恋はつづくよどこまでも二次創作小説【NYランデブー:第12話.マンハッタン·ダンディズム】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

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毎日着物で、ランチと色々なワインを楽しんでいます。イタリアワイン、サッカー、時代劇、武侠アクションが大好きです。佐藤健さんのファンで、恋はつづくよどこまでもの二次創作小説制作中。ペ・ヨンジュンさんの韓国ドラマ二次創作小説多々有り。お気軽にどうぞ。

【NYランデブー:第12話.マンハッタン·ダンディズム】

JFK空港で白浜杏里と母親を出迎えに来ていた七瀬は、驚きのあまり暫(しば)しその場に立ち尽くした。目の前に愛しい天堂浬(かいり)がいる。
「嘘でしょう、信じられない」
七瀬はピョンピョンと跳び跳ねるとちぎれんばかりに大きく手を振った。
「先生、天堂先生、ここで~す!」
たぶん、その声は自分が思うより遥かに大きかったのだ。天堂浬はいち早く七瀬を見つけると、表情一つ変えず一直線に彼女の元にやって来た。
『わっ、ハグ!?』
ここはアメリカ、ニューヨークだ。それも空港。七瀬は一瞬にして成田空港での浬(かいり)とのラブシーンを思い出した。
『あぁ、先生…ギュッとして』
浬はそんな七瀬にチラリと視線を向けると、ただ一言、抑揚の無い声で言った。
「目障(めざわ)りだ」
「ちょっとやり過ぎました?」
浬は口元を押さえると独り言のように呟(つぶや)いた。
「俺がどれだけ我慢していると思ってるんだ」
「はい?」
七瀬はにこやかな笑顔を向けると首を傾(かし)げた。まるでお散歩に出掛けるのが楽しくて大喜びしている子犬のようだ。
『いかん、可愛すぎてこのままでは理性が吹っ飛ぶ』
危険極まりない。メガトン級である。

かろうじて冷静を装った浬は七瀬から目を反らすと、直ぐに隣に立つ男性と挨拶を交わした。
「はじめまして、白浜杏里ちゃんの担当医 天堂浬と申します。こちらは杏里ちゃんとお母さんです」
母と娘を紹介すると、男性は溢(こぼ)れるような笑顔を見せた。
「イ・ジュンサンと申します。父イ・テワンの代理でお迎えに参りました」
その名を聞いた杏里は驚いたように口元を覆(おお)うと、イ・ジュンサンの元に駆け寄った。
「はじめまして、白浜杏里です」
「杏里ちゃん、ようこそ、ニューヨークへ」
杏里の瞳がキラキラと輝いている。
『なんて素敵なの。それに凄いハンサム』
天堂浬と肩を並べるハイクラスのイケメンだ。二人が並ぶとさっきから眩(まぶ)しくて仕方がない。彼女は目を細めるとジュンサンを見上げた。
「どうかした?」
「ライトが目に入って。大丈夫です」
「こっちへおいで」
優しく背中に添えられた手に胸が高鳴る。心地よい香りに誘われて杏里は思いきって聞いてみた。
「あの『アスティとタルト』の絵本の作者でしょう」
「そうだよ」
「夢みたい。私、大好きなんです。シリーズ全巻持っています」
「ありがとう、嬉しいよ。心から感謝する」
「日本語、とてもお上手ですね」
「『アスティとタルト』は世界各国の子供たちが読んでくれるからね。会った時におしゃべりしたいんだ。日本語も勉強したよ。一番苦手なのはアメリカン・イングリッシュかな」
「わぁ、ホント?」
「ホントだよ」
そうして和(なご)ませるジュンサンは膝を折り、杏里と視線を合わせると愛しげに彼女の顔を眺(なが)めた。
「もっと本当な事を見つけたんだ。聞きたい?」
「聞きたい」
「いいよ、小さなレディ杏里に教えてあげる」
ハンサムで憧れの作者に見つめられ、そんなセリフを目の前で、それもロマンチックな素敵な声で囁かれたら、断る者など皆無だ。
「写真より似ている。君は僕のママにそっくりなんだ」
「えっ!?」
「七瀬が教えてくれた」

