剣山連峰を越えた先に
人里がない事は此の南大陸を
まだ踏破していない現時点に於いても
織り込み済みだったが
僅かな小動物を残し
中型の獣までもが居ないのは予想外で
こうなって来ると
心配なのは矢張り残りの食糧
パンや穀物乾燥野菜や干し肉の余裕が有る内に
手立てを用意せざるを得ないのは
アトラン人の支配が今以上に及んでいない
地域の現状を見れば尚更わかる事で
大型の獣が生存している以上に
繁殖や繁栄を阻害している原因なのだ
城壁の中でしか生きられない家畜を
放牧させるには安全確保が必要不可欠で
その為には徹底的な大型獣の狩りが必須となり
抑その為の討伐遠征なのだから
当たり前の事なのだが
「 あっ方法を誤ったか 」
こういう場合
小隊を以て
より広範囲の探索を各地方に
広げるべきだったのにもかかわらず
大隊で進めてしまったのは
如何にも効率が悪過ぎるとの
考えに至らなかったのは何故か
「 あっそうか 」
そんなもん決まってるやんけ
それが無理だからだ
ドラゴン退治を果たした俺達が居てこその
初めて成立した此度の遠征なのだから
多数組の隊を各地に送る事なぞ
出来る訳がないのだっ
勿論コウキン城の近辺は
今も王軍が守っている訳だし
人々も鳥籠の鳥って訳じゃあないが
「 コギュウ隊長
     今までに討伐遠征に出た軍隊はどうなった」
肝心な事を聞きそびれていた事に
ようやく気づいた俺の質問に
無骨で厳めし顔の軍人の返答は無言劇だった
にも拘らず理由が其の日の夜に判ったのは
お喋り好きの兵士のひとりが
教えてくれたからだが
彼の話を要約すると
最後の討伐隊が行われたのは約一年前で
其の隊を率いたのがコギュウ隊長で
意気揚々と旅立った隊長が
半年前に連れ帰ったのは
たった一人の重傷者で
その兵士も
城に辿り着いたあと
治療のかいなく数時間後に亡くなり
唯一の生き残りとなった
コギュウ隊長から話を聞いたコウカ王も
口を閉ざし詳細は今でも分からないと云う
「 何か秘密があるのに違いない 」
その時はまだぼんやりと浮かんだだけだった
疑問が今では明瞭とまでは行かなくても
しこりの影程度には見えてきた様な
気がしたのは否めなかったし
流石にイヒヒヒっと声には出さなかったが
むくむくと顔を持ち上げて来た
如何にもリスクを伴う事が
分かり切っている筈の好奇心が
溢れ出して来ているのを自覚しつつも
押し留めること能わずのパーセンテージが
上昇しつつ或る事を認識しつつも
止められない自分が存たのは確かだった
もしかしたら
此の大砂漠に突如
現れた地下神殿こそが
その謎を白日の下に晒す
唯一の事例になるやもしれない
今や青空に湧き出た入道雲の如く
拡がった期待がオレの胸を充たしていた
そしてそれと同時に
アトラン大陸踏破大隊の
新たな展開の始まりでもあった
我が名は難波成之
異世界にて記す者