アキレス腱切断記

 

■ 全切断で手術なし、松葉杖生活3か月。

 

 

□ 第1章 アキレス腱全切断

 

 千葉県にあるセンターで、オペレーターをしていたときのこと。
 24時間ぶっ通しの仕事で、「16勤」という勤務があった。
 一日の仕事時間は8時間なのだが、一回の泊まり勤務で、前日の8時間と翌日の8時間の、合計二日分の仕事をこなすハードな勤務。

 6月、職場のレクリエーションで、昼休みにバレーボールをやった。
 きのうから泊まり勤務(16勤)の明けの日だったので、ちょっとボーッとしていたが、若いだけに格好良くアタックを決めた。

 アタック後、着地したときに、足首がグキッとした。
 足をくじいたかな? 捻挫したのかな? と思ったが、しばらくコートの横で休んでも足首の感覚が良くならない。


 少し心配になり、職場の近所の整形外科に行ったら、「左足のアキレス腱全切断です」といわれた。

 「プッチーンと音はしなかったし、ぜんぜん痛みもなかった」と訴えたが、「そんなものです」とのさらっとした説明だけ。
  すぐに頭の中で「手術 → 入院 → 松葉杖生活」とその場で考えたら、目の前がフラーッと暗くなった。

 しかし先生は、「手術はしません、ギブスで固定するだけです」とのお言葉。
 「この医者、大丈夫か?」と、心配になった。


□ 第2章 手術なし

 医者が「住友3M」ブランドの、厚いガムテープ(のようなもの)を横の部屋から出してきた。
 そして、バケツいっぱいに入れたお湯に、そのテープを漬ける。

 「ヒザからつま先までを、ピーンと伸ばして」といわれたが、足首から先はブラブラと感覚がない状態だ。

 お湯で柔らかくなったテープを、太股から爪先までぐるぐる巻きつけて、濡れたテープをシュコシュコと両手でこすりはじめた。

 「あれっ、石膏で固めるんじゃないの?」と訊くと、
 「今は、このテープが石膏の代わりになります。すぐカチカチに固まります。」
 数分待つと、最初はベタベタしていたテープが、叩くとカンカンと音がするくらいに堅くなった。

 「じゃぁ、次は松葉杖です。レンタルと買い取りがあるけど、どうせ不要になるから、レンタルでいいでしょう」
 「でも、松葉杖なんて使ったことがないし、、、」
 「誰でも最初は同じ。長さと握る位置は調節できるから、これで、、、」
 アルミ製の松葉杖を、用意してもらった。

 「あと、足を休めるときに、不便だから」
 と、杖の上にかぶっているゴム製スポンジ(脇の下に当てる部分)だけ外れたものを、かかとの下に取り付けてくれた。

 「手術をすれば速く直るけれど、あなたの職場はここから近いから、自然治癒を待つことにしましょう。」
 「まぁ、1週間に1回は来てください。」とのことだった。
 手術してアキレス腱をつなげば2か月で治るが、手術をしないで自然治癒をしなくても3か月で普通に歩けるようになる。
 手術しないと痕も残らず、入院も不要とのことだった。

 慣れない松葉杖で、ゆっくり進み、30分以上かけて駅まで行く。

 幸いなことに、使っているのは新しい駅だから、入り口から登るときもホームに降りるときもエレベータがあるので楽だった。
 しかし、入ってきた列車に乗ると中は満席! しかも、誰も席を譲ってくれない!!

 自宅近くの駅で降りると、雨が降ってきた。
 松葉杖をついているから傘をさせないまま、通勤カバンを肩に掛け、ビッショリと濡れながらゆっくりと進む。
 慣れない松葉杖で、脇の下が擦れて痛い。 無駄な力加減で、手首がクタクタだ。
 駅から家まで、いつもなら5分のところが、30分以上かかった。


□ 第3章 藪医者?