ジュンサンは胸ポケットから写真を取り出した。
「亡くなった僕のママ。これはまだ少女の頃、杏里ちゃんはとてもよく似ているんだ。驚いたよ」
古い写真の中に一人、杏里とよく似た女の子がいる。
「七瀬がパパに言ったそうだ。何で杏里ちゃんの写真がここにあるんですかって」
天堂浬は納得するように頷(うなず)いた。
「確かによく似ていますね。七瀬がそう言うのも無理はない」
「そうでしょう。まるで双子、私も驚いちゃって。何で杏里ちゃんが古い写真に写っているのかなって不思議、よく考えても分からない。アハハ~」
興奮気味に話す七瀬を、浬は斜め目線で見下ろした。
「何がアハハ~だ。お前は馬鹿か。よく考えなくても分かるだろう」
久々の天堂浬 魔王復活である。
「もう、先生ったら、やめてくださいよぅ」
七瀬はめげるどころか、嬉しそうに浬の袖を摘まんで見上げている。
「鬱陶(うっとう)しい、指をどけろ」
「分かっていますが、離せません」
「邪魔だ」
「先生を愛していますから。ここで」
「お前は袖を愛しているのか」
「はい、先生が触れた一部ですから。会えなかった分、たくさん」
「懐(なつ)くな、鬱陶(うっとう)しいと言っただろう。二度も言わせるな」
「聞こえてま~す。先生の声もいっぱい聞きたい」
すり寄る七瀬に強い言葉を吐く天堂浬の方がタジタジである。初めて見る光景に驚いたジュンサンは目を見開いたまま、暫(しば)し掛ける言葉を失った。
「ええと…七瀬、大丈夫?」
「はい、慣れていますので。こういう天堂先生も素敵ですから」
「そうなの?」
それに答えたのは杏里だった。
「佐倉さんは勇者なんです。魔王の心を射止めた勇者です」
「勇者?」
「お医者さんの天堂先生は容赦なく厳しいんです」
「杏里ちゃん」
苦笑いする浬に七瀬は言った。
「でも先生は患者さんには凄く優しいのよね」
「そういうことか。七瀬は幸せだね」
「えっ?」
「君だけに見せる特別な姿、君を深く愛し、信頼しているから自分をさらけ出す」
「わぁ、そうなんですか。それならそうと早く言ってくれればいいのに」
「図に乗るな」
「もう~先生ったら照れちゃって。して欲しい事があったら何でも言ってくださいね。遠慮なんていりませんよ」
浬はジロリと七瀬を睨(にら)んだ。
「いい加減にしろ。ニューヨークへは遊びに来たんじゃない。真面目に出来ないなら留学も取り止めて今すぐ帰れ」
「すみません、まさか天堂先生がいらっしゃるなんて私、夢にも思わなくて」
シュンとした七瀬は顔を歪(ゆが)めベソをかいた。そんな彼女に寄り添い慰(なぐさ)めたのは杏里だった。
「佐倉さん、泣かないで。私、佐倉さんがまた担当看護師だと、とっても嬉しい」
「杏里ちゃん」
「外国は初めてだし、アメリカでの生活も不安だから、天堂先生と佐倉さんが一緒だと安心する」
「ありがとう、杏里ちゃん」

