② 日本発の太陽電池ペロブスカイト、年内にも実用化 | にゃんころりんのらくがき

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【クローズアップ科学】
日本発の太陽電池ペロブスカイト、年内にも実用化 柔軟で透明、窓や衣類に用途広げる

 

柔軟に曲がり透明化も可能なペロブスカイト太陽電池(宮坂力・桐蔭横浜大特任教授提供)

柔軟に曲がり透明化も可能なペロブスカイト太陽電池(宮坂力・桐蔭横浜大特任教授提供)

次世代の太陽光発電

次世代の太陽光発電

 

 日本発の次世代太陽電池が注目を集めている。フィルム状で柔軟に曲げることができ、低コストで透明化も可能だ。光エネルギーの変換効率は現在主流のシリコン系に迫る水準に向上。年内にも実用化が始まる見通しで、太陽電池の用途を大きく広げそうだ。(伊藤壽一郎)

 

◆特殊な結晶構造

 太陽光から電気を作り出す太陽電池は現在、半導体の基板材料にシリコン(ケイ素)を使うタイプが主流だ。これに対して次世代型の本命といわれるのが「ペロブスカイト」と呼ばれる特殊な結晶構造の材料を使うタイプだ。

 

 鉛を中心に有機化合物、ヨウ素、臭素などが規則的に並ぶ構造で、光を吸収しやすい。太陽光を浴びると電気的にマイナスの電子とプラスの「正孔」が生じ、光エネルギーが電気エネルギーに変換される。この原理を桐蔭横浜大の宮坂力(つとむ)特任教授が2005年に発見し、太陽電池に利用する可能性に道を開いた。

 

 宮坂氏は翌年、ペロブスカイト構造を持つフィルム状の物質を2種類の材料でサンドイッチ状に挟み、電子と正孔を逆方向に分離して動かすことで電流が生じる太陽電池を世界で初めて学会で報告し、09年に論文を発表した。

 

 太陽電池の基本性能である光エネルギーの変換効率は当初、わずか2・2%で、シリコン系の26%台に遠く及ばなかった。だが、元素構成の改良などで急速に向上し、昨年12月には韓国の研究チームがシリコン系に肉薄する22・7%を達成した。

 

 ありふれた元素を使うため原料費は安い。製造が簡単なのも利点で、ペロブスカイト物質を含む溶液をガラスやプラスチックの基板にペンキのように塗って乾かすだけで「中学校の理科室でも作れる」(宮坂氏)。真空ポンプなどの大規模な製造装置が必要なシリコン系に比べ、製造コストは半分以下という。

 

◆歩きながら発電

 最大の特徴は薄く柔軟なことだ。シリコン系は固く割れやすいため、最低でも0・1ミリ程度の厚さを持たせる必要がある。ペロブスカイト物質は重い鉛を含むため比重は2倍だが、100分の1以下の厚さで軽く作れる。

 

 太陽電池の軽量化は設置場所や用途を大きく広げそうだ。シリコン系は重さに耐える平らな場所にしか設置できないが、フィルムのように薄く軽ければ、それほど強度のない壁面や、曲面に取り付けることもできる。

 

 ペロブスカイト物質は赤褐色だが、薄くすれば透明化も可能だ。東京大の研究チームは昨年、半透明の太陽電池を開発。住宅やビルの窓ガラス、自動車のスモークガラスや天井から光を取り込むサンルーフなどへの応用を想定している。

 

 理化学研究所は衣類に張り付けることができ、洗濯しても変換効率が大幅に低下しない超薄型の太陽電池の開発を検討している。

 これらが実用化すれば、自動車のバッテリーや家庭用電力の補助に役立つ。衣類やかばんに張って外出しながら発電し、携帯電話などのモバイル機器の充電もできそうだ。

 

◆論文は5000回以上引用

 ペロブスカイト太陽電池は当初、ほとんど注目されなかった。変換効率があまりに低かったからだ。だが12年に10・9%を達成してからは開発競争が一気に激化。宮坂氏の09年の論文は、これまでに世界で5千回以上も引用されている。

 

 開発初期は耐久性も数カ月にとどまり、20年以上に及ぶシリコン系と比べ大幅に短いことが大きな欠点だった。しかし、有機化合物の変更などの改良が続いた結果、最近は10年以上に向上したことが実験で確認されている。

 

 残る大きな課題は、劣化した際に有害な鉛が漏れ出し、環境を汚染する懸念だ。このため無害な代替物質の研究が活発化している。理研は昨年、世界最高水準のスーパーコンピューター「京(けい)」によるシミュレーションで、有害物質を含まないペロブスカイト構造の候補物質を一挙に51個も発見した。

 

 宮坂氏は「量産ラインの整備を急いでいる企業もあり、年内にも実用化が始まるだろう。今後はシリコン系を駆逐するのではなく、用途や環境に応じた使い分けや組み合わせで共存していくだろう」と話している。

 

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家庭用蓄電池の開発に拍車、市場規模は2020年に5倍へ

電力小売りと組み合わせたプランが好評の「Looopでんち」

 

家庭で手軽に電気を蓄える家庭用蓄電池の開発・発売が熱気を帯びつつある。2019年から順次、電力の余剰買い取りが終了する住宅が増えていくことが背景にあり、市場は向こう5年間で5倍になるとの調査報告もある。電力小売も行うLooop(東京・文京)は90万円を切る蓄電池を今年7月から本格発売。東芝ライテック(神奈川・横須賀)も太陽光発電と直流のまま連携できる家庭用蓄電池を7月から、オムロンは大容量で急速充放電ができる小型蓄電池を10月に発売予定だ。さらに米テスラも日本で新型の家庭用小型蓄電池の予約販売を始め、注目を集めている。(箕輪 弥生)

◆電気は「売る」から「貯めて使う」へ? 

