それは突如として数時間前に起こった。
アイドルとしてではなく、本気で戦い合ったらどうなるか。
彼女はただの冗談だと思っていた。しかし、現実は違った。

タッタッタッ……

一人の少女が走る。ただひたすら、何かから逃げるように。
この少女は765プロダクションのアイドル菊地真。
プロデューサーから告げられた765プロ所属アイドル勢揃いのイベントがある。
ドッキリイベントなのか、彼女たちは目隠しを装着してバスへと乗り込む。
見えはしないが、バスの中ではどんなイベントか楽しみという話題で盛り上がった。
彼女もその一人だった。きっとみんなで楽しめるイベントだと、そう信じていた。

イベント会場に着いたとき、皆それぞれ不安を覚えた。
プロデューサーの声と前の人の肩に手を乗せて歩く。
見えないことが彼女たちの恐怖心を煽った。
それと共に、いつも聞きなれたプロデューサーの声に少し安心もしていた。
どこか涼しく、そして少しじめじめとした場所。
目隠しを外したその場所はどこかの廃墟であった。
一人一人が別々の部屋へと案内され、待機するよう指示を出された。
少し経って、部屋の中にアナウンスが流れる。

-目隠しを外して、部屋の中の手紙を読んでくれ-

いつも聞いているプロデューサーの声だ。
言われたとおり、部屋の机の上にあった手紙を読む。
書かれていたことは、ただ一言。

『君たちに生き残りをかけたサバイバルをしてもらう。』

そして、次のアナウンスが聞こえてくる。
それはとても魅力的であり、残酷でもあった。

-最後まで残った人間の願いを何でも叶えよう-

何を言っているかわからなかった。彼女はただ混乱する。
みんなで楽しむイベントじゃなかったのか。
どうしてこんなことが始まるのか。

-さあ、ゲーム開始。最後まで生き残るのは誰かな?-

そんな馬鹿げたことがあるだろうか。
いきなり廃墟に連れてきて、生き残りを賭けて戦え。
みんな本気にしないだろう。彼女はそんなことを考えていた。

部屋を出てしばらくぶらぶらと歩いていると、前方に荻原雪歩が見える。
内気でいまいち自分に自信の持てない女の子。
普段、よく話している仲のいい友達だ。

「やあ、雪歩。」
「あ、真ちゃん。」
「まさか雪歩はプロデューサーの言ったこと信じてないよね?」

いつも通りに話しかけた。そのとき彼女の目には雪歩があるものを持っていることに気づく。
電灯の光が鈍く反射している。そう、ナイフだ。

「ごめんね。真ちゃん。私……ごめんね!」

謝りながら雪歩がナイフを突き立ててくる。
いきなりの出来事に思わず避けて雪歩を突き倒した。

「きゃっ」
「どうして……どうしてだよ、雪歩!」
「私、見ちゃったの。あずささんが……あずささんが、律子さんに刺されたところを!」
「だからって何で雪歩まで!」
「私だって嫌だよ!でも、そんなこと言ってたら殺されちゃう!」

雪歩が立ち上がる。手にはナイフを手にしたまま。
わからなかった。何が雪歩をこうまでしたのか。
真は悲しみと絶望の中逃げ出す。
誰かが、きっと誰かが自分と同じく争わないで生き残ることを考える人を求めて……