が出てきます。the の持つ異種分類における特定(楽器という概念の中で、他ではなくドラムという楽器ということを指す)かとは思いましたが、これで良いのかもわかりません。

質問: play the drums の文法的な説明があれば教えてください。


A)  ・質問1に関して

この問題については複数の参考書がありますが、わかりやすいのは「英語語法レファレンス」(柏野健次著)(三省堂)のp.209です。

 play the pianoとplay a pianoとplay pianoのうち、play a pianoという表現はなじみが薄いかもしれないが、ときに用いられる。
例)On the other side of the room, somebody was playing a piano.
 あるネイティブスピーカーは、a pianoと聞くと瞬間的に1つのピアノを思い浮かべ、その場にピアノが存在するという風に解釈するという。
 逆に、「毎日ピアノを弾く」や「ピアノが弾ける」というような習慣性や能力を表す場合は、ピアノの個体としての具体的なイメージが薄れるため、総称(対立のtheとも考えられる)のthe を用いる。
例)I play the piano every day.
    I can play the piano.
 さらに、play pianoは「対立のthe」の項で触れたように、(プロの)演奏者がバンドのどのパートを担当しているかを表すという点で、一層ピアノの持つ具体性が希薄になり、抽象度を増した表現である。
例)"Where's Martin?" "He isn't here.  He's on tour.  He's out playing piano somewhere."
  ここに、play a piano→play the piano→play pianoの順に個体としてのピアノのイメージが薄れ、抽象化していく過程が読み取れる。


 これで十分ですね。ただthe の問題については後で述べます。

・質問2に関して

 これは辞書を引くとすぐわかります。ジーニアス英和辞典第5版のdrumにはこうあります。

drum【名】(複~s/-z/)1 太鼓, ドラム;[the drums] (ジャズバンドなどの)ドラム(のパート)
 play the drums in a dance band ダンスバンドのドラムを受け持つ


 これでおわかりですね。念のため辞書をいろいろ引いてみました。
<ジーニアス大英和辞典>
 play [beat] the[a] drum 太鼓をたたく[鳴らす]
 play the drums in a dance band ダンスバンドのドラムを受け持つ


<ランダムハウス英和大辞典>
 play the drum 太鼓を鳴らす
 play the drums ドラムを演奏する


 「太鼓」はdrum、「(ジャズバンドなどの)ドラム(のパート)」はdrumsです。

 残る問題は、「the drumsのtheの用法は総称のthe なのか、それとも別の用法なのか」ですね。これについても柏野健次先生の「英語語法レファレンス」のp.233にあります。

the(対立を表す場合)
 次のような表現では初出でも名詞にtheを付けて用いる。
I can play the guitar.
  このtheは、全体を構成するいくつかの異なった要素からの特定化を表すもので、他との「対立を表すthe」と呼ばれる。この場合には名詞に強勢が置かれる。
 なお、この対立のtheはときに省略されることがある。抽象化され、楽器の場合は主語が(プロの)演奏者で、どのパートを担当しているのかが表される。
"I play saxophone in a band," Michael said.


 よって「対立のthe」と考えれば、the pianoもthe drumsも納得できますね。なお、ジーニアス英和辞典第5版にも書いてあります。pianoの[語法]にこうあります。

[語法]
[冠詞と楽器名]
(1) play the pianoのように楽器には通例the をつける。これは「ピアノというもの」というように総称を表すtheと考えることもできるし、また楽器の集合からピアノを取り出して、「バイオリンでもなく、ギターでもなく、他の楽器でもなくピアノ」というように、他との対照を表すthe とも考えることもできる。


 この後半が「対立のthe」に当たります。以上です。