住宅の太陽光発電システムをめぐる環境はめまぐるしく変化しつつある。再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)が今年4月に改正され、太陽光発電による売電価格の減額が進む一方で、パネルや設置費用も価格ダウンし、発電コストが系統からの電力料金と同等、もしくはそれ以下になる「グリッドパリティ」に達したという見方もある。

さらに2019年には、太陽光発電による余剰電力の買取期間が終了する住宅が50万軒前後にのぼると見られ、その後も毎年10万軒単位の世帯がFIT切れを迎える。そのため、これらの世帯では電気を「売る」から「貯めて使う」に関心が移るのではと考えられている。その需要を取り込むと考えられているのが家庭用の蓄電池だ。

シード・プランニング(東京・文京)は、国内の蓄電システムの市場動向に関する調査を今年4月に発表した。それによると住宅用蓄電池の市場規模が2020 年度には約1,700 億円に、販売台数は約5倍に膨らむと分析する。中でも戸建て住宅用蓄電システムが市場成長を牽引すると予測している。

その市場拡大には、前述の「2019年問題」に加え、エネルギー消費量の収支がゼロとなるZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)を国が後押ししていることや、蓄電システムの価格低下などの要因をあげる。

相次ぐ家庭用蓄電池の新製品導入

オムロンの「住・産共用フレキシブル蓄電システム」は9.8kwhタイプをシリーズ追加

 

拡大する需要をとらえようと、家庭用蓄電池メーカーも相次いで新商品を投入している。

東芝ライテックは、家庭用蓄電システム「eneGoon(エネグーン)」の新製品として、太陽光発電と直流連携できる複合型パワーコンディショナを採用した「ハイブリッドタイプ屋外モデル5.0kWh」など2タイプを7月から発売した。

パナソニック株式会社 エコソリューションズ社は、10月から住宅用の「創蓄連携システム」の新製品「パワーコンディショナR蓄電池取付可能タイプ」を導入する。

オムロンも同様に10月から小規模産業施設や戸建住宅に向けに9.8kWhの大容量で急速充放電ができるタイプを追加した。どちらも、既に太陽光発電システムを導入されている住宅などにも後付で設置ができることを特徴とする。オムロン環境事業本部 鈴木純子広報担当は、「2019年以降に拡大が想定される余剰買取制度の買取期間終了後の自家消費ニーズに対応した」と説明する。

◆電力小売りや AI と連動した蓄電池も 

太陽光発電システム事業や電力小売事業を手がけるLooopは、電池容量を4.0 kWhに抑えて90万円を切る「Looopでんち」を7月から本格販売している。200万円前後と高単価な蓄電池が多い中で、同社は1000軒を超える太陽光発電を設置する家庭の消費量などの実態を分析し、4.0 kWhを最適値としてコストダウンをはかった。

さらに事前に天候を予測し、各世帯の電力需要、太陽光パネルでの発電量などを学習させるAI(人工知能)を活用することで、売買電を最適化し全自動で運転を行う。たとえば、翌日が雨予報の場合は、事前に夜間など電力が安い時間帯に多めに蓄電するなど、AIを搭載したサーバーからの遠隔操作により、リアルタイムで効率的な充放電を行う。

蓄電池に関心を持つ層は、「売電期間が終了した10年後からをどうするかを心配する個人層とZEHを推進するハウスメーカーや工務店の2つの層が目立つ」と同社蓄電池事業部 堤教晃部長は分析する。

同社は蓄電池の販売に加え今年9月から蓄電池や太陽光発電装置と共に同社の電力小売メニュー「Looopでんき」を導入することで電力価格を割り引くプログラムを始めた。太陽光発電を設置する家庭が同社の提供する電力を契約し、同社の蓄電池を利用すると電気料金が最大で34%安くなる。「電気代を安くできるのも、AIを導入し仕入れ値を抑えられるから」と堤部長は説明する。

同社では約6万件以上の電力小売を扱うが、「割引プログラムには1週間で200件以上の問い合わせがあり予想以上の反応だ」(堤部長)という。

◆パナと共同で世界最大の電池生産工場を建設するテスラ

予約が多く、納品開始時期は未定のテスラ「パワーウォール2」@Tesla

 

価格を抑えた家庭用蓄電池では、米国テスラが販売する家庭用蓄電池「パワーウォール」も関心を集める。同社は2015年から家庭用蓄電池を販売し始め、現在2代目となる「パワーウォール2」の予約販売を始めている。売電を行う機能はないものの、13.5kwhで61.7万という価格は注目に値する。電気自動車を製造販売する同社はパナソニックと共同で、米国ネバダ州にリチウムイオン電池の生産工場「ギガファクトリー」を建設し、今年1月から稼働を始めた。完成時は敷地面積約60万平方メートルという世界最大の工場となると見られ、大量生産による更なる価格低下を目指している。

 

箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・マーケティングプランナー・NPO法人『そらべあ基金』理事。 
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に『エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123』『環境生活のススメ』(飛鳥新社)『LOHASで行こう!』(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。