病院暮らしのご主人は、老衰で余命半年と言われました。
ほとんど意識も薄れている中で、ご主人が
「家に帰りたい」
とつぶやいたのを聞いた奥さんは、
先生に自宅介護を申し出ました。
「大変ですよ。大丈夫ですか?」
先生は全く体が動かせないご主人の容体を考え
心配しましたが、奥さんの強い希望で帰宅を許可しました。
頻繁にチアノーゼになり、
緊急入院もたびたびでした。
それでも奥さんの献身的な介護のもと、
ご主人は命をつなぎ、
寿命を迎えたのはなんと8年後でした。
「奥さん、えらいですね。」
「介護大変だったでしょう。
よく頑張られましたね。」
だれもがそう声をかけます。
けれど、奥さんは首を横に振ります。
「とんでもない、誰だって同じ状況なら
同じことをしますよ。
それに私は、お父さんに
いっぱい愛を教えてもらったのよ。」
といいます。
「私は動けるし、話せるし、
たいして不自由ないけど、
お父ちゃんは、動けないし、
食べれないし、何もしゃべれないの。
本当に大変なのは、お父ちゃんなのに、
本当にかわいそうなのは、お父ちゃんなのに、
みんなが私のことを
「大変ね」
「頑張ってるね」
と、励ましてくれる。
みんな、お父ちゃんのおかげなの。」
「子どもや孫が遊びに来るでしょ。
その時も子どもたちはまずお父ちゃんに挨拶して、
いろいろ報告するの。
意識はないよ。
返事ないよ。
でも、孫もちゃんとお話しするの。
わたしはうれしくてね。
お父ちゃんは、寝たきりで、
だまって聞いているだけだけど、
そうやって私たち家族を結び付けてくれてたの。」
「だからね、私はお父ちゃんにいっぱい愛をもらったのよ。
幸せだったの。」
これは、介護関係の仕事をする親友が
教えてくれた話です。
こんなに感動に出会える仕事が出来てうれしいと
涙ながらに語ってくれました。


