改:第2話.夏の面影【思い出の伝言『ヨンジュンのオフの過ごし方』】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

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毎日着物で、ランチと色々なワインを楽しんでいます。イタリアワイン、サッカー、時代劇、武侠アクションが大好きです。佐藤健さんのファンで、恋はつづくよどこまでもの二次創作小説制作中。ペ・ヨンジュンさんの韓国ドラマ二次創作小説多々有り。お気軽にどうぞ。

第2話.夏の面影

【思い出の伝言『ヨンジュンのオフの過ごし方』】

仲良く後片付けを終えると、二人はホッと息を吐いた。
「ヨンジュン、見せたい物があるの」
ルナはバッグからマグカップサイズのガラス瓶(びん)を取り出すと、ヨンジュンの前へ差し出した。
「開けていいの?」
「どうぞ」
中には箸(はし)置き程の小さな陶器が入っている。
「麦わら帽子だ」
ヨンジュンはそう言うと、楽しそうに顔を綻(ほころ)ばせた。

陶器の中には他にも色々な物が入っていた。ビーチボールに緑のスイカ、赤い水着と海水パンツ。水中メガネにビーチサンダル、可愛い水玉の浮き輪は水着の色とお揃いで。

長い指が一つ、また一つ、小さな夏を並べて行く。
「この棒は何に使うんだろう」
「物干し竿よ。濡れた水着や水中メガネを乾かすの」
「なるほど。ここをこうして…これでいいのかな。それからこれは何かな」
二人は額(ひたい)を寄せ合った。
「ええと…小さな穴が開いているから棒に通してみて。浮き輪はそのまま掛かっていたわ」
「あぁ…こうだな。ということは、これは」
「物干し台になってるの」
器用な指が直ぐ様、その形を作っていく。
「出来た!」
「ヨンジュン凄い。見ていないのに作っちゃったの?」
「こういうのは得意なんだ」

子供の様に目を輝かす彼の前へ、ルナは薄い包み紙を差し出した。
「これも一緒に置いてくれる?」
「何だろう」
手の中で、人差し指と中指が丁寧(ていねい)に折り目を解(と)いていく。
「貝だ…」

ほんの小さな、小さな白い巻き貝と、薄紅色の桜貝たち。二人は頬を寄せたまま息を潜(ひそ)めた。静かに静かに…壊さぬ様にそっと摘まんで、ビーチサンダルの隣へ置いて。
「この白いのは仕事で使ったの。それから、その桜貝はハランとサヨンと一緒に海へ行った時に見つけたのよ」
「そうなのか」

ルナは手帳から一枚の写真を取り出した。
「ハランが書いたんだけど、これ誰か分かる?」
水着のルナと浮き輪のハランの間に、金色のサインペンでニコニコと笑った顔が書かれている。
「もしかして僕?」
「ええ。ヨンジュンの事を聞かれたから、ずっとお仕事なのよって言ったら」
「何て言ってた?」
「夏休みがないと海にも行かれないんだねって」
「それで書いてくれたんだ」
ヨンジュンは愛(いと)しげに何度も写真を撫でた。

「それからね、これも」
「あっ…」
カラフルな赤い台紙の上に『子供花火』の文字がある。
「ハランがね、抽選会でクジを引いたら三つとも花火を当てたの」
「凄いな、でも貰っていいの?」
「自分とサヨンの分は一つずつあるからいいんですって。それにね、子供は大人花火をしちゃいけないけど、大人は子供花火をしてもいいんだよって…そう言われちゃった」
「アハハ~確かにそうだ」
ヨンジュンは声をあげて豪快に笑い出した。
「ルナ」
彼は腰に両手を当てた。
「花火しに行こうか」
「えっ?」
「これから漢江へ花火をしに行こうよ」

ヨンジュンは直ぐ様、白いキャップと白いトレーニングウェアに着替えた。
「私も白いキャップ、被ってくればよかったな」
「じゃあ、これ被って」
見上げるルナの頭にヨンジュンは黒いキャップを乗せた。
「川原は風があるから何か着る物を持って行った方がいいよ」
「私、カーディガンなんだけど寒いかしら」
「う~ん、ちょっと待っていて」
戻って来た彼は黒いトレーニングウェアを持っていた。
「それを私が着るの?」
「うん」
「ヨンジュンのを私が着たら大きくて子供みたいじゃない」
「風邪を引くよりましだろう」
袖口を二度折ると、ヨンジュンは笑いながら顔を上げた。
「これでいい?」
「うん」
「さぁ、行こうか」
「あっ、ちょっと待って」
袖(そで)をたくし上げたルナは、大きなペットボトルにたっぷりの水を入れた。
「それ、何に使うの?」
「花火をやった後には水を掛けなきゃ」
「あぁ、火の始末か」
明かりを消すとヨンジュンはドアを締めた。
「ハランがね、バケツを踏んづけて壊しちゃたの。そうしたらペットボトルに水を入れて持って来て、知らんぷりしてるのよ」
「やるなぁ、ハラン」
二人は笑いながらエレベーターへ乗り込んだ。
「持とうか」
「ううん、大丈夫。ヨンジュンが持ったら本当のトレーニングになっちゃうわ」
「ハハハ~それもそうか。でもさぁ、ルナ」
ヨンジュンは綻(ほころ)ぶ口元を押さえた。
「白いトレーニングウェアで子供花火を持っている男と」
「ガフガフなトレーニングウェアを着て、ペットボトルを抱いている女って」
「変だよね~」

次回:第3話.花火の夜

(風月)