方向舵と油圧喪失後の操縦性


B747-SR100はクラシックジャンボと呼ばれ、その操縦系統は機械式操縦装置である。

動翼を駆動するアクチュエーター内のロッドは操縦索が作動させるリンケージで直接押し引きされて舵面のリンクを駆動させるシステムである。パワーコントロールは別個のシリンダーで油圧の調整を受けてからアクチュエーター内に出入りすることでパワーを補助する可逆的ブース方式を取っている。またオートクルーズはコンピュータにより別タンク内で油圧を精密に調整してアクチュエーターロッドの作動を制御するシステムである。(下図)

よってアクチュエーター内の作動油圧をロスしても、油膜切れ等によるハイドロリック.ロックでも起こさない限りロッドの可動性は失われない。操縦桿がフローティング状態になって完全に操舵不能になったわけではないのである。


報告書 P.117にも「操縦索には隔壁の破壊等による拘束があったとみられ、かなり大きな操舵力を必要とした」との記載があり操縦索の存在と操舵の可能性を示唆している。

かなり大きな力を要し操舵角は制限されたものの限定的に操舵可能であったと解釈できる。


報告書にはまた「早い時期から油圧低下によって昇降舵がフローティング状態にあり」とも書かれてあるが前述に矛盾することになり一貫性がない。さらに昇降舵が効いていなければDFDR上説明不能の箇所がいくつもある。特に墜落直前の急降下から+3G垂直旋回による機首の引き起こしを5〜6秒間続けられたのは昇降舵が有効に効いたからに他ならない。ほぼ真っ逆さまの急降下中にスラストレバーをMAXにしても機首は上がらず降下速度を速めるだけである。


主翼のエルロン(補助翼)については、離陸後にフラップを収納すると以降は翼端に近いアウトボードエルロンは作動せず胴体に近いインボードエルロンのみが作動する。翼面積が小さくなりまた操縦輪操作角とのステップ比から、昇降舵ほどの極端な操舵力にはならないと考えられる。(下図)


次に、報告書には「エンジン推力制御によるピッチコントロールを試みたものの機体を安定させることは困難であった」とある。前半のDFDRを分析すると、機首上がりの姿勢で水平線や地平線が見辛い状況下では長周期モードのフゴイトから抜け出せずになかなか降下させられなかった形跡がみられた。機を上昇また降下させるにはPitch姿勢(機軸の水平線に対する鉛直方向の姿勢)Powerを変化させる操作を要する

降下するならばAOA:迎え角を減少させてエンジン出力を絞ればよいことになる。これも徐々に克服している。


また「左右エンジン推力の差を用いて方位角を変えることは可能であるが、それが試みられた明らかな証拠は見当たらない」とあるがそんなことはない。DFDR上、終始左片揺れを左第1.2エンジンの出力を上げて抑制し、それによって生じた右へのロールは操縦輪を左に切ることで均衡を保とうとした。また旋回時には明らかに相対的な左右のエンジン推力差を利用して機首方位をコントロールした形跡があった。


なにより、操縦輪は左に切った状態で機首が直進であった為、左右のインボードエルロンの舵面角度差が不均等な飛行となったのは難儀であったこのためローリングの抑制は難しく、左右に修正を試みながら最終的には上反角効果と減衰モーメントで徐々に収まるのを待った形跡がある。


以上から、ピッチングとヨーイングに対しては比較的早期に対応できたが、ローリングの抑制には困難を極めたと思われる

そして方向舵と油圧を喪失した後の操縦性は極めて悪化したが、ある程度の操縦性を確保していたものと推測される




(下)報告書 P.117