Q211) 時折、ブログを拝見して勉強しております塾講師です。
現在、使用している教材のひとつに旺文社の徹底例解ロイヤル英文法(青)を使っているのですが、一部の生徒に対して、質問点があると適宜回答するという方式を取っています。

実は、今回ばかりは調べても回答できないという疑問があり、
メールをいたしました。

同書のp607、608「291 名詞句を導く接続詞 but (that)とlestの用法」
というくだりがあり、そこの例文の解説が腑に落ちないのです。

but, <but that>, <but what>という説明個所があり、

I am not sure but (that) he may failの訳が
彼は失敗するかもしれない(=I am not sure that he may not fail)
と記載されています。

さらに
Who knows but (that) it is true?(それが真実でないと誰が知ろう?)
(=Who knows that it is not true?)と記載されています。

この理屈でいくと、but 以下が否定されるというのは理解できるのですが、
同書のp608にさらに例文があり、

There is no doubt but that he is guilty(彼は有罪であることは疑いない)
という訳文があるのですが、これは本来
「彼は無実であることは疑いない」という訳になるはずなのに、
なぜ有罪であることは疑いない、という訳になるのか?
という質問を受けました。

言われてみると、質問してきた生徒の疑問には全く同感で、
but that he is guilty=he is NOT guiltyであり、
There is no doubt that he is NOT guilty
すなわち、彼は無実であることは疑いない

という和訳になると思った次第です。

同様に、同ページに
I don't doubt but that you will succeed (君が成功することは疑いない)
=I don't doubt that you will succeed とあり、
やはりbut 以下が肯定の形で解釈されています。

この場合の but というのは、なぜ肯定の意味を持つのか?
どうやってbut 以下が否定か肯定かを見極めることができるか?
というのが質問です。

大変わかりにくく、長い質問文で申し訳ありません。
もし、お時間や状況が許すようでしたら、ご説明を頂けますと
大変うれしく思います。よろしくお願いいたします。

A) まず、ジーニアス英和辞典第4版 butの従属接続詞の説明と、ジーニアス英和辞典第5版 butの従属接続詞の説明を並べます。

[第4版]
10 《文》[名詞節を導いて] …ではないと(that ...not)《◆(1) 否定文の後で but は that の代わりに用いられ否定を強調している. (2) 通例 believe, expect, know, say, think, be sure などの否定文・疑問文の後で用いる. (3) It cannot be, It is impossible, Is it possible?などの後で用いることもある》∥We are not sure but she is right. 彼女はきっと正しいだろう/I can't say but that I agree with you. 君に賛成だとしか言えない/Who knows but everything will go well? 万事うまくゆくだろう.
11 《文》[名詞節を導いて] …ということ(that)《◆(1) deny, doubt, question, wonder などの否定的意味を持つ動詞の否定・疑問文の後で用いる. (2) 今日では that がふつう》∥I don't doubt but she will recover. 彼女はきっと回復するだろう/It is not to be denied but that the news was a great shock to her. そのニュースが彼女に大きなショックを与えたことは否定のしようもない.[語法] 名詞 doubt, question などについても同様に用いる. この場合も今日では that がふつう:There is no doubt[question]but he was murdered. 彼が殺されたことは疑いの余地がない.


[第5版]
8《古》[名詞節を導いて]
(a) …ではないと(that ...not)<否定文の後で用いられる>
I can't say but that I agree with you. 君に賛成だとしか言えない
(b) …ということ(that)<(1)通例 deny, doubt, question, wonder などの否定的意味を持つ動詞の否定形の後で用いる.>
I don't doubt but she will recover. 彼女はきっと回復するだろう
[語法] 名詞 doubt, question などについても同様に用いるが古めかしい.There is no doubt [question]but he was murdered. 彼が殺されたことは疑いの余地がない.


