改:第36話.フェラーリとぬいぐるみ【ニューヨーカー『ヨンジュンのオフの過ごし方』】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

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毎日着物で、ランチと色々なワインを楽しんでいます。イタリアワイン、サッカー、時代劇、武侠アクションが大好きです。佐藤健さんのファンで、恋はつづくよどこまでもの二次創作小説制作中。ペ・ヨンジュンさんの韓国ドラマ二次創作小説多々有り。お気軽にどうぞ。

第36話、フェラーリとぬいぐるみ

【ニューヨーカー『ヨンジュンのオフの過ごし方』】

私たちはスーパーラジコンのコーナーへ辿(たど)り着いた。
「何かご指定の物はありますか」
「エンツォ・フェラーリかF430がいいそうです」
「凝っていますね」
「えぇ、6歳なんですが、彼なりのこだわりがある様です」
「フェラーリは男のロマンですからね」
「僕もそう思います」
二人は顔を見合わせ、こっそりと笑った。
「これなんていかがでしょう」
ユン・マネージャーが差し出したのは『フェラーリ・ラジコン各車コレクション』だった。彼は箱を裏返すと、書かれていた説明仕様を韓国語へ訳してくれた。

『エンツォ・フェラーリ…シャープでダイナミックなラインを見事に再現。 創始者の名前からつけられたプレミアム・スーパーカーはフェラーリの最高自信作と言われている』

ユン・マネージャーはまた棚へ手を伸ばした。
「F430もありますが」
「やはりエンツォ・フェラーリでしょうね」
「そうですね。フェラーリの最高傑作ですから」
ラジコンカーが決まり、ヨンジュンはもう一つ欲しい物があると告げた。
「ぬいぐるみですか」
「えぇ、大きなクマのぬいぐるみを」
「プレゼントですか。それともご自宅用で」
「プレゼントです。ええと、1才の男の子で…ルナ、サヨンはいくつになった?」
「今月お誕生日だったから2歳になったの」
「あぁ、そうか。じゃあちょうど誕生日プレゼントになるね」

ユン・マネージャーが案内してくれた所には、フサフサの大きなクマのぬいぐるみが並んでいた。
「いっぱいあるなぁ。ルナはどれがいいと思う?」
「ええと…」
どれも可愛くて迷ってしまうわ。
「小さな男の子なら、この辺りはいかがでしょう」
とても可愛い顔をしていて、首にブルーのリボンを結んでいる。ヨンジュンはその中の一つを抱き上げた。
「立ちポーズで120センチ、座りポーズで80センチです」
本当にヨンジュンの長い腕を回すくらい大きい。
「どう、これ」
「いいわ、とっても可愛い」
傍(かたわ)らで見ていたユン・マネージャーは私たちにこう言った。
「ぬいぐるみは顔も表情も一つ一つ違います。どうぞよくご覧になって、お客様が連れて帰りたいと思うものをお選び下さい」

サングラスを外したヨンジュンはニッコリ笑うと、ぬいぐるみの高さへ腰を下ろした。
「フフン、なるほど」
ヨンジュンはぬいぐるみの顔を一つ一つ、丁寧(ていねい)に覗(のぞ)き込む様に見ていたが、最後のクマを見つめると静かに語り掛けた。
「僕と一緒に行くかい?」
彼はフワフワの手を取ると、まるで答えを確かめたかの様にウンウンと頷(うなず)いた。
「そうか、行くか。よし、分かった」
抱き上げたヨンジュンを見たユン・マネージャーは、穏やかな声でこんな事を言った。
「ぬいぐるみを選ぶ時、お客様は自分とよく似たものを選ばれます。そのクマ君はダンディで、とても優しい表情をしています」
「フフフ~そうなんですか」
彼は横を向くと照れた自分を誤魔化す様にクマの陰に隠れた。そうして私の耳に呟(つぶや)くような彼の声が聞こえた。
「ソウルで小さな友だちが待っているぞ」

ヨンジュンはレジへ向かってどんどん歩いて行くから、フェラーリの箱を持った私は、ユン・マネージャーと一緒に後ろを付いて行った。広い背中を眺(なが)めながら彼はにこやかに話し出した。
「初めてお会いしましたが、頼もしくて本当に優しい方ですね」
私は『はい』と答えた。
「ダンディですね」
「クマ君ですか」
ユン・マネージャーは笑っていた。
「どちらもです。そしてとてもハンサムです」
私はもう一度『はい』と答えた。

レジへ行くとヨンジュンはサングラスを掛けていた。隣へ立ってそっと覗(のぞ)いて見ると、サングラスの中の目が嬉しそうに笑っている。 カウンターへ入ったユン・マネージャーはヨンジュンへ問い掛けた。
「お店からソウルへ航空便で送る事も出来ますが」
「どのくらい掛かりますか」
「一週間ほどで着くと思います」
「一週間か…」
ヨンジュンはぬいぐるみとフェラーリを見比べて、少しの間考えていたが、やがて口を開いた。
「持って帰ります」
「お車でしたか」
「いいえ、歩いて帰られる距離なので、そうします。この子もニューヨークの景色が名残惜しいでしょうから、ちゃんと見せてやらないと」
ユン・マネージャーはあまり驚くこともなく、笑顔で『分かりました』と言うと、フェラーリの箱を可愛い袋に入れてくれた。
「ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございます」
ユン・マネージャーに見送られ、私たちはシュワルツを後にした。

次回:第37話.ダンディNYを行く

(風月)