黄昏の芸能ブローカー / action 010  | “Mind Resolve” ~ この国の人間の心が どこまでも晴れわたる空のように澄みきる日は もう訪れないのだろうか‥

 
 

         action 010 
 
 

世の中には色々な職業があって、
日本の映像業界のスタッフ側(?)の一人、
自分の好きなことを堂々とやって
とても楽しく仕事をしている人もいた! 
・・・・・ということを発見した瞬間がある。
俺も初めて逢った時はちょっとビックリした。
「世の中にはこんな人もいるんだ」
視野が拡がった。
ここではその人のことを仮に
“芸能ブローカー”
と呼ぶことにしよう。
本人も、
「オレは芸能ブローカーだ」
と云っている。
云っているだけでなく、
やっていることも芸能ブローカーそのものだ。
 
日本の映像業界に於ける、
イイこともワルイことも色々と知っている芸能ブローカーだが、
そんな彼を決して憎めない部分も少なくはない。
 
「・・・なんか・・・いいんですか?」
「何が?」
「だってあのオジサンたち、まだ楽しそうに呑んでたのに、
急に追い払うようなことしたみたいで・・・」
「なに云ってるんだよ、お前? 
そんなの構うこたね。気にすんな気にすんな・・・」
すると、まだ何も注文もしていないうちから、
ビールの大瓶が三本、ドンッとテーブルに置かれ、
「ハイ、これはサービスの分」
と、化粧の上手な女将が云った。
そして2分、3分と経たないうちに、
次々にツマミや肴が運ばれてくる。
店の中は我々三人が来る前から混雑したまま、
様子は変わっていない。
むしろ、従業員はみんな忙しく、
見れば、そこにいた人数では手も足りないほどの店の繁盛。
一体、何が起こったのか?
 

すると、もう一人の連れの男と世間話を落ち着かせたのか、
芸能ブローカーは云った。
「・・・南ぃ、この店はな、
まだ開店した当初は、ぜんぜん客が入らなくてなぁ。
オレが最初にきた時なんて、だっあれも、いなかった。ただ、
ダダぴろいだけの店でなぁ。
それをオレが毎晩のように、
製作から何から、役者でもなんでも毎晩のように連れてきて。
それこそ、自分がいた関係とは違う現場の連中も、
打ち上げだか何だかがあるって聞けば、
『ココにしろっ! いいから来い』って声かけて、
もう毎晩のように客をココへ来させてなぁ。
それっからは、どんどん、どんどん、普通に客が入って来るようになってなぁ。
そしたらママが、
オレの顔を見るたんびに、泣いて泣いて喜んで、もう、
『アンダーツリーさん有り難うぉ!』
って、
オレの手を握って泣くんだよ、
あのママが・・・。」
「はあ・・・」
「だから、そういう店だから遠慮すんなよ。
喰いてぇモンあったら自分で注文して喰え、な。」
「あ、はい・・・(なるほど、そういうことだったのか…)
「それでなぁ、南ぃ」
「はい?」
「もしお前が自分の仕事か付き合いの中で、
何かあって近く通った時はな、
ココへ来てオレの名前云っていいから、
そうすればスグにママも判るから。
二人でも三人でもいいから。
まぁ、そん時は使ってやってくれ。なぁ。」
「はい」
と、それは、九州男児として生まれ、
これまで東京で生きた自分自身が、年齢も60を超え、
周りにいた連中も次々と先に立ち去って逝く中で、
相変わらず酒は好きでも、自分の体を気遣って呑むようになってしまった今、
たとえ”そんなこと”であったとしても、
「次の世代に何かを残しておきたい」
というような、
そんな意味合いを含んだ言葉のように・・・俺にはそう聞こえた。
と、そんなことを考えながら手元の酒を注いでもらっていると、
「こちらへどうぞ」
女将が、店の中央にある座敷に、三人の席を改めて用意していた。
 
 

                                つづく。