 やっと帰宅できた。

 「アキレス腱切っちゃった。でも手術はしなかった」
 と妻に報告すると、

 「それって、まともな医者なの?!」
 元看護師の妻は、そう言い返してきた。
 そして、すぐに、知り合いの医者に電話する。

 すると、アキレス腱切断は、いまは半数の医者が手術をしないことを、分かってもらえた。
 子供達は、松葉杖をついて動き回る私を見て、笑ったりあきれたり、、


□ 第4章 通勤その1

 電車の通勤が、思ったより大変だと分かった。
 週末ドライバーだったけど、車は持っていたので車通勤をした。

 右手はハンドル、左手はシフトレバー、右足がアクセルとブレーキ。
 アキレス腱を切った足は左。だから、AT車なら大丈夫。運転できそうだった。
 弁当などの荷物を、ディパックに詰めて助手席に置く。
 松葉杖は後部座席で、横に置く。

 職場に着いて、駐車場から建物までや、また、建物内部は松葉杖でゆっくりと移動できる。
 心配だったのがトイレだったが、洋式なら不便を感じなかった。


□ 第5章 通勤その2

 結構快適な生活、と思ったのもつかの間。 妻と子供が、夏休みで帰省してしまった。
 おまけに、車も一緒に田舎に持っていかれた。。。

 さて、困った。
 車がないから、電車通勤になる。

 家の近くの駅には、管理されている駐輪場があったから、駅までは自転車で行く。
 ママチャリの前カゴに、杖2本を上下逆に入れて駅まで。(これは快適)

 ホームの上に、駅の改札がある。
 杖2本を脇に挟んで上る階段は、右手で手すりを握りながらだと問題がない。(少し疲れるが)

 怖いのは、階段を下るときだ。
 左手で杖を挟み、右手で手すりを握る。 そして、右足を使って降りる。(アキレス腱が切れた左足は下に突けない)

 変則勤務だから、電車を使うのは空いている時間帯が多く、車内では座れることが多くなった。

 職場近くの駅は、エレベータなので、楽ちん。
 駅から職場はバス。まあ問題ない。
 バス停から職場は3分程度。 OK!


□ 第6章 ギブス外し前編

 話は前後するが、ギブスをして1か月目。
 それまでは、太股まであったギブスが、膝下だけとなるのだ。
 1か月間、足首はもちろん、ヒザも固定されていて、少しも曲げることができなかった。

 医者が取り出したのは、回転する電動ノコギリ !!

 それで、足の周りのギブスをギュイーンとカットしていく。
 ギブスが切れるだけならいいが、すぐ奥にはナマ足があるじゃないか。

 「ほんとうに大丈夫ですよね?」
 「今まで8人切ってますから」、、、、、???

 ギブスが、パカッと左右に開いた。

 ベッドに両手を突いて降りようとすると、
 「足を床についても、感覚がないから気をつけて。」と、医者の言葉が。
 「そんなこと言っても、手術なんてしてないし、俺の足だぞ!」と、わたし。

 しかし、
 ベッドから垂らした足が、床に触れても、まったく感覚がない。
 「あれっ、私の足、どうしちゃったの? どこにいっちゃったの?」の感じなのだ。

 やはり、1か月間歩いていないと、股やヒザが全然利かない。
 大げさではなくて、2~3日は自分の足だという感覚が、ほとんどなかった。


□ 第7章 ギブス外し後編

 2か月目に、ギブスを外した。
 第6章(ギブス外し前編)で懲りていたので、無茶はしない。
 足がバカになっているはずなので、ゆっくり足を動かす。

 左足をつくときが、一番怖い!
 手術してアキレス腱をくっつけたのではなくて、自然にアキレス腱がくっ付くのを待っただけなのだ。
 でも、10月には、子供の運動会に参加して、そこそこ走れるほどになった。


□ 第8章 あれこれ

○手術をしないことについて。
・ 入院の必要がない。
・ 安い。
・ 手術痕が残らない。(触ってみても、ちょっと盛り上がっているだけ)
と、よいことばかりだ。

○松葉杖生活について。
・ 洋式なら、トイレの問題がない。
・ ギブスをした足は、湯船に浸けることができないが、我慢する。仕方がない。
・ 1日目は動くのに慣れないから、とにかく悲惨。 しかし、2~3日で、そこそこ動き回ることが出来る。
・ カバンが持てないので、物入れはリュックサックやディパックが便利。
・ 階段の上りは、あまり心配がない。でも、下りが怖い。
・ 傘をさすのは無理なので、雨に対してカッパを持ち歩く必要がある。
・ 歩道にある、黄色い案内板(盲人用)や、道路に引かれている横断歩道の白線は、雨で濡れると怖い。 突然滑る。
 治療から数十年経過したが、全く問題なし。
 先生ありがとう、、、、