改:最終話.バスローブのサンタ【迷子のミーシャ】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

風月庵~着物でランチとワインと物語

毎日着物で、ランチと色々なワインを楽しんでいます。イタリアワイン、サッカー、時代劇、武侠アクションが大好きです。佐藤健さんのファンで、恋はつづくよどこまでもの二次創作小説制作中。ペ・ヨンジュンさんの韓国ドラマ二次創作小説多々有り。お気軽にどうぞ。

最終話.バスローブのサンタ

【迷子のミーシャ】

ホテルへ戻ったミニョンはフロントへ名前を告げた。
「ようこそイ・ミニョン様、ソフィア・ガルシア様。当ホテルの総支配人でございます」
案内された部屋の前で二人は顔を見合わせた。
「ロイヤルスイート!?」
ゆったりとした部屋に大きなXmasツリーが飾られている。
「わぁ~凄い」
「ベッドルームは二つ。確かに別々の部屋だ」
それから…
「ミニョン様、ランカスター卿からよろしければディナーをと仰せ使っておりますが、如何(いかが)いたしましょう」
「ソフィア、いいだろう」
「ええ」
「お言葉に甘えます」
「では後ほどお越しいただくお時間をお知らせ下さい」
丁寧(ていねい)にお辞儀をする支配人は廊下の前でもう一度振り返った。
「フロアーにはバトラー(執事)が常駐しておりますので、ご用の際は何なりとお申しつけ下さいませ」

総支配人が姿を消すとミニョンは嬉しそうにソフィアの手を取った。
「ソフィア、楽しい?」
「とっても楽しい」
「僕はメリーおばあ様に誓ったよ。今夜は君のナイトでいるって」
「ミニョン」
「笑って、ソフィア。僕は君の笑顔が一番好きだ」

Xmasディナーはホテルのレストラン。ふわふわの黒いドレスにミニョンは顔を綻(ほころ)ばせた。
「クラシカルな黒のドレスっていいなぁ」
「レースが何枚も重なっているのよ。こんな手の込んだレースは見たことがないわ」
「素敵だよ。君にとても似合っている」
「ミニョンもタキシード、着てくれたのね」
ソフィアは少しだけ背伸びをした。
「こっちを向いてミニョン」
「うん?」
「ネクタイが曲がっているわ」
「じゃあ直して」
そうやってあの時の様に、ミニョンの首へ手を回してみるの。

本当は曲がってなんかいないのに。こうして吐息が触れるほど、あなたの近くにいる事が私はとても嬉しいの。柔らかなキャンドルの炎と優しい音楽、そして美味しいディナー。
「ミニョン」
「うん?」
「何でもない。美味しいね」
「あぁ、この上なく素晴らしいXmasディナーだ」
そうね、素敵なあなたと過ごす素敵なXmas。

「ソフィア、大丈夫か」
ミニョンはエレベーターの中でふらつくソフィアの身体を支えた。
「そんなに飲んでいないから」
「君がこんなにアルコールに弱いとは知らなかったな」
ロイヤルスイートへ戻ると、テーブルの上に色とりどりのプチケーキと紅茶が置かれていた。
「どうしようかな、お腹いっぱいだから…お風呂へ入ってから食べようかしら」
ご機嫌なソフィアは隣の部屋のドアを開けた。
「お風呂に入るけど、ミニョン覗(のぞ)かないでね」
「覗(のぞ)かないよ」
「何だ、そうなの」
「覗(のぞ)いて欲しいのか」
「イヤよ、ウフフ~痛たた!足の小指ぶつけちゃった」
ダメだ。完全に酔っ払ってる。だけどそんな君はとても可愛くて堪(たま)らないんだ。分かってないだろう、ソフィア。
「ほら、しっかり」
「バスルームまで連れて行って」
「ダメだ、酔いが覚めるまで大人しくしてろ」
「ミニョンもいる?」
「あぁ、いるよ」
そうして彼女は気持ち良さそうにうたた寝を始めた。

ソフィアを寝かしつけ、もう一つのバスルームでシャワーを浴びると、ミニョンはバスローブ姿のままメインルームへやってきた。白いフリルで被われたキュートなナイトウェアに身を包んだソフィアが、フロアーへ座り込んでいる。彼女はニッコリ笑って言った。
「酔いが覚めたから、お風呂に入ってきたわ」
「大丈夫か」
「えぇ、それよりあなたからいい香りがするわ」
「君のそのナイトウェアも、とても素敵だよ」
「嬉しい。でもケーキも好きよ」
「ソフィア、待っていてくれたんだ」
「ミニョンと一緒に食べたいもの」

楽しそうなソフィアは両手にケーキを持った。
「紅茶も美味しいのよ」
様子が変だ。
「何を入れた。あっ、これウィスキーじゃないか」
「あぁ、熱くなって来ちゃった」
「ダメだ、脱ぐな」
そのままコトリ…と胸へ倒れ込む彼女を、ミニョンはそっと抱きしめた。
「もう僕のところへ帰っておいでよ」
「まだ仕事があるの」
「起きてたのか」
「分からない。気持ちがいいの。だけど…クマのぬいぐるみがないの」
「えっ?」
「大好きだったのに、大切にしていたのに…私のクマのミーシャは何処へ行ったの?」
「夢を見てるのか」
「会いたいの、ミーシャに会いたい」
グスグス泣くソフィアの背をミニョンの手が優しく擦(さす)っていく。
「見つけてあげる。待っていて」
「ミニョン…大好き、大好き」
ギュッと身体を寄せるソフィアにミニョンは天を仰いだ。
「ソフィア、僕も男なんだけど」
「う~ん」
「まだ着替えてないんだよ」
「早くパジャマを着て」
「参ったなぁ。ナイトなんて言わなきゃよかった。でもこのくらいはいいだろう」
ミニョンは優しいキスを二度繰り返した。
「ミニョン…大好き」
「じゃあ、もう一回」
三度目のキスでミニョンはソフィアの口元を押さえた。
「このくらいでやめておこう。目を覚ましたらまた殴られそうだ」
「そんなことない」
「ふうん」
クスリと笑いミニョンは電話へ手を伸ばした。
「もしもし、買ってきて貰いたい物があるのですが…」

朝の光の中でソフィアは目を覚ました。
「ミニョン?」
「おはよう、ソフィア」
「うわぁ~!」
「何て声出すんだ」
「何で隣にいるの」
「君が離れなかったんだよ」
「ウソ!?」
「本当だよ。それに隣は僕じゃない」
赤いコートを着て、袖口とフードに白いボアが付いた可愛いテディベアが座っている。
「2007年のハロッズのXmasテディベアだわ」
『ベンジャミン』の名前の上に『ミーシャ』と書かれ、更にその上に『ミニョン』と書かれている。
「そのサイズでよかった?」
「うん」
「あぁそれから、ついでに君の身体のサイズも一ヶ所計らせて貰った」
「ど、どこ!?」
「教えない」
「どうしてよぅ」
「教えるもんか」
僕はこれから指輪の用意をしなくちゃならないんだ。

(終)

(雪音)