おてがみ、出しました。  | “Mind Resolve” ~ この国の人間の心が どこまでも晴れわたる空のように澄みきる日は もう訪れないのだろうか‥
 
 
  前略 
  このたびは、ぶしつけながら妻を通しての突然のお電話で
  たいへん失礼いたしました。
  身近な佐渡にも独自の能楽が受け継がれていながら
  能も狂言も歌舞伎も、その区別すら判らないほど
  日本の伝統芸能に触れたことがないに等しい自分ですが
  先にお伝えした山田さんという方の件。
  なぜ、お逢いしていただきたく思ったのか
  正直な気持ちをお伝えしたく
  こうして手紙にすることに致しました。
 
  まず、山田邦喜さんという方は現在、毎日のように
  昼は、とある高速道路高架下で
  ひたすらにカホンという木の箱(楽器)を
  素手で叩く演奏をつづけ、時には独り浜辺で
  時には目の前に立ち止まる老犬が耳を澄ます公園で
  自己の精神性、音楽家としての道を究めるべく
  自然との調和、同化を追求しておられる方です。
  夜は毎日かかさずお経を読んでから寝て
  唯一の趣味は「クルマを洗う」という、
  そこにも禅のような精神で愛する者に「捧げる」という
  気持ちを大切にする姿勢、生き方。
  日頃、演奏家としてライヴ活動もされておりますが
  一流ミュージシャンとしての実績や
  世界的に有名な数々の方との共演ほか
  そうしたものの一切を捨てて、世俗にとらわれず
  今日一日を命がけで生きているという非常に真面目な方です。
  自分より年上ですが、出逢いのきっかけは
  十代の頃から兼ねてよりのファンである伊丹哲也さん(50歳)
  という歌手の揺るぎない音楽活動を通して
  この三年あまり様々なことを両者の音楽人生から
  学ばせていただいております。
    
  その山田邦喜さんが先日、6月24日、国立能楽堂にて
  生まれてはじめて能楽を観られ、その客席での体感により
  素晴らしい感銘を受けたことを知り
  自分としては単純に岡庭先生の顔と名前が想い浮かび
  先の様に失礼なお電話に至ってしまった次第であります。
    
  東京を去る前、
  まだ一度しかお逢いしたことありませんでしたが
  自分が出版した本を手にとられた岡庭先生の言葉に
  「この文字の並び方が気に入りました!」
  というご感想をいただきました。
  私事になりますが、
  あの変な詩集は創作した側からすると、その一頁一頁を
  絵画のように、己の半生を凝縮したものであり
  「読んでもらう」というそれ以前に
  名もなき美術館の中を歩くように
  「手にして捲ってもらうだけでいい」
  という想いで一冊の形にしたものであります。それが、
  あの一言により見事に見破られたという鋭さを感じ、
  そこに、その対象がどんな者であろうと
  形あるモノとして存在するものの
  本質を見抜いてしまう心の目。
  指導者としての在り方がしっかりとされた方であると
  今も信じております。
  そしてそういった方にこそ、
  今現在の山田さんに逢っていただきたい。
  と、誠に勝手ながら、そのように想い描いた次第であります。
    
    
  できることなら、いつの日か
  日本の伝統芸能を極められた方との共演を試みたいという
  ご要望もおありになることは確かなようですが
  今すぐにでも何かそうしたいというわけでもなく、
  自分としても
  岡庭先生と山田さんのどちらにも、そのお立場やお仕事に
  なんら利害関係その他の煩わしさを意図したものではありません。
  間に入り、不明瞭な点が幾つかあり
  たいへん失礼なご紹介のかたちになってしまいましたが
  誠に申しわけありません。
    
  ですが、ぜひ一度、お時間いただき
  山田邦喜さんという人物にお逢いしていただけることを
  切に願い、今日ここに一枚のCDを同封いたします。 
                                   草々 
 
  平成20年6月吉日  みなみ まさあき 
 
 
 
 
 
 
 
     
bless2007july  bless2007sleeve