がやがやがや……

街中を歩く人々。彼らまたは彼女らは普段通りの生活をしていた。
仕事、趣味、休息。それぞれが自身の意思で動いている。



「ふふっ……ついに完成したわ。」

卑しい笑みを浮かべる少女。
黒いゴシックパンクの衣装に身を包み、全てを見下ろすかのような瞳をしている。

「これで、みんな私に跪くの。」

手にはどこにでもありそうな白いマスク。
少し違うといえば口に当てる部分が厚く、中に機械のようなものがある。
そして、耳にかける部分にコードが延びておりスイッチのようなものがついている。
彼女はそのマスクをつけて、部屋を出て行った。




「うーん、春香のやつ遅いな。」

春香の担当プロデューサーが時間になっても現れない春香を心配している。
今日はラジオの生放送だ。早めの待ち合わせにしてはいるが、心配である。

「ごめんなさい。プロデューサー。」
「遅かったじゃないか。ん、マスクなんかつけて喉でも痛めたのか?!」

到着した春香がマスクをつけていることは一目瞭然。
ラジオは声の仕事であるから、支障があるのではと心配した矢先のことだった。

「プロデューサー。私に跪きなさい……」

春香が発した突然の言葉。
しかし、無意識のうちにプロデューサーは跪いていた。

「そう、それでいいの。私のことは閣下と呼びなさい。」
「はい……閣下。」
「ふふっ……さあ、スタジオに行くわよ。」

春香の言葉に何かしらの力が宿っている。
命令に逆らえない、プロデューサーは自分がどうしてしまったのか。
考えることは出来ても自分の意思で行動することが出来なくなってしまった。
しかし、その考えも徐々に薄れていき最後には自我すら消えていた。



「本日のゲストは、765プロダクションで活躍中のアイドル天海春香ちゃんです。」
「皆さんこんにちは。天海春香です。」

普段通りに進んでいる。そう見えるがすでに春香の手中に収められているスタッフたち。
春香の計画は順調に進んでいた。
そして、今このラジオを聴いている全ての人間が春香を崇める瞬間が来る。

「このラジオを聴いてるみんな。私のことを閣下と呼びなさい。」
「リスナーの皆さんも、閣下のありがたいお言葉を聴きましょう。」
「世界を平和にするには、私のような人間がふさわしい。」

ラジオを通して、春香を崇める愚民が増加していく。
愚民たちは決して逆らうことが出来ない。
いや、そもそも逆らおうとしない。
そう、それが天海春香を崇拝する『愚民』であるということだから……