改:最終話.アンニョン【ニューヨーカー『ヨンジュンのオフの過ごし方』】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

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毎日着物で、ランチと色々なワインを楽しんでいます。イタリアワイン、サッカー、時代劇、武侠アクションが大好きです。佐藤健さんのファンで、恋はつづくよどこまでもの二次創作小説制作中。ペ・ヨンジュンさんの韓国ドラマ二次創作小説多々有り。お気軽にどうぞ。

最終話.アンニョン

【ニューヨーカー『ヨンジュンのオフの過ごし方』】

長いフライトを終えて仁川空港へ到着したのは明け方の4時前だった。 空港からソウルへ向かう道はとても綺麗だった。空が明るくなり太陽が昇る。いい朝だ。人々が動き出す。
「じゃあ、ルナ。また後で連絡するよ」
「ありがとう、ヨンジュン」
少し休むと僕はソウルの一日を過ごし始めた。時差ボケ?そのうち起こるかも知れないね。

何日か経って事務所へ大きな荷物が届いた。
「ヨンジュン、送ろうか」
「これは僕が持って行くよ」

その夜ルナと待ち合わせて、僕はハランの家へ向かった。 ポルシェの助手席にはダンディが座っている。信号待ちで止まると、隣へ来た車が驚いた顔をして助手席を二度見する。 そうしてその後は皆、決まって少しだけ微笑むんだ。
『シートベルトはどうしたんですかって?大き過ぎて掛からなかったんですよ。えぇ、大丈夫です。尻尾と手足がしっかりシートベルトになっています。もちろん安全運転で行きますよ』

マンションの駐車場へ着くと僕はルナへ電話を入れた。
「今、下にいるよ。お土産の段ボールも持ってきた」
「ありがとう。じゃあ、私の部屋に運びましょう」
ハランもサヨンも僕が来るのを待って、ソワソワしているらしい。気づかれないように、そっとそっと。
「なんか、ルナらしい部屋だなぁ」
「そう?」
「優しい香りがするよ」
ルナは楽しそうに笑っていた。

「美味しいチーズケーキがあるの。後でお茶でも飲みましょう」
「あぁ、チーズケーキか」
ニューヨークを思い出した。それに嬉しいなぁ、ルナの家へ来るのは初めてだし。
「ルナ~」
「あっ、呼んでる」
「じゃあ、先に行って。ぬいぐるみを持って来る。あっ、フェラーリは僕から渡す」

車からダンディを抱えてエレベーターに乗った。腕にはフェラーリが入った袋がぶら下がっている。
「フフフ~」
よく考えてみたらポルシェにフェラーリが乗っていた。 僕、ハラン、ユン・マネージャー…それはこの上なく『男のロマン』かも知れない。そして今エレベーターの中では、白いキャップを被りサングラスを掛けた長髪の男が、凄く大きなクマのぬいぐるみを抱えているというのに…。
「誰も乗って来ないなぁ」
驚く顔が見たいのに。
「つまらないなぁ」
そのまま誰にも会わず、僕はハランの家の前に辿(たど)り着いた。

「あっと…」
ダンディとフェラーリを抱えて、ドアホンを押すのはちょっと大変だ。手を伸ばしてやっと押したら、直ぐにドアが開いてハランが顔を出した。
「あっ、ヨンジュン。いらっしゃい」
「こんにちは、ハラン」
「こんにちは…うわぁ、大きいなぁ!」
驚いてる、驚いてる。
「凄いね、サヨンの?」
「そうだよ」
ググッとドアを開けて入れてくれた先に、ちょこちょことサヨンが歩いて寄って来た。
「わぁ~」
小さなサヨンは息を飲むと、満面の笑みでダンディに飛びついた。
『あっ…重くなってる。サヨン、凄く重いよ』
僕はダンディと一緒に可愛い身体を抱き上げた。
「こんにちは、サヨン。大きくなったね」
「はい」
頷(うなず)くけれど、小さな手はさっきからフワフワのダンディを掴(つか)んで離さない。

「ハラン、これお土産だよ」
「わぁ~エンツォ・フェラーリだ。ありがとう、ヨンジュン」
嬉しそうなハランを見て、サヨンはその言葉を口真似した。
「ありがとう、ヨンジュン」
「うんうん」
彼の嬉しそうな顔と言ったら、もう零(こぼ)れ落ちそう。
「サヨン、このクマさんね、ダンディって名前なんだけど、いいかな」
「ダンディ?」
「そうだよ、ダンディ」
「うん」
嬉しそうなサヨンはスルスルとヨンジュンの身体を下りると、大きなダンディの前に立った。

「アンニョン、ダンディ」
サヨンはそう言うと大きな手をギュッと握った。握手しているんだ。
「うんうん、分かった」
小さな顔が何度も頷(うなず)く。
「ルナ、サヨンはダンディと何か話しているよ」
「なんて言っているのかしら」
フェラーリの箱を開けながらハランは教えてくれた。
「アンニョン、ニューヨークから来た僕の友だち。一緒に遊ぼうね、だってさ」

一緒に眠ったサヨンは夢の中で遊んだ。
『僕はヨンジュンと一緒に五番街を歩いたんだよ』
「それっておいしいの?」
『後で教えてあげるよ』
「ママ、サヨンは寝ながら笑っているよ」
「そうね、きっと楽しい夢を見ているのね」
「僕もエンツォ・フェラーリを抱いて眠ろう」

チーズケーキはニューヨーク・スタイルだった。美味しいジャスミン茶の香りが心地よい。
「アンニョン…だってさ」
ヨンジュンは私の部屋でお茶を飲みながら、嬉しそうに何度もそう言って笑った。

(終)

(風月)