JAL123垂直尾翼損壊に関連するマッハ衝撃波準放射状伝播の理論的再構成


概要

1985年8月12日18:24′35″.  JAL123便(JA8119)は伊豆沖の相模湾上空約7300 mで異常事態に見舞われ垂直尾翼の2/3およびAPUを含む機体尾部を喪失した。ほぼ同時刻に伊豆.河津町・三浦半島.城ヶ島で衝撃波音が. また伊豆天城山系.箒木山地震観測所で微気圧振動波が観測された。

本研究ではこれらの現象を. 超音速機とのニアミスによるマッハ衝撃波形成により生じた事象として理論的に解析した。垂直尾翼(方向舵接続部の間隙内部. 推定3㎥)に作用した過剰な圧力120.7 kPa(全負荷160.0kPa)を基に. 放射効率: η ≒ 0.5 % のコンパクト単極音源モデルを適用し. 河津町(距離約14 km)で75 dB. 三浦半島.城ヶ島(約55 km)で62 dBの音圧レベルを再現した。さらに箒木山地震観測所(距離約12km)で検出された12〜16 Hzの低周波成分は. N波型衝撃波のパルス幅 τ = 30〜40 ms に由来することを示した。

本結果は. JAL123便の垂直尾翼損壊と各地で観測された音響現象を統一的に説明する考察である

・距離は何れも異常事態発生地点からの距離とした。

・河津町で録音されたボーンという音の音圧レベルは検証の記録28で算出した75dBを採用した。これが唯一独自の検証記録から設定した数値である。

 

第1章-理論モデルと前提条件


1.1  マッハ衝撃波の形成

超音速機が. 一例としてマッハ数1.25で飛行した場合に形成される マッハ角: β 54°の斜め衝撃波(衝撃波円錐)が垂直尾翼の方向舵接続部で反射すると. 其れらは融合してほぼ垂直なマッハ衝撃波(マッハ角:β90°)が形成される。有効垂直マッハ数1.25による過剰な圧力比は.

P₂/P₁ = [2γMₙ² – (γ – 1)] / (γ + 1)

≒1.656となる。

P₁(大気圧)=39.3kPaを代入するとP₂/P₁ = [2γMₙ² – (γ – 1)] / (γ + 1)から. P₂ ≒ 65kPa

すなわちΔPs ≒ 65kPaとなり. マッハ幹の集束交換(2.5〜3.0倍)により増幅され.接続部内部の圧力は少なめに見積もっても ΔPs≒65kPa×2.5  160kPa(全負荷)となる。これから大気圧の39.3kPaを除してΔPs≒120kPa(過剰な差圧)を超える荷重が作用したものと考えられる。検証の記録 続10参照


1.2  適用する数値計算式

E _rad = η (Δpₛ² V) / (2 ρₛ cₛ²);  P_pk(r) = √[E_rad ρ c / (4π r² τ)];   L = 20 log₁₀ (P_pk / (√3 × 20 µPa))


「 V = 3 m³, ρₛ = 0.59 kg/m³, cₛ = 316 m/s, ρ = 1.18 kg/m³, c = 346 m/s 」


1.3  音響構造

・衝撃波のN波 (三角波に近似するものとして) |P(f)| ≒ sinc(π f τ). 

・支配的周波数 f ≒ 0.5 / τ.  

・受音パルス幅 τ = 30〜40 ms

0.5/0.03s≒16.7  0.5/0.04s≒12.5

✴︎よって結果. 周波数 f ≒ 12〜16 Hzとなり. 

⚫︎これは箒木山地震観測所の微気圧振動波の波形に一致した。



第2章 – 数値計算結果


パラメーターの設定

 Δpₛ  120kPa,

V(方向舵接続部のスペース)  3 m³,

受音パルス幅: τ  30/35/40 ms, 

放射率: η  0.4〜0.6 %, 

吸収率: α  0〜0.02 dB/km


✴︎推定される音圧レベル: dB

河津町(14km): 75 dB (α=0.02 → 74)

城ヶ島(55km): 62 dB (α=0.02 → 60)

箒木山(12km): 76〜78 (α=0.02 → 75〜76)


放射率: η →0.5〜3.0%

河津町に轟いたソニックブームの音圧レベルを約75 dB. また異常事態発生地点からの距離約14 kmと設定すると

✴︎放射エネルギー ≒ 10⁴〜10⁵ J.



第3章 – 結果と考察

エネルギー特性: η ≒ 0.5 % ⇒ 垂直尾翼を破壊するのに十分な局所的衝撃波(約1〜2 kg TNT相当)荷重である。

空間的整合性: 準球面放射により. 河津町(約14km) 城ヶ島(約55km) 箒木山(約12km)に距離による時間差をもって到達したことが説明された。

スペクトル整合性: τ = 30〜40 ms は箒木山で 12〜16 Hz を. 他の観測点で可聴N波(轟音)を生じる。

⚫︎これはマッハ衝撃波の過渡的な反射や干渉が垂直尾翼と機体尾部の破壊に関与したこと. また与圧空気の噴出は音源にならないことを示唆している。 


◉JAL123の後方からマッハ数1.2前後の超音速機が至近で通過した場合. 尾翼を直撃した斜め衝撃波+反射衝撃波が方向舵接続部で干渉し. マッハ衝撃波(垂直衝撃波)を形成。これにより局所的に球面状の爆発現象に近い衝撃波が発生し多方向に伝播した。

通常の「爆発物ではない限り衝撃波が多方向に伝播するのは考えにくい」という静的破壊とは異なり. 本件では 斜め衝撃波干渉+構造破壊による局所的爆発的放出 の複合事象で説明される。すなわち. 18:24′35″ JAL123の尾翼破壊時に生じた圧力波が. 距離差に応じて各地で観測されたとする仮説が物理的にも最も整合的となる。

[捕捉]

圧力隔壁破断などの内部破壊による与圧空気の噴出は. チョーク(縮流)することにより音速を超えられずに本格的な衝撃波は生じ得ない。また過渡的な現象に発展する条件もない。よって噴出流が生じても轟音や圧力波として地上へ伝播することは考え難い。


付録A – 方程式


波形モデル: 衝撃波のN波に近似する三角波に見立て P _rms = P _pk /√3

音圧レベル換算 L = 20 log ₁₀ (P _rms / 20μPa)

幾何拡散 球面p ∝ 1/r,  円筒η ≒ τ × 10^(L/10)


付録B - グラフ


図①  Freqency   Envelopes for  τ =30〜40ms 

「受音パルス幅30〜40msに於いては低周波音領域が支配的である」

図② Frequency Envelope showing 12〜16 Hz dominance.

「12〜16Hzを含め低周波音領域に優位性がみられる」


参考文献

1. Anderson, J. D. (2003). Modern Compressible Flow (3rd ed.). McGraw–Hill.

2.Courant & Friedrichs (1948). Supersonic Flow and Shock Waves. Interscience.

3.Liepmann & Roshko (1957). Elements of Gasdynamics. Wiley.

4.Henderson, L. F. (1966). J. Fluid Mech., 26, 607–634.

5.Ben-Dor, G. (2007). Shock Wave Reflection Phenomena (2nd ed.). Springer.

6.Whitham, G. B. (1974). Linear and Nonlinear Waves. Wiley.