第5版は分量が激減していますね。この違いを見てわかるように、従属接続詞のbutはあまりに古い用法であり、これを現代の高校生に教える意味はないと思います。むしろ害になるというのが私の考えです。ただ、指摘した高校生に答える必要がありますから、整理していきます。

高校生が指摘しているように、名詞節を導く従属接続詞のbut、およびbut thatやbut whatには二つの用法があります。ジーニアス英和辞典第5版をもう一度見てみましょう。

(a) …ではないと(that ...not)<否定文の後で用いられる>
I can't say but that I agree with you. 君に賛成だとしか言えない
(b) …ということ(that)<(1)通例 deny, doubt, question, wonder などの否定的意味を持つ動詞の否定形の後で用いる.>
I don't doubt but she will recover. 彼女はきっと回復するだろう


実は名詞節を導く従属接続詞のbutは元来は(a)の用法、すなわちthat...notの意味でした。関係代名詞のbutとよく似ています。
cf. There is no rule but has exceptions.
= There is no rule that doesn't have exceptions.
例外のない規則はない。

では、なぜ(b)の用法が生まれたのでしょう。
「英米語用法辞典」(井上義昌編)(開拓社)の、218ページの⑨にこうあります。

doubt, denyなどの語の否定または疑問の構文に続くbut, but that, but whatは単に"that"の意味である。この無意味のbutはフランス語の用法から出たものといわれているが、余分の(redundant)ものであるから、今は単にthatを用いたほうがよいというのが定説になっている。

私はフランス語はまったく勉強していないので、上記の「フランス語の用法」が何を指すのかわかりませんが、十分ありうることだと思います。ただ、ヒントになることが「英語語法大事典」(大修館)の877ページの46.「but thatの意味」に書かれています。


1. 一般的に言って、否定か疑問の主節に続くbut thatはthat...notを意味します。
(略)
2. お示しの例文(I don't doubt but that you will succeed.)のようにbut thatがthatを意味する(すなわちbutが無意味の語となる)ことはむしろ異例で、「否定的な意味を持つ動詞がさらに否定されているとき、その後に続くbut (that)」にのみ起こることです。「否定的な意味を持つ動詞」で今日もときどき用いられるものの例をあげますと、
(1) doubt「疑う、信じない」(= not believe, not trust)(2)deny「否定する、…ではないと言う」(= say that ... is not true)(3)question「疑問に思う、確信がない」(= consider...doubtful)(4) wonder「不思議に思う、本当とは思えない」(= feel doubtful)などがあります。
(略)
「否定的な意味を持つ動詞がさらに否定されているとき」ということは、
there is no doubt/ have no doubt/ leave no doubt/ there can be no questionなどのような、名詞を核心としたほぼ同義の表現の場合も含みます。また、wonderはこの用法ではふつう、I should not wonder but (that)...の形式となります。
3. (略)
2.の場合、butが否定の作用をすることなく無意味な語となる心理的な理由を述べることは困難ですが、「否定的な意味を持つ語をさらに否定する」いわゆる2重否定(Double negation)が限度であって、これにさらに否定的な接続詞but (that)を続けても、否定的な強調とはなるでしょうが、否定の否定の否定とはならない、と考えてはいかがでしょうか。
事実
It is not impossible but such a day may come.
のような3段構えの文では、butは否定の作用はせず、これは「おそらくそのような日が来ることもあろう」の意味の回りくどい表現であると考えられます。


まとめます。
1.名詞節を導く従属接続詞のbut/ but that/ but whatは、主節が否定文で用いられると(疑問文の場合は修辞疑問文になる)、that...not「…でないこと」の意味を表すので文全体は二重否定=肯定になる。
 I can't say but[but that/ but what] I agree with you. 
=I can't say that I don't agree with you.
君に賛成だとしか言えない
2. ただし、主節がdeny, doubt, question, wonder などの否定的意味を持つ動詞を用いた否定文の後に、名詞節を導く従属接続詞のbut/ but that/ but whatが用いられると(疑問文の場合は修辞疑問文になる)、単にthat...「…ということ」の意味を表し、文全体は二重否定=肯定になる。that...notの意味にならないのは、すでに二重否定になっているからである。
 I don't doubt but[but that/ but what] she will recover. 
= I don't doubt that she will recover.
 彼女はきっと回復するだろう

ここで冒頭に戻ります。こんな知識が高校生に必要だとは思えません。そういう意味では私は「ロイヤル英文法」はお勧めしません。教師用の参考書です。これを高校生が使えば、あまりに細かな用法や古い用法を頭につめこみ混乱するだけだと思います。私の経験では「名詞節を導く従属接続詞のbut/ but that/ but what」が入試問題で問われたことはありません。仮にそれが問われても、ほとんどの受験生がわからないのですから、差がつかないと思います。従属接続詞のbutは副詞節のIt never rains but it pours.ということわざだけ覚えておけば十分だと思います。
 なお、最後になりましたが、ロイヤル英文法のbut, but that, but whatの説明箇所の内容は正しいです。もう一度読んでください。