あの頃、自分がまだ本当に幼い頃。
その頃の母親の顔をあたしは覚えていない。
薄暗い台所で、中島みゆきをラジカセでかけながらくわえタバコでキッチンに向かう母親。
それだけが母の姿の記憶。
母親の手だけ、なら。
他にも記憶してる。
何がきっかけかは分からない。
姉たちかあたしか、どうにも言うことを聞かなかったのかなんなのか。
記憶の中、母親と向かい合う形で正座させられるあたしと姉2人。
母親は何か延々と喋る。
ヒステリックな感じで。
何を言っているのかは分からないけど。
そのうち、母親は手に何かを持って、大きく動かす。
直後、あたしの太もものすぐ脇に、母親が投げたらしい包丁が、鈍い音と共に刺さる。
あたしは息の仕方が分からなくなり、パクパクと口を動かす。
それで記憶は終わる。
その後どうなったのか、何があったのかはよく分からない。
また別の記憶。
母親は黒い大きな空のゴミ袋を、あたしや姉に押し付けるように渡す。
そして言う。
「これに、着替えと大事なものをつめておいで。
それから、ディズニーランドに行こう。
一日いっぱい遊んで、そのあと、青酸カリ飲んで死のう。
すぐ死ねるから。
長く苦しまないから」
いいながら、茶色っぽいいかにも薬品の瓶らしいものをあたしたちに見せた。
次女である姉が、母親の手をつかんで
「母ちゃん、いやだよ。
母ちゃんと一緒にずっと生きる」
そんなことを言いながら泣き叫ぶ。
これだけがあたしの母親の記憶。
どの母親も、顔だけ黒塗りになっているように記憶している。
親父も、一緒に暮らしていた…はず。
だけどあたしは。
母親と親父が並んでいるのを見たことがない。
そして、この頃の親父を、声だけしか記憶していない。
その話はまたいつか。
あたしの記憶にも、母親のぬくもりが欲しかった。
愛しくてたまらない、自分を愛してくれた母親の記憶が…。
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