目眩(めくるめ)く繰り広げられる光景を微笑みながら眺(なが)めていたジュンサンは、甥(おい)のジェヨンに語り掛けた。
「懐かしいな、フローラが医大生だった頃を思い出すよ」
「伯父さんは高校生だったんだろう」
「あぁ、まだイ・ミニョンと名乗っていた」
「パパはカン・ジュンサンか。ミニョン伯父さんはヤンチャだったって聞いたよ」
「アメリカ文学の授業がつまらなくて、サボって医大生とランチしに行った。帰りにストリートギャングに囲まれた」
「相当 危険だな」
「ジュンサンが機転を効かせて助けに来てくれた」
ミニョンが若い頃、自暴自棄になっていたのは聞いた事がある。
「フローラおばさんに怒られたんだろう」
「いや、フローラは別なことで泣いて嫉妬した。僕の初恋の彼女、チョン・ユジンをまだ好きなんだろうって大泣きして手が付けられなかった」
「えっ、僕のママと付き合っていたの!?」
「まさか、片想いさ。僕の初恋は一目惚れの片想い。直ぐに断ち切った」
そこにはセウン一族の後継者争いも絡んでいたからだ。イ・テワンは姪のユジンをセナのような危険には絶対に晒(さら)したくなかったからだ。
亡くなってからも上条葉月に心を寄せる上条周志の申し出を、無下には出来なかった。ジェヨンはそんな想いを知っているだろうか。彼はのんびりと言った。
「初恋で一目惚れまでパパと同じか」
「僕の方が少しだけ先に出会った」
「僕とミミは幼馴染みで、ミミの初恋は僕だって。残念ながら僕は違うけど」
「ジェヨンは僕と同じ年上好みだからな。そこは遺伝か」
「アハハ~」
ジェヨンの屈託ない笑い声は幸せに育ってきた産物かもしれない。幼い頃に目の前で我が子を守るために、躊躇(ためら)いもなく銃弾に立ち向かった母親セナを失ったミニョンの衝撃は、後に大きな精神的影響を与えた。目の前で優しくロマンチックに微笑む伯父は、そんな事は微塵(みじん)も感じさせない。
「フローラも年上で僕らも幼馴染みだ」
「テワンおじい様とセナおばあ様も幼馴染みでお互いに初恋の相手だった」
ジェヨンの言葉にジュンサンはセナの写真に視線を移した。
「ミニョン…とママが僕を呼ぶ声は、とても優しかったよ」
懐かしい母によく似た杏里は心臓移植の後、移植された上条葉月に似た行動が現れているという。ジュンサンとミニョンもまた過酷な運命に翻弄された。記憶喪失や多重人格だけでなく、互いの人格の入れ替わりや失明など、改名に至るまで多くの困難と試練を乗り越えてきた。時には生死に関わることさえあった。二人は生きるために、イ・ミニョンとイ・ジュンサンと改名し、互いの名前を交換した。幼い頃に亡くした母の面影を杏里に重ね、今回の治療の協力に真っ先に申し出たのはイ・ジュンサンだった。そして天堂浬と佐倉七瀬の二人を見ていると、母に愛するフローラと結婚したことや、娘のシンシアを見せられなかった事が残念でならない。

浬と七瀬は他愛のない口喧嘩をしながら、相変わらず見つめ合ったり微笑んだりと忙しい。ジェヨンは空港の出口に向かいながら、ジュンサンに報告した。
「伯父さんに言われた通り、Dr.天堂にはメイリン・ワンが書いた日本語版の本を送っておいたよ」
「『セウン一族、二人の後継者の奇跡』か。懐かしいな。彼女が執筆を申し出た時、僕は記者会見場で彼女と対峙した。先に承諾したのはジュンサンだったよ」
「パパが?」
「ママの葬儀の際に弾いたベートーベンの悲壮を弾くのが条件だった。君のパパはその頃、既に失明していたんだ」
「聞いた事がある。パパは見事に悲壮を弾いて見せたって」
その言葉に後ろを歩いていた杏里が微かに曲名をなぞったのは誰も気づかなかった。杏里はその後もジュンサンとジェヨンの会話に耳を澄ました。
「僕ら二人から生まれた多重人格の発端になった事件や事故についても丁寧(ていねい)に書かれているからね。今回の治療に役立てば良いと思う」
「今でも伯父さんの中にいる月影の名君シン王子は出てくるの?」
「相変わらず文学を読みたがるよ」
ジェヨンは二人が生み出した別人格のミニョンについては、それ以上聞かなかった。シン王子は知的で穏やかだったが、父の心と身体を乗っ取ろうとした多重人格の中のもう一人ミニョンは封じ込められた。今はもういないと伯父は言うが、正直怖さもあった。ジェヨンは後ろを歩く杏里を意識した。彼女は心臓移植を受けて以来、提供者の上条葉月に酷似した現象が起きているという。その従兄妹の上条周志から、いち早く連絡が入った。上条財閥の御曹司と言われる彼もまた、Dr.天堂浬が担当した患者であった。先頃スウェーデンのホテルを買い取った上条周志は本格的リゾートホテルの開業を展開するという。そのために世界のホテル王ワンチャイホテルの創始者であるワン・チャウサンお祖父様の孫のワン・ミミと結婚したジェヨンにコンタクトを取ってきた。そこにはビジネスだけではない、白浜杏里への心臓移植提供者である上条葉月の事が絡んでいた。その案件は日浦総合病院からハドソン病院の小児科医のフローラへ、そしてミニョンへも伝わった。それでも、セウン一族である家族は誰も反対せず、快く受け入れた。そこには亡き母親ソン・セナと杏里がとてもよく似た容姿だったことも、大きく気持ちを後押しした要因になっていた。

