その騎士は、樹齢千年と言われている大きなヒノキの前にいつも立っています。
人一倍大きかったその騎士は、人一倍大きな鎧をまとい、人一倍大きな剣を振り回し、人一倍の強さを発揮していました。
その騎士のあまりの強さは、味方ですら恐怖に陥れたため、王は『国宝であるあのヒノキを守れ』と、その騎士にたった一人の任務を与えました。
それでもその騎士は、数十頭の狼の群れに襲われた時も、百人の敵軍が攻めてきた時も、大した傷を負うこともなく完璧にヒノキを守るのでした。
それは国にとってはまことに幸いなことなのですが、人々はやはり、そのあまりの強さを恐れるばかりです。
やがて、敵軍も狼も、味方であるはずの人々ですらも、その騎士に近付かなくなりました。
何年も何年も、その騎士はあの大きなヒノキの前に立ち尽くし、鋭い眼光を放っています。
その国の人々も、やはりその騎士とは関わろうとせず、その騎士がヒノキの前に立っていない時の様子を知る人は、誰もいませんでした。
冬、毎年子供たちを喜ばせる結晶が、今年もこの国に降りそそいでいます。
雪だるまにソリ滑りと、子供たちが遊びに精を尽くしている時、ロウソク屋のビアンカが目を向けているのは、その騎士でした。
雪が降っていようと、いつもと様子の変わらないその騎士は、やはり迫力があります。
それでもビアンカはその騎士のことが気になり、そして、歩き始めました。
その騎士も、少しずつ近付いてくるその存在に気が付き、そして、緊張が走ります。
あのヒノキに手を掛けるものは、子供であろうと容赦するつもりはありません。
ビアンカは、一歩、一歩、小さな足で、その大きな騎士に近づいて行きます。
そして、その騎士の剣が届いてしまう距離までビアンカはやってきました。
目が合う小さな女の子と、大きな大きなその騎士。
雪が降る音すら聞こえてきそうなほどの、沈黙がしばし続きました。
そして
「寒いでしょ?これあげる」
ビアンカは小さなポケットから、これまた小さくて不恰好なロウソクを差し出しました。
「初めて作ったの。だからいつもお仕事頑張ってる兵隊さんにあげる」
ビアンカの言葉にその騎士は、今までにない緊張を感じました。
返す言葉に戸惑い、またしても沈黙が走りますが、雪の降る音は聞こえてきそうにありません。
すると
「ここに置いておくね。じゃあお仕事頑張ってね」
ビアンカはロウソクをその騎士の足元に置き、そのまま走って帰って行きました。
その騎士は、足元に置かれたそのロウソクを眺めます。
すると、その騎士は唐突によろめき片膝を突きました。
その騎士は、本当は自分が二本足で立つことすら困難なほど弱かったということに気付いたのです。
その騎士は、ロウソクを手に取ります。
もちろん、こんな小さなロウソクでは、その騎士の大きな身体を暖めることはできないでしょうが。
