Q189) 間接話法の従属節におけるagoについて
以下は、現在国学院大学で教鞭をとっておられる久保田正人氏の論文「動詞の時制をめぐって」からの引用になります。

John said yesterday that Harry had left three days ago.
「3日前」というのは発話の時点からみたものではなく、Johnの発言時である「昨日」からみた3日前である。つまり、Harryが出かけたのは、この文の発話の時点からみると、4日前ということになる。
agoという表現は、発話の時点からみた、いわば「絶対的過去時」を表すだけでなく、文中の出来事の発生時に依存した、いわば「相対的過去時」も表すことができるということである。


ある英語学習サイトの間接話法の従属節におけるagoに関する内容を当てはめると、Harryの出かけたのは3日前になります。別の英語質問サイトによると、Harryの出かけたのは、同じく、3日前でした。川嶋様の考えはどのようになりますか?

A)「現代英文法総論」(レナード・デクラーク著)(開拓社)の727ページに話法の書き換えについての注意があります。

[注意] today, now, yesterdayなどの直示的副詞が、過去時制の伝達動詞のあとのthat節の中で用いられることがある。ただしそれらが話者Bの「現在」(here and now)と結びついている場合に限られる。
They told me yesterday that the exhibition will open tomorrow.
この場合、副詞tomorrowは、話者Bが伝達している日の翌日を指す。tomorrowという語は、原話者Aの発話には用いられていなかったものである。このように、直示体系の中心がAからBへ転移する現象は、willの使用にもみられる。この場合、時間領域の後方転移は現在以後、すなわち、Bの発話時より以後への転移であることになる。
She said the ship (had) arrived two days before.(話者Aの発話時よりも2日前)
She said the ship arrived two days ago. (話者Bの伝達時よりも2日前)


なお、この前提として、以下の[注意]が718ページに書かれている。

話者Aとは、その発話または思考が伝達される人を指す。話者Bとは、話者Aの発話または思考を伝達する人を指す。

わかりやすいように、ここでは、Aは「原話者」、Bは「伝達者」とします。
すると、デクラークの言いたいことは、こうなります。
(a) They told me yesterday that the exhibition will open tomorrow.「彼らは昨日僕に展覧会は明日始まると言った。」
この文において、伝達者Bが発話した日=「現在」を、4月25日とすると、原話者Aが言ったのは、4月24日である。展覧会が始まる日は4月26日になる。
このとき(a)に時制の一致は適用されていない。tomorrowはまだ来ていない未来だからである。
あえて、直接話法にすると、(b)になる。
(b) They said to me yesterday, "The exhibition will open the day after tomorrow."
「彼らは昨日僕に言った。『展覧会は明後日始まるよ』と。」
 (b)のthe day after tomorrowが(a)ではtomorrowに変化している点に注目しよう。

では、次の2文を比べてみよう。
(c) She said the ship (had) arrived two days before.(話者Aの発話時よりも2日前)
(d) She said the ship arrived two days ago. (話者Bの伝達時よりも2日前)

(c)の文で、伝達者Bが発話した日=「現在」を、4月25日とする。原話者Aが言ったのは、それより以前の日である。それを、仮に4月10日とすると、船が着いたのは、4月8日である。
(d)の文で、伝達者Bが発話した日=「現在」を、4月25日とすると、船が着いたのは、4月23日である。

このデクラークの説明をベースに本問を考えてみよう。
(e) John said yesterday that Harry had left three days ago.
この文の伝達者Bが発話した日=「現在」を4月25日としよう。原話者Aが発話したのは、4月24日になる。それではthree days agoは、「現在から3日前」なので、4月22日になる。
なお、(d)における、had leftは時制の一致によるものですが、leftでも構いません。過去完了と...agoの共起がおかしいとおっしゃる方は次をご覧ください。「改訂版・英文法総覧」(安井稔著)(開拓社)の330ページです。

[解説] 同じ直接話法の文でも状況によって異なる間接話法の形をとることがある。例えば、次の(1)に対応する間接話法の文を考えてみるとしよう。
(1) She said, "I came here two days ago."
「私は2日前にここへ来ました」と彼女は言った。
(1)の間接話法は、通例(2)の形となるとされる。
(2) She said that she had come there two days before.
 彼女はそこへ2日前に来たと言った。
しかし、彼女の発言が同じ今日という日のうちに行われ、話し手が(1)の文全体を、彼女の発言と同じ場所で発しているのなら、(1)の間接話法は次の(3)の形となる。
(3) She said that she had come here two days ago.


なお、この問題は、「続・英語語法事典簡約版」(大修館)の524ページの22-45にも取り上げられていますので、読んでみてください。