空港を出た一行はイ・テワン邸があるグラマシーを目指して進んで行った。マンハッタンに差し掛かるとジェヨンは杏里に伝言を告げた。
「今夜はおじい様が家で杏里を歓迎するディナーを用意しているんだ。それで、おじい様から杏里に一つ、お願いがあるそうだよ」
「何でしょう」
「セナおばあ様のドレスを杏里に着て欲しいと用意したんだけど、いいかな。アンティークになるけど」
「私、アンティークのドレス、一度着てみたかったんです」
「ありがとう、ただし靴は揃わなくてね。それで、マンハッタンの靴店で、おじい様が待っているんだ」
ミニョンは納得するように頷(うなず)いた。
「それで、空港へのドライバーはジェヨンにしたのか」
「おじい様のドライバーはソングさんが行ってる」
「ソングはママが撃たれた日に生まれて、パパが名前を付けたんだ」
幼かったその日の悲しみを昨日の事のように覚えている。その横顔は物悲しく憂(うれ)いを帯びていた。七瀬は浬から詳しくその事を聞くと溢(あふ)れる涙を拭(ぬぐ)った。
「ごめんなさい、先生」
「謝るな、泣いてもいい」
今は強く肩を抱いてくれる人が隣にいる。しゃくりあげる七瀬は浬の胸に顔を埋めた。

五番街のとある靴店の前で車は止まった。それに気づいたイ・テワンは満面の笑みで杏里を出迎えた。
「白浜杏里ちゃんだね、ようこそニューヨークへ」
「はじめまして、イ・テワン会長」
握手する二人は年の差など感じさせないほど、にこやかに見つめあった。
「私はソン・セナおばあ様に似ていますか」
「あぁ、とてもよく似ているよ。私がセナに恋した頃、そのままだ」
「ドレスのこと、お聞きしました。ありがとうございます」
「是非、着て見せて欲しい。さぁ、似合う靴を見つけよう」
テワンが差し出す手に、杏里はそっと手を乗せた。

一行はその光景を固唾(かたず)を飲んで見守っていた。あまりにも眩(まばゆ)く、誰一人として声を発することさえ出来なかった。歳を重ねたテワンが、初々しい少女の杏里を見事にエスコートしている。年若きテワンとセナに見えるのはニューヨーク五番街の魔法だろうか。二人の姿が店内に消えると、皆は一様に息を吐いた。そうして七瀬は浬と腕を組み、蕩(とろ)けるように呟(つぶや)いた。
「ロマンチック…ううん、ニューヨーク・ロマンス。テワン会長、素敵」
「それ以上だろう。あれはマンハッタン・ダンディズムだ」
二人は顔を見合わせた。
「私も先生のマンハッタン・ダンディズムが欲しい」
「生憎(あいにく)、ニューヨークにはさっき到着したばかりなんだ」
「それでも私は天堂先生が一番好き」
「当然だ」
浬は七瀬に顔を近づけると短くこう言った。
「これは治療だ」
コートは翻(ひるがえ)っただろうか。ニューヨークでの初めてのキスは私にとってのマンハッタン・ダンディズム。
「七瀬」
「治療中です」
浬はその言葉に再度熱く応えた。

第13話.へ続く…

第11話.空港の守護神


第13話.青い鳥の調べ
※参考

https://ameblo.jp/baeyongjoon829/entry-12165485790.html?frm=theme


https://ameblo.jp/baeyongjoon829/entry-12165669335.html?frm=theme


https://ameblo.jp/baeyongjoon829/entry-12168165510.html?frm=theme



第801話.父の役目

【連枝の行方.第二部『世界は愛に満ちている』⑧】
風月☆雪音